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映画関係会社に雇用され、労働問題が起きたら(JFP取材vol.06 東映元AP)

2021年以降、日本映画界ではハラスメントや労働問題が顕在化しています。

2021年秋に、東映元APの方が「過重労働とセクハラの改善を求める」下記の記事を投稿し、大きな反響がありました。

2022年春には【第2報】の記事が公開され、4月14日、東映が中央労働基準監督署(以下、労基署)より、労働基準法違反で是正勧告を受けたことが明らかに。

その他にも、映画宣伝会社「ドロップ」が労働基準法違反を疑われる不適切な求人情報を掲載。Twitterで批判され、「不適切だった」と会社側は謝罪しました。

映画関連会社で働く人々が労働問題に陥った場合、どのような対処法があるのか?

東映元APと、総合サポートユニオンに話を聞きました。※東映元APは東映の現職社員です。

▼どこに相談すべきか

JFP:総合サポートユニオンを通じ、交渉に至った経緯を教えてください。

東映元AP:過重労働が激化したタイミングで、これはどうにかならないのかと考え、「メディアで働く女性ネットワーク」に加入しました。そこで「ブラック企業の相談窓口」である総合サポートユニオンを知り、連絡したんです。

ユニオンは最後の駆け込み寺と考えていたので、最初は東映社内でホットライン・人事部・会社の先輩など、様々な方法を検討しましたが、結局全て流され、うまくいかなかった。

最終的に、総合サポートユニオンに相談したら、順当に話が進みました。ユニオンに入る前は「組合のイメージは少し怖いなあ」と感じてましたが、全然想像と違いました。

一人で人事部と交渉することもできますが、負担も大きいし、人事異動で飛ばされてしまう懸念もある。でも、「ユニオンを通じて、労働者の権利が保護されながら、セクハラ・過重労働の問題提起できる、交渉できる」とわかってホッとしました。

▼ユニオンを通じ交渉するメリット

ユニオン:ユニオン(労働組合)を通じ交渉すると、法的な保護も強いです。これは憲法で保障されています。労働三権、労働組合法があって、そこに団体行動権がある。交渉を進めるために、その交渉力として必要な宣伝や行動をすることが権利として保障されているんです。「正当な組合活動は、民事的・刑事的な賠償の対象にはなりませんよ」ということです。

「民事刑事免責と不利益取扱いの禁止」が法律で定められているので、原則、ユニオンの行動に関わることで訴えたり、不利益な扱いをしてはいけないと法律に記されている。それが労働者の強い保護になるんです。

ですので、東映元APがnoteに団体交渉の顛末を記すことも、例えば、名誉毀損で訴えられることから守られるわけです。

やはり、個人で声を上げた人がスラップ訴訟を起こされることが非常に多い。ユニオンに加入し、安心して交渉に取り組めるというのは大きいと思います。法人格を通じて交渉することで、法的に保護され、ニュースなどにも取り上げられやすくもなります。

▼労基署の是正勧告に応じない東映

東映AP:総合サポートユニオンに加入し交渉することを決め、9月に人事部長と会って、今後はユニオンを通じて交渉する旨を伝えました。

人事部長は初めてのことだったからか狼狽し、「撮影現場の特殊性もあり対応できなかった」などの謝罪の言葉があった。しかし、その後すぐ1回目の団体交渉が始まると、弁護士が入ったのか、「一部不適切な取り扱いもあったとは思いますが、こちらとしては違法であったとは感じておりません」と口を閉ざすようになり、話し合いになりませんでした。

11月、2回目の団体交渉では、テレビ企画制作部部長が30分で退席してしまい、東映の弁護士が声を荒げて横槍を入れ、話し合いにならなかった。この交渉で初めて東映側の弁護士が参加しましたが、何を言っても弁護士が「その主張はどうなんだ?」と野次を飛ばしてくる状況でした。

その後、noteで状況をオープンに発信することを決めました。

対外的な発信により、東映側の態度の軟化があるかと思ったのですが、それもなく、私が精神的に参ってしまって・・・半年ほど交渉をやめて休養しました。

その後、過重労働や未払い残業代などについては、第三者機関である労基署(労働基準監督署)にも相談し、是正勧告が出たので、2022年4月に記者会見をしました。しかし、4月中に是正するよう労基署が勧告したにも関わらず、対応してもらえませんでした。

その後、5月に3回目の団体交渉を再開しましたが、これも結局「残業代は7万円と算定したので、その振込をもってこの議論は終了します」という文書を読み上げられるだけで……。私の計算上、120万円は未払い残業があるはずだったんですが……。私以外の該当社員は、全員昨年の12月に自己申告した額が振り込まれていたのに……。

▼依然としてサービス残業を強いる東映

JFP:労基署から東映に是正勧告が出た後、社内ではどうなったのでしょうか?

