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恋愛小説「アッホ君と奇妙子さん」第四話

第一話は、こちらからお読み下さい。
恋愛小説【アッホ君と奇妙子さん】第一話|三遊亭はらしょう エッセイ【原田日記】|note

第二話は、こちらからお読み下さい
恋愛小説「アッホ君と奇妙子さん」第二話|三遊亭はらしょう エッセイ【原田日記】 (note.com)

第三話は、こちらからお読み下さい。
恋愛小説「アッホ君と奇妙子さん」第三話|三遊亭はらしょう エッセイ【原田日記】 (note.com)

第四話

「チャーハンは好きですか?」
朝陽門を抜けて、中華街大通りへ入る手前で、崎陽軒の店舗を珍しそうに見ている奇妙子さんに、アッホ君は尋ねた。
「チャーハン、はい、好きですよ」
お持ち帰りの店舗しか見たことがなかったのか、奇妙子さんは、中華街のオシャレな崎陽軒に、身体半分、気が行ったまま、アッホ君の方を見た。
「よかった!俺が今まで食ったチャーハンで一番うまかった清風楼っていう店があるんですよ、そこ、シュウマイもうまいんですよ」
「シュウマイも!崎陽軒とどっちがおいしいですか?」
「俺は、清風楼の方が好きですね」
「行きたいです!」
アッホ君は、奇妙子さんから崎陽軒を清風楼でねじ伏せることが出来た。
せっかく中華街まで来たのに、東京でも食べられる崎陽軒は、オシャレといえども、ここは後回しである。

清風楼は、関帝廟通りを入って、少し歩いた所にある。
「はい、もう着きました!」
「早っ!ここですか、なんか不思議な外観ですね」
「中華屋っぽくない店構えでしょ、昔は、作家の池波正太郎がここのシュウマイが好きで、よく来てたみたいですよ」
「へぇ~じゃあ、ここで、横浜シュウマイ殺人事件みたいな小説書いてたのかな」
「いや、なんなんですかそのタイトルは!」
「えっ、その人って推理小説の人ですよね?」
「いえ、時代劇ですよ、もしかして、西村京太郎と間違えてませんか?」
「あっ!ほんとだ、全然違った!わははは」
奇妙子さんは、チャーハンとシュウマイをたっぷり食べそうな位、大口を開けながら笑った。
 
「いらっしゃいませ~」
店に入ると、清潔な白衣を着た女性店員に案内された。
「二名様、ただ今、相席になります」
四人掛けのテーブルには、熟年の夫婦が向かい合って座っている。
この時間帯は混雑するようなので、最初から相席可能にしているようだ。
「大丈夫ですか?」
「はい、アッホさんがよければ、私は問題ないです」
奇妙子さんは、店内が珍しいのか、きょろきょろしながら席に着いた。
「凄い、中も、中華屋でよくある油ギトギトな感じがなくて、清潔ですね、内装が全体的に白くて、いい意味で、どこかの病院にいるみたいですね」
「いい意味で病院って、どういう意味ですか!でも、確かにちょっと」
「ね、ほら、店員さんも、看護婦に見えませんか?」
「いや、そんな、でも、ちょっと見えてきましたね」
「ね、殺人事件起きそうですよね」
「やめて下さいよ、もう、そんな風にしか見えなくなって来ましたよ!」
「ですよね、わははは」
テーブルに着くなり馬鹿馬鹿しい会話を大声でするアッホ君と奇妙子さんに、熟年の夫婦は、迷惑そうにすることもなく、むしろ、少し共感するような笑顔でこちらに向かって会釈してくれた。
「このあと他の店も案内したいんで、ここはチャーハンを一人前と、シュウマイ二人前だけにしようかと思うんですけど」
「はい、アッホさんに任せます!」
そこへ、アッホ君と奇妙子さんの中では、もう、看護婦にしか見えない店員さんがやって来た。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「はい、チャーハンと、シュウマイ二人前、そうだ、ビールとか吞みますか?」
「いいですね!」
奇妙子さんは、料理を待っている間、よっぽど店内の内装が珍しかったのか、スマホで写真を撮りまくっている。
「そうだ、アッホさん、そこの壁にそのまま、もたれかかって下さい」
「えっ、こうですか?はい、壁際に寝返りうって~♪」
「古っ!はい、撮りますよ、チーズ!」
「どうですか、ジュリーみたいに撮れましたか?」
「ぷぷぷ、病人みたいですね」
「いや、壁が白いからでしょ!」
二人が盛り上がっている所へ、店員さんが、ニヤニヤしながら、料理を持って来た。
「おまたせしました」
店員さんがニヤニヤしているのは、自分でもこの店の制服が看護婦のようだと思っているのかとアッホ君は思ったが、それよりも、中華料理屋の壁にもたれかかってジュリーの真似事をして盛り上がっている男女二人のアホさ加減に思わず呆れた笑いが漏れてしまっている可能性の方が大きい。
「凄い!チャーハンもシュウマイも、こんなに大きいんですね!」
「二人で、丁度いい位でしょ」
「ええ、早く食べたいです!」
アッホ君と奇妙子さんは、最初にアンデスに集合してから、2時間近く経っていた為、空腹のあまり、すぐに食らいついた。
「おいしい!チャーハン最高ですね!」
「そうでしょ、人生で何番目位ですか?」
「ベスト10には確実に入ります、9位くらいですね!」
「いや、全然下の方じゃないですか、この世に、清風楼よりうまいチャーハンがあと8杯もあるんですか!」
「あ~このシュウマイも最高!そうだ、アッホさん、ビールどうぞ」
「ありがとうございます、じゃあ、今度はこちらから」
「ととと、これ位で大丈夫です」
「ととと、って、久しぶりに聞いた擬音ですね、そう、シュウマイとビールも合いますが、チャーハンとビールも実は合うんですよ」
「えー、米と麦ですよ、大丈夫かな~」
奇妙子さんはそう言いながらも、楽しそうに、チャーハンをビールで流し込んだ。
中華街で色々なグルメを堪能しようと思っていたけれど、既に一軒目から満喫している二人であった。
 
清風楼を、ほぼ、お腹いっぱいで出た二人は、少し歩いた所にある占いの館の前で立ち止まった。
「アッホさん、占い、サービスタイムですって」
「500円って書いてある、これ、安いんですかね?」
「いや、めちゃ安いんじゃないですか、だって、私、昔、新宿で占い見てもらった時、1万円位とられましたよ」
「1万!そんなにするんですか、ていうか、逆に、500円だと怖いですね」
アッホ君と奇妙子さんが、占いの館を少し警戒しながら覗き混んでいると、突然、店内から、キラキラのスーツにキラキラのハットを被った、中年のおじさんが出て来た。
「いらっしゃいませ~そこのカップルのお二人、いかがですか?」
「えっ、私たちですか?」
「はい、どうぞ中へ、よく当たりますよ」
いきなりカップルと言われて、二人ともドキッとした。
「アッホさん、占いやって行きます?」
奇妙子さんが、ニコッと笑った。


 
 
 

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