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天風の剣

130
右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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【創作長編小説】天風の剣 第130話

【創作長編小説】天風の剣 第130話

第九章 海の王
― 第130話 出口は、きっと自分で見つけられるはず ―

 キアランさん、シトリンちゃん――。

 アマリアは、自分自身のことより、キアランやシトリンのことを案じていた。
 あの瞬間、キアランを抱え、シトリンは間一髪、獅子の牙から逃れたように見えた。しかし、自分の夢の中に来てくれた彼らが、無事それぞれの自分の体に戻れたかどうか、気がかりだった。

 ズン……。

 腹の底に響くよ

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【創作長編小説】天風の剣 第124話

【創作長編小説】天風の剣 第124話

第九章 海の王
― 第124話 携行食 ―

「花紺青っ!」

 鈍い音がした。
 パールの尾が、花紺青の操る板を直撃し、そこから続けざまに花紺青の後頭部にも激突していたようだった。
 板もろとも花紺青、キアランは落下する。

 花紺青――!

 垣間見えた花紺青の表情は、うつろで――、意識を失っているようだった。

 うっ!

 強い風と共に、なにかが迫る。それは鱗に覆われた、パールの尾。

 

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【創作長編小説】天風の剣 第125話

【創作長編小説】天風の剣 第125話

第九章 海の王
― 第125話 悲しみの向こうの光 ―

 吹き荒れた嵐が嘘のように、晴れ間が広がっていく。

 花紺青は――。

 パールの尾に弾かれ、意識を失ったまま落下してしまった花紺青。キアランは、彼が無事かどうか、一刻も早く知りたいと切に願った。カナフとシルガーに尋ねようと急いでキアランが口を開いた、まさにそのとき――。

「キアラン、無事でよかったー! 心配したよー」

 大きく手を振

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【創作長編小説】天風の剣 第126話

【創作長編小説】天風の剣 第126話

第九章 海の王
― 第126話 人形 ―

 魔導師オリヴィアや、アマリア、魔法を操る者たちは、圧倒されるようなエネルギーの爆発を感じていた。
 
 きっと、また高次の存在が……!

 激しい風雨に全身を打たれつつ、アマリアは愕然とした。
 またしても、四天王パールが高次の存在をその身に取り込み、変容が起きたのだと悟る。

 あ……! 緑の光が……?

 アマリアは、それと同時に、自分に起きた変化

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【創作長編小説】天風の剣 第127話

【創作長編小説】天風の剣 第127話

第九章 海の王
― 第127話 怒りに突き動かされるのではなく ―

 なにか、胸騒ぎがする――。

 ギャアギャアと、夕空に黒い鳥の声が響く。
 キアランは、フェリックスの手綱を握りつつ、落ち着かない心持ちでいた。
 キアランとシルガーと花紺青は、シルガーの作った空間を移動し、ダンとライネは陸路を進む。
 白銀と黒羽は、ダンとライネについていくようだった。
 と、いうのも白銀と黒羽が申し出ていた

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【創作長編小説】天風の剣 第128話

【創作長編小説】天風の剣 第128話

第九章 海の王
― 第128話 深い眠りに囚われて ―

 薄暗い森に、音もなく降り積もる粉雪。
 もうじき、森は眠りにつく。

「シトリンッ」

 フェリックスの背から降りるやいなや、キアランはシトリンのいる洞窟内へと急いで駆けこんだ。

「いない……!」

 キアランは、愕然とした。洞窟の中は、なんの気配もなく静まり返っていた。シトリンも翠も蒼井もいないようだった。

 シトリンがいなければ、

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【創作長編小説】天風の剣 第129話

【創作長編小説】天風の剣 第129話

第九章 海の王
― 第129話 夢を支配するもの ―

 白く凍った地平線が、暁色に染まっていく。
 一晩中探しても、アマリアの気配すら掴めなかった。

「アマリアおねーちゃん。起きなかった」

 申し訳なさそうに、シトリンが告白した。長いまつ毛が、かすかに震えている。
 キアランが長いため息をつき、口を開く前に、シトリンは急いでその先の言葉を続けた。

「でもね、でもねっ。アマリアおねーちゃん、

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