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働く女性特有の健康課題に向けた具体的支援

吉田 穂波
依頼論説
神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科

土木学会の女性会員は2023/3/31時点で正会員の6.2%と、男性会員が多数派ではあるが、学会を挙げて女性活躍の環境づくりに10年以上取り組んできたと聞く。女性の健康支援は、男女問わず先進的な勤務継続支援や離職予防の基盤となる。女性特有の健康課題を抱えながら働いていることへの理解、休暇を取得しやすい労働環境の整備などは、土木学会のダイバーシティ構築につながるのみならず若手の活躍を推進することにもつながる。ここでは、近年盛り上がりを見せる働く女性の健康支援と課題解決の概要を紹介する。

男女雇用機会均等法が施行された1986年以降、生産年齢人口における女性の就業率は上昇傾向にあり、2021年の労働力人口総数に占める女性の割合は 44.6%となっている。少子高齢化の進行により、15~64歳の生産年齢人口は1995年をピークに男女ともに減少しており、今後さらなる減少が予想される。

出典:内閣府 男女共同参画局. 男女共同参画白書平成29年版 第1節 働く女性の活躍の現状と課題
出典: 厚生労働省 雇用環境・均等局. 令和3年版働く女性の実情
出典:内閣府. 令和4年版高齢社会白書 第1節 高齢化の状況

こうしたなか、「女性が働きやすい社会づくり」と「女性の多様な働き方の実現」を謳った女性活躍推進法(2022年)のもと、女性が働き続けるための環境整備や管理職・役員などへの女性登用度を上げ、多様な人材を生かすことで生産性を高めることを目指した取り組みが進められつつある。また、政府は2024年度に女性の健康に特化した国立高度専門医療研究センターを開設する方針を固めるなど、女性の健康課題とその支援は今や国を挙げての重要な政策課題となりつつある。

女性は一生を通じて心身ともに女性ホルモンの影響を受けるため、疾病罹患率や寿命には性差があり、各ライフステージにおいて必要なケアも異なる。思春期から閉経まで、女性は月経困難症や月経前症候群(premenstrual syndrome, PMS)などの月経随伴症状、不妊治療や妊娠・出産に伴う通院・受療、骨粗鬆症や更年期障害などの疾患に向き合うこととなる。

女性特有の健康課題は、日常生活の質だけでなく労働生産性にも影響を与え、さらには経済損失にもつながることが指摘されている。先行研究では、月経随伴症状は仕事のパフォーマンスに影響を与えることが示唆され、2013年に発表された研究では、74%の女性が月経随伴症状に悩まされており、その症状により労働生産性が17.2%低下したことが明らかになった。この生産性の低下は社会の大きな経済的負担につながり、その年間総経済負担額(月経症状に関連する外来受診費用、一般用医薬品の使用費用、労働生産性の低下に伴う損失を含む)である6,828億円のうち労働生産性の低下は経済的負担の71.9%(4,911億円)と試算されている。

女性の健康課題の解決について、経済産業省は2019年に健康経営銘柄の選定基準に女性の健康保持・増進に向けた施策を取り入れた。これは、働く女性の増加や女性の活躍を背景とした女性特有の健康課題に対する高い社会的関心や企業自身の問題意識を反映したものといえる。企業による取り組みとしては、生理休暇や、子宮頸がん・乳がんの検診費用補助や就業時間中の受診促進、婦人科医や保健師との連携などが行われている。

女性の健康に関連した調査研究では、運動や睡眠、健康知識(ヘルスリテラシー)の充足により月経困難症や更年期症状を緩和する効果等が明らかになっている。日本医療政策機構実施の調査結果によると、ヘルスリテラシーが高いとPMSの身体的・精神的な不調による職務遂行能力損失の指標(プレゼンティーイズム)が有意に少なく、パフォーマンスが良好であったことが報告された。また、筆者が所属する神奈川県立保健福祉大学イノベーション政策研究センターは、三菱地所株式会社、株式会社ファムメディコと連携し、東京都市部で働く女性をターゲットに、働く女性の健康課題の把握と解決策の検討を目的とした産学医連携プロジェクト(「まるのうち保健室」)を推進している。2022年9月に調査を行った結果を『働く女性健康スコア2024年度報告書』としてまとめ、「周囲のサポートがある」と感じている女性の方が月経困難症・PMS・更年期症状が緩和し、ワークエンゲージメントや仕事満足度が高いことを明らかにした。上記プロジェクトでは、サポートを得やすい勤務環境の整備等、健康推進につなげるための具体的な健康支援策を提案し、定期的に発信しているところである。

ライフイベントをキャリアの中に組み込み、健康に働き続ける土壌をはぐくむことで、土木学会が会員の不安や悩みに寄り添い、変動の大きな時代にますます発展されるよう祈念している。

第203回 論説・オピニオン(2024年4月)



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