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小説|腐った祝祭 第一章 20

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 ナオミの実家から手紙が来たのは、プロポーズをして一週間ほど経ってからだった。
 その途中で11月になっていた。
 以前にもナオミ宛に手紙は来たようだが、今回の手紙はサトルも見せてもらえた。
 会社の方には連絡をして、残っている有給休暇を全て回して休暇の延長をしてもらえたらしい。
 その上で、本当に会社を辞めるつもりなのかを問う内容だった。
「君はこのあいだの手紙に、結婚のことは書いていないみたいだね」
「急にそんな知らせを出したら、みんな驚くと思って」
「まあ、そうだろうけど、知らせないことにはいつまで経っても結婚できないよ。今度は私からの手紙も入れてもらえないか?」
「ええ。私も、なんて書いていいのかよく判らなくなっちゃったの」
「執務室から電話がかけられるよ。私がいなくても、クラウルに言って使っていいからね」
「ありがとう。なかなか向こうと時間が合わないから、そのうちね」
「そうか。それもそうだ。機器を使って報告ってのも、なんだか薄っぺらな感じがするし、手紙が一番かな」
「私が一度帰るのが、一番じゃない?」
 サトルはナオミを抱きしめて囁く。
「駄目だと言ったら怒るかい?私は君を一時も手放したくないんだ」
「囚われの身なのね」
 ナオミはクスクスと笑った。
「そうだよ。まんまと罠にかかったね」
「やっ、くすぐったいわ」
 サトルの口がほとんど耳にあたっていたので、ナオミは肩をすくめて逃げる。
 じゃれているうちにサトルは、ナオミの体がいつもより温かいことに気付いた。
 頬に手をあて、額に額をあてる。
「熱があるんじゃないか?」
「え、そうかしら?」
「医者を呼ぼう。常駐医師はいないけど、すぐ表の医院と契約しているからすぐに来てくれるよ。使用人たちの健康診断にも定期的に来てもらっている。なかなかの人物だ。威張ってないから君はきっと驚くだろうね。知ってるかい?わが母国の医者ほど威張ってる医者はいないんだよ。世界的に珍しがられているくらいさ」
「それは嬉しいけど、お医者様を呼ぶほど具合は悪くないわ。私、あまり病院って好きじゃないし」
「病院ごときやしないよ。優秀なドクターが一人やってくるだけだ。クラウルに頼んでこよう」
「でも、頭は痛くないし」
「駄目だよ」
 サトルはナオミを抱き上げて、ベッドに移動させた。
「大人しく寝ていなさい」
「過保護よ。私、このままだと、もやしっ子になっちゃうんだわ」
「おや、もやしは見かけによらず栄養が豊富な健康野菜なんだよ。色白だし、私は大好きだね」
「ふん」
 拗ねたナオミはベッドに潜り込んだ。


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