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【小説】愚か者 赤線と恋を荒らすー(前書き)

こんにちは、作者のいとう満です。
この物語は、赤線が廃止になる数年前、昭和30年から始まります。

赤線とはー

性風俗の混乱を恐れた国が慰安所として許可を出した特殊飲食店街。
半ば公認で売春が行われ、警察の地図に赤い線で囲ったため、赤線と呼ばれた。ー


<あらすじ>

この男、愚か者なり…
船乗り浜やん、恋人のマリと公認の売春地帯・赤線を荒らす!

 ネオン煌めく東海一の赤線街・名楽園、京都・橋本の歓楽街、博多の新柳町などが物語の舞台。
浜やんは、マリを“売って”店から周旋料を奪う計画を立て、仲間も加わり決行。追っ手の影に怯えながら夜行電車での逃避行が続く…青春ウラ街道劇である。
そしてある日― 恋人のマリが囚われの身となった。絶体絶命のピンチに、浜やんの背中を押したのは、馴染みの娼婦・千秋だった。千秋とは何かとウマがあった。
浜やんは、明日マリを助けに相手の店に乗り込むという。
殺るか、殺られるか…“最後の夜”に千秋に会いに来たのだ。せめて今夜は、意味のある夜にしたい。

「あんたは、昔からたった一人でも勝負が出来た。そこが凄いところだよ。
いろんな男を見てるけど、何処を探したって、そんな人殆どいない。
男の価値はそこだけさ。」

人の匂いを嗅ぎ分ける術は、己の体ひとつ。そんなふうに生きている千秋に褒められることは、以前にも度々あった。そして今夜も又、である。

「この先あんたにどんなことがあっても、私は誇りに思うわ。私にはこういうお客がいたって…」

そこまで言ってくれる千秋に、嬉しくて涙が出た。千秋の本物の情けに初めて触れたような気がした。

「あんたが惚れた女だ、命投げ出したって助けてやりな。男だったらやらにゃぁ。それが出来ないくらいだったら、女なんかに惚れちゃ駄目だ。お月様に笑われる。」

千秋の振り絞るような声が響いた。
千秋は、囚われの身となったマリと、赤線に縛り付けられている我が身を重ね合わせているようだ。

続き > 第一章 赤線の灯が消える⁉ ヤバイ、あの計画を!
―横浜・永真カフェ―(前編)


この物語はフィクションです。登場する団体、名称、人物等は実在のものとは関係ありません。


<著者紹介>いとう 満

もと民放TVニュース特集プロデューサー
事件・行政等の取材記者を経て、ニュース特集を担当。「ニッポン紛争地図」「憤激リポート」の2本を約15年放送。それぞれ視聴率1位を長年にわたり達成。日本民間放送連盟賞を2度受賞。
「何でも見てやろう」(講談社文庫)の著者で、「朝まで生テレビ」(テレビ朝日)でもお馴染みだった論客・小田実氏(作家・故人)と組んで、ルポルタージュを多数制作。

 現在は会社を経営し、国・自治体の普及啓発事業、大学・企業のPR、テレビニュースのディレクター派遣等を行い、執筆活動にも力を入れている。

 好きな映画は、フェデリコ・フェリーニ監督の『道』、邦画では『飢餓海峡』、『にっぽん昆虫記』、『砂の器』等。特に、今村昌平監督が好きです。


<参考文献>

兼松佐知子(昭和62年)『閉じられた履歴書 新宿・性を売る女達の30年』朝日新聞社

木村聡(写真・文)(平成10年)『赤線跡を歩く 消えゆく夢の街を訪ねて』 自由国民社

木村聡(写真・文)(平成14年)『赤線跡を歩く 続・消えゆく夢の街を訪ねて2』自由国民社

澤地 久枝(昭和55年)『ぬくもりのある旅』文藝春秋

清水一行(平成8年)『赤線物語』 角川書店

新吉原女子保健組合(編)・関根弘(編)(昭和48年)『明るい谷間 赤線従業婦の手記 復刻版』土曜美術社

菅原幸助(昭和62年)『CHINA TOWN変貌する横浜中華街』株式会社洋泉社

『旅行の手帖(No・20)』(昭和30年5月号) 自由国民社

 ※近代庶民生活誌14 色街・遊郭(パート2)南 博  三一書房(平成5年6月)

名古屋市中村区制十五周年記念協賛会(編)(昭和28年)『中村区市』(名古屋市)中村区制十五周年記念協賛会

日本国有鉄道監修『時刻表(昭和30年)』日本交通公社

日本遊覧社(編)・渡辺豪(編) (昭和5年)『全国遊郭案内』日本遊覧社

広岡敬一(写真・文)(平成13年)『昭和色街美人帖』自由国民社

※戦後・性風俗年表(昭和20年~昭和33年)

毎日新聞出版平成史編集室(平成元年)『昭和史全記録』 毎日新聞社

松川二郎(昭和4年)『全国花街めぐり』誠文堂

森崎和江(平成28年)『からゆきさん 異国に売られた少女たち』朝日新聞出版

山崎朋子(平成20年)『サンダカン八番娼館』文藝春秋

吉見周子(昭和59年)『売娼の社会史』雄山閣出版

渡辺寛(昭和30年)『全国女性街ガイド』 季節風書店

大矢雅弘(平成30年)『「からゆきさん=海外売春婦」像を打ち消す〈https://webronza.asahi.com/national/articles/2018041300006.html〉令和2年12月14日アクセス 朝日新聞デジタル

※参考文献の他に物語の舞台となっている地などで、話を聞いた情報も入れています。取材にご協力いただいた皆様に感謝いたします。ありがとうございました。

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