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うまく話せないから書くしかない|書くことは存在を残すこと

ジャズが部屋に満ち、心地よい夜。お酒を傾けながら、外の世界は暖かく、中の世界は静かで灰色。

心の彷徨、言葉の行方

そんな夜、心の中で言葉が彷徨い続ける。本当に伝えたいことを形にしようとしても、口からは心にもない雑音が流れ出るだけ。そんな言葉は、誰かの耳に届いても、その心の奥底には決して響かない。

言葉は、風に乗せられた砂粒のように、一瞬のうちにすり抜けてしまうもの。話す瞬間、私たちはその流れを捕まえようとしても、それはたちまちにして消えてゆく。だが、書くことにおいては、この流れが変わる。時間の流れを超え、過去から現在、そして未来へと続く一本の線を引くように、書かれた言葉は残るのだ。それが紙の上の文字であれ、デジタルスクリーンに映し出されたコードであれ、メディアの形態は重要ではない。残ることに意味がある。

主体の中に他者を組み込んで、言葉とともに溶け合う

この残された言葉を通じて、私たちは互いの距離を測り、理解を深めることができる。ここでは、あなたを客体として見ることはない。むしろ、共に言葉を紡ぎ、共に理解し合う主体として。同じ言葉の中で、互いに溶け合い、結びついていきたい。それは、ただのコミュニケーションを超えた、深い絆を求める旅である。書くことは、その旅の始まり点にすぎない。

今宵も、壊れた砂時計の砂を一粒ずつ拾い上げるが如く、消え去る言葉の音を文字へと書き留めてゆく。心の中の混沌は、この静かな作業を通じて徐々に秩序を取り戻していくように思える。しかし、本当に取り戻せるのは過ぎ去った時間ではなく、追い求める真実もまた、手の届かない幻に過ぎない。頭の中を巡る幻想を、言葉に変えて紙の上に静かに綴るだけである。

ただ、その幻想に込められた一時の書き留められた時間には、誰かに伝えたいという切ない愛情が、淡く温かく漂っている。

20240217

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