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ビールのことを本物と呼ぶようになった

2023 1/13(金)
 
しばらく日記が滞っている。
こういう時は、昔、書いた文章を掲載するのがいいだろう。
ネットには載せていたものの、5人くらいしか読んでなかったエッセイである。
今回は、2014年に書かれたものだ。
 
ビールのことを本物と呼ぶようになった 2014/7

うだるような暑さと、三箇所、蚊に刺されたイライラの為、今夜は大量の缶ビールを呑もうと、既に
PM16時頃から虎視眈々、喉を通過するビールの「冷え」「炭酸」「泡」のプランをたてており、
すべての用事が終わったPM22時頃、俺は念願の女神を買いに行く為、ひからびたオーラを放ちながらスーパーのビール売り場へうねうねと直行した。
だが、俺のような最大限にお金に不自由している芸人が缶ビールを購入する場合「ホンモノ」は手に取らない。
ここで言う「ホンモノ」とは、ラガー、一番搾り、スーパードライ、モルツ、エビス、プレミアムなどの類いを指しており、俺が購入するビールなるものは、コマーシャルのキャッチコピーをそのまま拝借するなら「ビールと間違えるほどのウマさ」であり、ではそれは「ニセモノ」なのかと問われると、事実上、ビールではないのだから「ニセモノ」と呼ぶべきかもしれないが「間違えるほどのウマさ」であるからには、それは「ニセモノ」ではなく、言いかえるなら「モノマネ」であり、例えるならば、すぐれたモノマネ芸人の芸は「ニセモノ」ではなく「ホンモノ」で、なおかつモノマネされている本人もそれを認めているお墨付きまである。
しからば、先程から述べている「ビールと間違えるほどのウマさ」は、ビールから見て「そっくりですね!」と納得させる実力ばかりか、モノマネ芸人で言うなら、モノマネされた本人が公認する
「似てるね~今度、俺の番組に出て俺のモノマネやってくれよ」といったレベルであり、そうなると、本当はキャッチコピーとしては、もう一段階、いや、二段階上の「これは、ビールの、影武者」という文句が、すんなりくるかもしれない。
「ニセモノ」のビールと言えば、繁華街には必ず、怪しげな居酒屋で「ビール1杯、100円」などとうたって客を釣っているサービスがあるが、あれも実際、呑んでみると「これ、本当にビールなの?」と一口目から、先入観で疑われ「ホンモノ」だとしても「ニセモノ」扱いされる傾向がある。
よく、打ち上げなどで多人数で店に入った場合、最初のカンパイの直後に「本日はお疲れ様でした」の余韻も冷めやらぬ内に、このジョッキに注がれたビールは「ホンモノ」であるか「ニセモノ」であるか侃々諤々が始まる。
だが、それは決まって毎回、答えの出る前に、早めに出て来るメニューの「枝豆」「大根サラダ」「茄子の浅漬け」などの登場で、ビールの話題は消え、二杯目からは、もう「ホンモノ」か「ニセモノ」かなどどうでもよくなり、しばらくすると心地よくなってきて、急に500円代の「生レモンサワー」などを頼むという、下僕から王様のような極端なコースを辿り、最終的には「熱いお茶貰えますか?」と先陣を切って言った奴が、「おお、気がきくね」といった注目を集め、モテる、といったおまけまで付き、すっかり、オープニングの「ビール論争」のバブルがはじけ、更には二次会のカラオケからは、「あっ、俺、発砲酒でいいや」などと、あれだけ「ホンモノ」にこだわっていた連中が、タンバリンなどを持ちながら、グビグビと「ニセモノ」をあおり、結果的には気持ちよく酔っ払えば、価値などどうであれということである。
家に着いたらまずはぬるめのシャワーを浴び、そのあと、缶ビールのフタを開ける。
俺は、レジに並びながら、喉がワクワクしていた。

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