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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2023年12月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第97話

【創作長編小説】天風の剣 第97話

第八章 魔導師たちの国
― 第97話 人々の行列と、人外の近況 ―

 月が高く昇っていた。
 ろうそくの明かりは、とうに消えていた。
 それでも、ヴィーリヤミは新しいろうそくを灯すわけでもなく、魔法による光を発そうともせず、ただぼんやりと暗闇の中、机に向かっていた。
 とても眠れそうになかった。
 気だるそうに立ち上がり、洗面台へ歩いていく。
 自然と視界に入ってくるので、確認するまでもない。し

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【創作長編小説】天風の剣 第98話

【創作長編小説】天風の剣 第98話

第八章 魔導師たちの国
― 第98話 年輪 ―

 ふう。

 ひとり、ため息を吐く。
 緑の絨毯に広がる、艶やかな黒髪。
 苔むした大地は、身を横たえるのにちょうどよかった。

 予想以上に、回復が遅い。傷が案外深かったのと、急所に近かったこと。それと――。

 金の光を宿す目を、忌々しげに細める。

 やはり、天風の剣の力か。

 四天王オニキスは、顔にかかるシダの葉をよけるともなくいたずらに

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【創作長編小説】天風の剣 第99話

【創作長編小説】天風の剣 第99話

第九章 海の王
― 第99話 髪形の話 ―

 キアランたち守護軍は、北へ進む。

「魔の者の群れだ……!」

 キアランの鋭い感覚は、迫りくる魔の者の群れを感知した。
 それは、青空を覆うような大群だった。

 一体一体の大きさとしては、虫のように小さい……。だが、魔の気配は決して弱いわけでもなく、尋常じゃなく数が多い……!

 まだ実際には距離があったが、キアランの金の瞳は、あたかも間近にいる

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【創作長編小説】天風の剣 第100話

【創作長編小説】天風の剣 第100話

第九章 海の王
― 第100話 軽やかな矢 ―

 守護軍の隊列は、しばしの休憩をとっていた。
 
「ヴィーリヤミ卿。先ほど、キアランとなにか……?」

 オリヴィアが、つかつかとヴィーリヤミのもとへ近付き、強い口調で問いかけた。
 ヴィーリヤミは、心ここにあらず、といった感じでぼんやり座っていたが、オリヴィアの声がようやく今耳に届いたといった様子で、

「え? あ。先ほど……?」

 ゆっくりと

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【創作長編小説】天風の剣 第101話

【創作長編小説】天風の剣 第101話

第九章 海の王
― 第101話 優しい雪 ―

 冷たい雨が降り続いていた。やがて、雪になるかもしれないとのことだった。
 守護軍の隊列は、北上をやめていた。
 四聖のフレヤが、高熱を出したのだ。
 皆も疲れが出始めるころだろうとのことで、二、三日はこの場に滞在することとなった。ちょうど、その地は魔の者をあまり寄せ付けない、清浄な森ということもあった。

「ダン……!」

 フレヤの馬車のいる隊列

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