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その顔を、となりで見てみたい。


となりのトトロ」が見たい。

いや、見せたい。
長男に。 


最近、偶然にも「となりのトトロ」の歌を知った長男。
すっかり気に入ったようで、毎日「トットロ、トットーロ♪」と口ずさんでいる。

かわいい。
トトロが何かも、知らないのに。


わたしはジブリが大好きなので、いつか我が子とジブリを見ようと決めていた。
でも、まだ早いかなあ、うちにはDVDデッキがないからなぁ、とタイミングを探っていたのだ。

これ、来たか?
今?
今がトトロデビューのとき?

しかし先ほど述べたとおり、うちにはDVDを見られる環境がない。
ジブリ作品は、アマプラなどの配信もないし、テレビで放送される予定もなさそう。
すぐに見せる方法が思いつかない。

これは、本に頼るしかない

そんなわけで、よく見かけるけど一度もひらいたことのなかった、大きくて分厚いあのシリーズ。
徳間アニメ絵本の『となりのトトロ』。
すぐに、図書館で借りてきた。


初めてひらいて、おどろいた。
セリフがぜんぜんちがう。
映像にはなかった描写がある。
逆に、省かれているシーンもある。

当たり前だ。
映像と本とでは、必要な要素がちがう。

トトロのおばあちゃんのセリフが、あの訛ったまんまで書かれていたら、子どもはちんぷんかんぷんだろう。
トトロの吠え声が、それっぽい日本語で書かれているのも、違和感があるが仕方ない。

映画を何度も見て、セリフも覚えている身としてはすこし不満だったが、わたしが読むのを黙って聞いていた長男は、すんなり物語に入り込んだ。


読みながら、けっこう酷な話だなあとおもう。
10歳のサツキ。
家事も妹の世話もこなす、優しい少女。
こんな子、たぶんどこにもいない。

サツキは今でいう「ヤングケアラー」だというのもよく見かけるけど。
それよりも、鈴木敏夫が「こんなことさせてたら、将来サツキは不良になる」と宮崎駿に告げた話が好きだ。

そのときは怒りましたけど、宮さんはこれを覚えていた。もともと、他人の指摘は真摯に受け止めてくれる人なんです。
(中略)
「お、ここで泣くんですね」といったら、「泣かせた」と言うんですよ。そして、「鈴木さん、これでサツキは不良にならないよね」。ぼくが「なりません」と言うと、宮さんは「よかった」と喜ぶ。いい大人なのにもう子どもみたいですよ。純粋な人なんだとあらためて思いましたね。

鈴木敏夫『仕事道楽スタジオジブリの現場』p.74



昔のわたしは、サツキの働きっぷりに、特に思うことはなかったが。
いろいろ知って、あらためて見ると、サツキの強さと脆さにヒヤヒヤする。


ほかにも、もう目も当てられないのが、女の子のサンダルが池で見つかるシーン。
もう、辛いって。
「それ、メイんじゃない‥」と絞り出したサツキとおばあちゃんが、へなへなと座り込む場面。
もう、わたしも座り込むよ、ほんと。


途中から、懐かしさやら、親としての感情やら、いろんなものが込み上げてきた。
うぐ。泣きそう。泣きたい。

でも、はじめて物語を楽しんでいる長男の前で泣くのはイヤだ。
邪魔したくない。
喉の奥でこらえながら、長い一冊を読みとおした。


長男は、ネコバスが気に入ったらしい。
サツキを乗せたネコバスが、電線からぶわっと飛んで、メイの目の前に降り立つシーン。
そこが、お気に召したようだ。
何度も「ここ、もっかい読んで」と言った。

そこねえ、映像で見たら、もっといいから。
ネコバスが電柱にのぼるときは、電気がバリバリなるんやで。
ネコバスのドアは、サツキが乗り降りするときだけ、窓がぼわーんって広がるんだよ。

私は、得意げに映像を語った。
横で聞いていたトトロ未通過の夫にも、読んだばかりの本で仕入れたうんちくを語った。

「トトロは、『火垂るの墓』と同時に出た作品でね、宮崎駿はそのおかげでプレッシャーが半減されて、のびのび作品がつくれたらしいって、鈴木さんが言ってたよ!」
夫は、「ふーん」という顔だった。


◇◇◇

ああ!
長男が動くトトロを見る日が、待ち遠しい!


メイが小さなトトロを追いかけるシーン。
傘を気に入ったトトロが、大ジャンプで雨粒を降らせるシーン。
トトロが夜中にやってきて、木の芽を出そうと踊るシーン。
コマに乗って飛ぶシーン。

絶対、映像で見てほしい!
そのときの長男の顔を、となりで見たい。

トトロに初めて出会った息子は、どんな顔して笑うんだろう。


来週末から、いよいよ夏休み。
なにをしようか、悩んでいたけど。

トトロのために、DVDデッキを買おうか。
涼しい部屋で、トトロ鑑賞。
それを考えるだけで、夏がすこし楽しみになった。




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