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私が社会文化心理学者になるまで(1)フロイトというきっかけ

私は韓国人で、日本で社会文化心理学を研究している(researchmap個人ホームページ)。私がどのようにして社会文化心理学者になったのかを、これから数回にわたって書いていきたいと思う。

私は韓国で高校に通っていた頃、実は精神科医になりたいと思っていた。小さい頃から、意識や行動が人によって違うことに興味を持っていたし、精神的に困難を抱えた人を治療して幸せにしたいと思っていたのだと思う。そんな私の関心を知って、高校の先生がフロイトの本を紹介してくれた。フロイト(Sigmund Freud、下の写真)とは、言うまでもなく、19世紀の終わりから20世紀の初めに活躍した、有名な心理学者・精神科医だ。

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フロイトの重要な研究の一つに夢の分析があるが、私自身、家族や友達と、前日に見た夢について話したり、その意味を考えたりすることは楽しかったので、興味があった。しかし、フロイトの『精神分析学入門』や『夢判断』といった本をいざ読んでみると、それは私が想像していたような内容ではなかった。フロイトは個々人の夢の意味を越えた深い夢の解釈をしているようで、私自身がみた夢とは別次元のことを語っているかのようだった。私は精神医学は深くて難しいものだという印象を持つようになった。ただ、それでも、私が「心」に関心を持つきっかけの一つにはなったのだと思う。

今日の私からみれば、フロイトをきっかけに「心」に興味を持ったというのは、いかにも素人的な経験だったと思う。フロイトはもちろん、心理学や精神医学において、学史的に重要な人物である。心理学に関していえば、「無意識」をはじめとしてフロイトが切り拓いた新たな視点は、多くの学問的な問いを生み出すことになった。それが20世紀以降の心理学の発展につながったといっても過言ではないだろう。「無意識」は私が後に学び研究する社会文化心理学にも関係している(これについては、また別の機会に詳しく書きたい)。しかし、フロイトが主張したことそれ自体は、現代の心理学においては批判的に語られることの方が多い。もちろん、高校生の頃の私は、そんなことは知らなかった。

さて、もともと精神医学に関心を持った私だったが、いつしか精神医学は文系の学問と深く関わっていて、心理学をはじめとした文系の学問からきちんと学ばなければならないと思うようになった。今思うに、まじめに考えすぎていたのかもしれない。ともかく、私は理系から文系に転向し、心理学を学べそうな学部を探して、大学の文学部に入った。

大学に入学すると、1年生のときはまだ学科に分かれないが、心理学関連の授業を受けることができた。そこで出会った心理学は新鮮だった。私はそれ以前は、心理学を精神医学やカウンセリングと関係する分野としてしか認識していなかった。しかし、大学の授業で接した心理学は、臨床心理学だけではく、生物心理学、認知心理学、発達心理学、社会文化心理学など、多岐に渡っていた。私は2年生で心理学科に接し、様々な心理学の分野を学んだ。そしていつしか、人間が社会の中で経験する様々な感情、態度、行動に関する問題を扱う分野、すなわち社会文化心理学に最も関心を持つようになった。

高校生の頃に精神科医になろうと考えていた私だったが、その基礎として心理学を学ぼうと思ってちょっと回り道したのが、いつしか心理学の世界にはまってしまった。そんなわけで今の私は、精神科医ではなく社会文化心理学者をやっている。

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