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函館市縄文文化交流センター5つの物語

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北の漁業のまち南茅部にある函館市縄文文化交流センタ-。その展示品にまつわる5つの物語です。
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#縄文

函館市縄文文化交流センター

函館市縄文文化交流センター

この建物の外壁は曲線で構成されている。いくつもの中心点から描かれた複数の円を組み合わせることによってデザインされた外観は、時の流れのように緩やかに波を打っている。だが、近づいてよくこの壁を見ていただきたい。一見すると曲線に見える外壁は、幅9センチほどの直線の連続によって造形されていることが分かる。これは、地元で伐採した杉の間伐材を製材して組み上げた型枠にコンクリートを流し込んで建築したものだからで

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1. 漆の糸(垣ノ島B遺跡)

1. 漆の糸(垣ノ島B遺跡)

その電話があったのは、1999年の8月9日の午後のこと。
受話器から、発掘調査員の坪井睦美が「墓から漆製品が出ました」と伝える声が聞こえた。私は「何かの間違いだろう。縄文早期に漆があるわけないじゃないか!」と応えた。その時、私の声は少々いらだっていたに違いない。縄文時代の漆製品が出現するのは早くて前期前半で、早期の漆製品の存在なんて考えられなかったからだ。坪井調査員はやや困惑した声で「でも、漆なん

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2.足形付土版(垣ノ島遺跡)

2.足形付土版(垣ノ島遺跡)

2002年の夏、垣ノ島川の左岸で発掘していた作業員の佐藤さんが、「先生、何か足の跡みたいのがある」と伝えてきた。見ると、長幅さ15×10cmほどの楕円形の土版に人間の小さな足形が付いている。粘土が柔らかいうちに両足を揃えて指を押しつけたのだろう。踵の跡も僅かに見える。足の大きさは7cmほどだろうか、生後間もない赤ちゃんの足だ。土版の裏側を見ると小さな手の指の跡もある。「可愛いねえ」、土版の周りに集

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3.アスファルト塊(豊崎N遺跡・磨光B遺跡・豊崎B遺跡出土)

3.アスファルト塊(豊崎N遺跡・磨光B遺跡・豊崎B遺跡出土)

これは一体何だろう。。1993年の秋、私は調査事務所の中で豊崎N遺跡出土の小型の深鉢を手に取って眺めていた。口縁部を打ち欠いた土器の中には黒褐色の塊が充填されており、土器の口を越えて盛り上がっている。表面の状況は漆の樹液が乾燥したようにも見える。
作業員たちも集まってきて、頭をひねりながら一緒に考えていた。その時、私の手の中で土器がポロッと大きく割れた。「あー、先生が壊した」と一斉に非難の声。ちょ

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4.中空土偶(著保内野遺跡)

4.中空土偶(著保内野遺跡)

1975年8月、地元の主婦小板アエさんが旧南茅部町(現函館市)尾札部著保内野の畑でジャガイモの収穫中、クワの先がガチリと何かに当たった。取り上げて土を落としてみると、目と鼻が出てきたので腰を抜かすほど驚いたそうだ。あまりに人の形に似ているので、祟りがあってはいけないと思い、すぐに近くのお寺に相談に行った。その後、中学生だった娘さんが「お母さん、これ埴輪かも知れないよ」と言って教育委員会に届けてくれ

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5.土笛形土製品(垣ノ島遺跡)

5.土笛形土製品(垣ノ島遺跡)

展示室の最終コーナーには土笛形土製品が展示されている。卵形をやや扁平にした形で、上面に貯金箱のようなスリットがある。発見した時、作業員が「先生、貯金箱が出たよ」と喜んで報告してくれた時のことが思い出される。でも、この土製品には所々煤が付いた黒い箇所があり、よく見ると樹脂で復元した跡もはっきりと分かる。なぜなら、これは火災の猛火よって焼損した土製品だからである。

2002年12月29日午後11時5

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