宇都木-パクジュナ

オーストラリア生まれ、韓国育ち。専門は社会・文化心理学。京都大学専任講師。二児の母です…

宇都木-パクジュナ

オーストラリア生まれ、韓国育ち。専門は社会・文化心理学。京都大学専任講師。二児の母です。 記事は夫の宇都木昭(言語学・音声学)と一緒に執筆しています。 https://sites.google.com/view/joonhaparkpsych/home

最近の記事

心理学の観点からみた異文化理解(3)

「異文化理解」の授業資料として作成した文章の続きです。第1回と第2回では、ホフステードの提唱する文化の違いを捉える6つの次元をみてきました。しかし、このモデルには批判もあります。ここでは、そのような批判を見た上で、最後に結びの言葉を述べたいと思います。 ホフステードモデルへの批判1. 代表性の問題 ホフステードの研究チームは1970年頃、約40ヶ国のIBMの社員からデータを収集した後、他の国でデータを継続的に収集したり、専門家の推定を使用しました。 IBMの社員のデータが

    • 心理学の観点からみた異文化理解(2)

      「異文化理解」の授業資料として作成した文章の続きです。第1回では、ホフステードが提唱した文化の違いを捉える6つの次元のうち、「1. アイデンティティ:個人主義・集団主義」と「2. 階層:権力格差」を説明しました。以下では3番目の次元から説明していきます。 3. 競争と達成:男性らしさ・女性らしさ ホフステードのモデルにおける六つの次元のうちの一つに、男性らしさ(masculinity)/女性らしさ(feminity)という次元があります。ただし、この次元は、最近(2023

      • 心理学の観点からみた異文化理解(1)

        このノートは2023年度の名古屋大学文学部の授業「異文化理解」の第5回の授業資料として作成したものです。講義の担当者であった夫、宇都木昭(名古屋大学)と共同で作成したものです。 はじめに:なぜ皆にとって異文化理解が必要か?皆さんは一日に何回外国人と出会いますか? 一緒に授業を受ける友人、お店の店員さん、あなたの授業を担当している先生、地下鉄の隣の席に座っていた人、その他にも街中で出会う人など、私たちは意識的、無意識的に多くの外国人と接触しているのかもしれません。つまり、単一

        • 気候変動はどれくらい深刻なのか?専門家から子供と大人へのメッセージ

          私の知人で、メルボルン大学工学部の Honorary Enterprise Professor(水資源)であり、オーストラリア気象庁の長官・CEOを歴任したロブ・ヴァーテシー博士が、2023年4月26日に名古屋インターナショナルスクールの4年生の授業で気候変動について話をしてくれた。小学生を対象とした講演だったが、その内容は大人にとっても有益だったと思う。 気候変動に対する認識については私も共同研究をしたが、日本をはじめとするアジアでは、気候変動に対する認識やそれによる不安

        心理学の観点からみた異文化理解(3)

          東アジアの人々は自分の要求を抑えるのか:世界との対話における文化の違い

          これは京都人について語るときによく出てくる話だ。京都では家に来た客にそろそろ帰ってほしいと思ったとき、お茶漬けを勧めるのだという。実際にそのように言う京都人がいるのかどうかはわからないが、本当の意図を直接的に言わずに全く別の表現をするということは、日本人の多くの対話の中に見られると思う。このような対話の方式は、話し手の意図を聞き手が理解してくれるだろうという期待の心理があるからこそ成り立つのだろう。つまり、ひとつの空間の中で共有される空気、すなわち文化的規範が存在しているのだ

          東アジアの人々は自分の要求を抑えるのか:世界との対話における文化の違い

          連絡帳のデジタル化:社会変化のスピードに関する日韓の違いについて

          連絡帳という日本文化子供が小学生になって不思議に思うことの一つに、連絡帳がある。日本では、小学生の保護者と先生との連絡は、今も紙の連絡帳を用いているところが多い。連絡帳には、教室で先生が板書した連絡事項を子供が書き記すことになっている。それを親が家でチェックしてサインをする。親からの質問や連絡事項などあれば、その連絡帳に書き込む。そうすると、先生も連絡帳に回答を書いてくれる。学校を休むときには、学校に電話するよりも、連絡帳に書いて近所の子に手渡すようにと言われることが多い。

          連絡帳のデジタル化:社会変化のスピードに関する日韓の違いについて

          「よろしくお願いします」

          2022年になって最初の月がもう終わろうとしている。新年の挨拶をするには遅いかもしれないけれど、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。 日本の新年の挨拶はちょっと長い。それに、家族同士でも新年の朝には「今年もよろしくお願いします」まで言うのには、最初ちょっと驚いた。それでもいつからか、私も「よろしくお願いします」まで省略せずに言うようになった。 「よろしくお願いします」の日韓差「よろしくお願いします」は日本ではよく使う言葉だ。ふだんの生活の中で

          「よろしくお願いします」

          ブックカバーの心理学

          ブックカバーへの驚き 私が日本にはじめて来て、地下鉄に乗って目についたものがある。それはブックカバーだ。ブックカバーで包んだ本を車内で読んでいる人を、思わずじろじろと見てしまった。今思うと、失礼だったかもしれないけれど。 ブックカバー。私も韓国でも使ったことがある。学校に通っていた頃、新学期の初日に教科書をもらってくると、新しい教科書を汚さないようにブックカバーで包んだりした。最初のころは、家にあるカレンダーを使った。カレンダーの裏面、つまり真っ白な面を包装紙がわりにしたの

          ブックカバーの心理学

          私が社会文化心理学者になるまで(2)留学と異文化体験

          前の記事で、精神医学に興味を持った私が、やがて学部で心理学を学ぶようになるまでのことを書いた。今回はそのつづきを書きたい。 集団主義と個人主義学部で心理学専攻に進んだ私は、心理学の様々な科目をとる中で、文化心理学も学ぶことになった。例えば、世間でよく言われる「集団主義」「個人主義」は、この分野でよく論じられるもので、私も授業を通して接することになった。「集団主義」「個人主義」と関係する有名な研究として、H.R. マーカスと北山忍による一連の研究(例えば、Markus & K

          私が社会文化心理学者になるまで(2)留学と異文化体験

          私が社会文化心理学者になるまで(1)フロイトというきっかけ

          私は韓国人で、日本で社会文化心理学を研究している(researchmap、個人ホームページ)。私がどのようにして社会文化心理学者になったのかを、これから数回にわたって書いていきたいと思う。 私は韓国で高校に通っていた頃、実は精神科医になりたいと思っていた。小さい頃から、意識や行動が人によって違うことに興味を持っていたし、精神的に困難を抱えた人を治療して幸せにしたいと思っていたのだと思う。そんな私の関心を知って、高校の先生がフロイトの本を紹介してくれた。フロイト(Sigmun

          私が社会文化心理学者になるまで(1)フロイトというきっかけ