マガジンのカバー画像

天風の剣

139
右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
運営しているクリエイター

2024年2月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第109話

【創作長編小説】天風の剣 第109話

第九章 海の王
― 第109話 私の美学 ――

「ああ……! 君は、あのときの……!」

 パールは、アンバーに美しい微笑みを送る。
 広大な空に浮かぶ、笑み。それは、空の上という舞台、そのパールの体の異様な大きさと姿形、そして今までの恐ろしい所業と因縁を知らなければ、懐かしい友とのあたたかな再会の一幕に見えるものだった。
 パールの笑顔には、邪気がなかった。晴れ渡る空のように、透明で、輝いてい

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第110話

【創作長編小説】天風の剣 第110話

第九章 海の王
― 第110話 力と格 ――

 空を走る閃光。
 四天王パールと四天王アンバーの力と力がぶつかり合う。

 ゴオオオオオッ……!

 四天王パールの巨大な口から、衝撃波が放たれる。それは、轟音とともに雲を散らし、いくつもの山の上を超えていく。
 四天王アンバーと、その従者の白銀と黒羽、それから四枚の翼を持つ高次の存在であるシリウスは、強烈な衝撃波をかわし続けた。
 彼らは、なるべ

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第111話

【創作長編小説】天風の剣 第111話

第九章 海の王
― 第111話 永遠の関係、それが幻想だとしても ――

「アンバー様。あたたかいうちに、どうぞお召し上がりくださいませ」

 それは、深海でのパールとの戦いの、一週間ほど後のある日。
 紫の空に、ぽつりぽつりと星が生まれ始める。食欲をそそる肉の匂いを運ぶ、たなびく白い煙。
 白銀は、主人であるアンバーのためにと夕餉の準備をしていた。

「アンバー様。この木の実のスープもどうぞ。滋

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第112話

【創作長編小説】天風の剣 第112話

第九章 海の王
― 第112話 最期の時間くらい ――

「これは、あのときの術……」

 四天王パールは、うつろな瞳で呟いた。
 四天王アンバーの術「封印の鎖」が、パールの尾の部分からすぐに全身へと広がっていく。
 やがて、パールの動きが止まった。

「よかった……。一応、術が効いているようですね」

 冷静な声でアンバーは呟く。

「この前のときより、私自身の状態はよいですが、やつの力自体が格

もっとみる
【創作長編小説】天風の剣 第113話

【創作長編小説】天風の剣 第113話

第九章 海の王
― 第113話 一緒だね ―

 若い魔導師と年老いた魔導師が結界の外である、吹きすさぶ純白の景色を見つめていた。
 ノースストルム峡谷は、いまだ吹雪に包まれている。

「お師匠様。天風の剣で永遠に空の窓を閉じられるという彼らの話は、本当でしょうか?」

 若い魔導師が、自身の師である老魔導師に尋ねる。

「おそらく、真実であろう。キアラン殿とすれ違った際、とても力強く神聖な波動を

もっとみる