東映元AP:「何を改善しましたか?」と聞いても、仕事量をすぐ減らすことはできないから、毎朝メールで「残業時間は月70時間以内にしなさい」と送る程度しかやっていないと聞いています。

該当部署では固定残業制が撤廃され、計算したとおりの残業代が支払われるように変わったようです。でも、残業時間が月70時間を超えると怒られてしまう。私の場合、残業時間70時間は2週間ぐらいで、すぐに超えてしまってましたから・・・。そういう状況だと、仕事が終わらなければサービス残業になってしまう。根本的な解決には至っておらず、本当に難しいなと感じています。

▼社内組合の対応

東映元AP:セクハラ対応については停滞しています。全体を通して、「あなたのためですよ」と言って、うやむやにされている印象がありました。

社内にも組合があります。ですが、社内組合はもちろん社員で構成されていて、映像部門の働き方については「これは仕方ない、そういうもの」という東映社内の共通認識があったように感じています。ハードな働き方をやめたら番組が作れなくなってしまうよね、と。

「社内組合に相談しても、私の悩みはなだめられるだけだ」と感じてしまいました。というのも、「相談しても労働環境は改善されなかった」という先輩たちの話を聞いていましたし、社内組合と人事部が団体交渉しても、固定残業制が変わることはなかったので。

実際、サポートユニオンと「協定書を作りましょう」と東映に持ちかけても、「社内組合が代わりに協定書を作ります」と跳ね返されたので、不信感があります。

▼フリーランスの現場スタッフにも届くように

東映元AP:東映だけではなく、周囲で映画配給・制作会社などに就職した人たちも、話を聞くと「映画が好きで、憧れの業界に入れた」ということで、なかなか課題解決に動こうという気持ちにならず、「そんなもんだよね」と諦めている印象があります。

でも私は、このままでは会社も、撮影現場も変わらないので、諦めたくない。睡眠不足で休息もなく、ハラスメントも横行していて、信じられないほどハードな労働環境ですから。

JFP:東映元APの場合は社員ですが、他方で、映画現場を支えるフリーランスの労働問題の解決になると、どんな対処法があるのでしょうか?

ユニオン:総合サポートユニオンでは、フリーランスの相談も受けていますし、フリーランスの労使交渉をしたケースもあります。法律で言っても、労働組合法が想定してる労働者って結構広くカバーされているんです。それこそ最近フリーランスでユニオンを始めたウーバーイーツのニュースも話題ですが、撮影現場のフリーランスも労働組合法上の保護の対象になる可能性が高い。

フリーランスも、労働組合法上の労働者、要するに雇用使用者会社(プロダクションやプロデューサー)に対して従属的な立場にある以上、保護されるので、ユニオンを通じて交渉することができます。フリーランスで、何か労働問題を抱えている方も、ぜひ一度相談してみてほしいです。

▼サプライヤーの責任を問う

JFP:フリーランスの難しさに、訴え先が不明瞭な点が挙げられます。例えば、責任の所在は、現場プロデューサーにあるのか?プロダクションか?製作委員会か?あるいは、製作委員会の幹事会社か?とにかく、分かりにくい。

ユニオン:"サプライヤーの責任"という考え方があって、「雇っている、契約している会社に責任があるのはもちろんですが、取引業者や、自社のサービスや製品を成り立たせている会社の雇用環境についても、責任がある」という考え方が国際スタンダードになっています。

明文化された法律ではありませんが、例えば仮面ライダーなら、制作するのは東映だけれども、テレビ朝日(放映)やバンダイ(おもちゃ販売)がサプライヤーにあたりますね。そうした考え方で申し入れをしたり、社会的責任を問うということもユニオンの持つ団体行動権の一環としてできるんです。つまり、労働現場での問題責任が見えにくくても、その労働から利益を得ている会社には責任がある。そういった大きな枠組みで問題提起することもできます。

加えて、日本の場合、企業別の労使関係になっているので、下請け企業の社員やフリーランスの労働条件を守る組織がほとんど存在しないという問題があります。海外だと、「ユニオンの労使交渉に対して業界団体が対応することで、労働者側と使用者側の健全な関係を生み出す」という意識があるんです。

つまり、歴史的に見ると、ユニオンの活発化が業界団体の機能を強めるわけですが、日本ではそうなっていないということが多々あるということですね。

▼これからのために

東映元AP:私の先輩たち、制作部門の人たちの多くが退職しているんです。あまりにブラックな働き方なので、他業種や同じ業界の働きやすい職場に転職してしまっている。

でも、私はここで辞めてしまうのではなく、改善に向け出来ることはやりたい。そして映像業界の他のところにも波及して、全体の働き方が改善されてほしい。

「もうここは転覆しかけている船だから」って自嘲気味に先輩が言うんです。でも、私は後輩たちに同じ思いをして欲しくないなと思っています。

(取材・編集:近藤香南子・歌川達人)

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。

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