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「対談・太宰と三島」~前編

2023 1/28(土)

懐かしい台本が出てきた。
2013年頃、公演した「太宰と三島」という新作落語である。
文学史の中で、この二人の仲が悪かったというエピソードをよく耳にするが、実際はどうだったのか?
そんな妄想を交えて、ネタを書こうと思ったのだが、なんと、俺が2013年当時住んでいた練馬の豊玉で、太宰と三島が会ったことがあるという事実を知った。
俺は、その情報を調査すべく、練馬図書館で、太宰と三島に関する文献を片っ端から見て行った。
すると、俺の住んでいるすぐ近の豊玉のローソンの前あたりに、昔、うなぎ屋さんがあったらしく、
そこで、あの二人が、たった一度だけ会っていたというのだ。
俺がたまに、おでんを買うローソンの前あたりで、太宰と三島が会っていたなんて。
衝撃すぎた俺は、すぐにその足で見に行った。
見に行ったが、もちろん、二人はいない。
いないが、急に、ローソン前が神聖な場所に見えてしまった。
太宰と三島のおばけがいるなら、夜な夜な、このローソンのおでんを買いに来ているのではないかと妄想した。
そのあと、文献を調べて行くと、二人は、中野駅からバスに乗って、この場所へやって来たらしい。
当時と同じルートを辿ってみようと、俺はバスに乗ってわざわざ中野駅へ行き、そこからバスに乗って、練馬の豊玉へ戻った。
完全に頭がおかしいコースだが、ともかく、中野駅から、練馬豊玉に向かう体験をしてみたかった。
やってみたら、俺は太宰と三島と三人でバスに乗っているような気分になり、異様にワクワクした。
おいおい、根暗すぎる遊びだな、と突っ込まないで頂きたい。
俺にとって、そのバスはタイムマシンのようだったのだ。
夢あふれる少年だと思ってくれたまえ。
ああ、やっぱり、狂っているがね。
そんな、体験を踏まえて、文学史の貴重な一夜だった「太宰と三島」が会った日のことを、妄想を絡めながら、新作落語で公演した際の台本がパソコンに眠っていたので、添付しよう。
少し長いネタなので、二回に分けて発表する。
それでは「対談・太宰と三島」はじまりはじまり~
 
「対談・太宰と三島」

私が中学生の頃、太宰治の本を読んだ時に、そのマヌケな主人公の言動に
「こ、これは、自分に似ている」
と、ストレートに、ハートに突き刺さってきたのを覚えています。
しかし、それは、太宰の本を読んだ人のほとんどが感じたらしいのです。
そして最近になって、やっと私は、気付きました。
そうか、太宰治は、あらあるネタの名人なんだ!
太宰がR1グランプリに出たら、結構、いいところまで行くはずだ!
太宰が決勝戦で、着物を着て漫談をやっている姿が目に浮かびました。
 
一方、三島由紀夫の本ですが、人生の美とか、武士の生き方とか、ホモセクシャルとか、
「こ、これは自分に似ている」
と、思いません!
全くハートに突き刺さってきませんでした。
そして最近になって、やっと私は、気づきました。
あるあるではない、ないないネタの名人、三島。
三島が、大川工業のネタ見せライブ、
「すっとこどっこい」
に出たら、いいとこまで行くはずだ!
三島が、大川総裁の前で、軍服を着て漫談をやっている姿が目に浮かびました。
そんな対象的な二人が、たった一度だけ出会っていた!
そう、たった一度だけなんです。
それは、太宰が亡くなる2年前、当時、36歳の太宰とデビューほやほやの21歳の三島。
しかも、その時、三島は初めて会った太宰にこう言ったといわれています。
「(野太い声で)太宰さん!」
今のは、モノマネです、これは、ユーチューブで、数少ない、三島が喋っている音源を何度も聞いて、研究した結果、こんな喋り方です。
今の所、このモノマネをやっているのは私だけなので、一番、似ています。
「太宰さん!」
と、そして、三島は、こう続けたといいます、
「私は、あなたの、文学が嫌いです」
初めて会って、こんなこと言えますか?
こんなセリフ、我々は、三島という存在を知っているから、なんか言いそう~カッコイイ~位に思うかもしれませんが、当時は、まだ駆け出しの21歳の作家です。
私が、名人の噺家に、あなたの落語は眠い!早く引退しろ!というようなものです。
そんな青天の霹靂に、太宰は、こう言い返したそうです。
「そんなこと言ったって、本当に嫌いだったらここには来てないじゃないの?」
粋な大人の対応です。
所が、実はこの後、傍にいた人の証言によれば、太宰は、
「嫌いなら、来なけりゃいいじゃねえか」
と吐き捨てるように言ったそうです。
そこから、一体どれだけ気まずい空気だったでしょうか。
文学史に残る二人の最初で最後の一触即発だったこの日。
その、日付には、諸説あります。
出会った日が昭和21年の12月だとも、昭和22年の1月だとも言われています。
一体どっちだったのか?
それを調べるべく、私は練馬図書館へ行き、太宰と三島関連の資料を漁り、気になった資料は、全部コピーを取りました。
その中で、面白い本を見つけました。
三島由紀夫の著書「小説家の休暇」
それを読むと、三島の太宰嫌いが相当であることが判明しました。
 
(ファイルを取り出して、文章引用)
 
昭和30年刊『小説家の休暇』
 
「私が太宰治の文学に対して抱いている嫌悪は、一種猛烈なものだ。第一私はこの人の顔がきらいだ。第二にこの人の田舎者のハイカラ趣味がきらいだ。第三にこの人が、自分に適しない役を演じたのがきらいだ。女と心中したりする小説家は、もう少し厳粛な風貌をしていなければならない。
私とて、作家にとっては、弱点だけが最大の強みになることぐらい知っている。しかし弱点をそのまま強みへもってゆこうとする操作は、私には自己欺瞞に思われる。どうにもならない自分を信じるということは、あらゆる点で、人間として僭越なことだ。ましてそれを人に押しつけるにいたっては!
太宰のもっていた性格的欠点は、少なくともその半分が、冷水摩擦や器械体操や規則的な生活で治される筈だった。生活で解決すべきことに芸術を煩わしてはならないのだ。いささか逆説を弄すると、治りたがらない病人などには本当の病人の資格がない。」
 
おお!
死後何年もたっているのに、ここまで書きますか?
これは、相当、意識していないと書けません。
逆に好きなんじゃないのか!?
と、さえ思ってしまいます。
それにしても初めて会った日は一体いつなのか。
隈なく調べて行く内に、ついに目的の文献にたどり着きました。
なんと、それは三島由紀夫本人の日記に記載されていました
 
(ファイルを取り出して、文章引用)
 
新潮社版「三島由紀夫全集補巻」の昭和21年12月14日(土)日記より
「12月14日(土) 午後四時中野で待合せ。 高原君のところにて酒の会、太宰、亀井両氏みえらる。夜十二時帰宅  …」 
 
おお!
間違いありません、三島本人の日記から、はっきりと、昭和21年の12月14日、と記されていました。
その日、太宰にふっかけた喧嘩、気になるのは、その場所です。
中野で待ち合わせと残されていますが、そこからどこへ行ったのか、私は、更に文献を漁っていると、見つけました!
野原一夫という編集者が書いた「回想 太宰治」という本のなかに
 
(ファイルを取り出して、文章引用)
 
「バスに二十分ほども揺られ、もうあたりは畑と雑木林ばかりになって、練馬区の豊玉というところでバスをおり、、、」
 
そこは、練馬の豊玉!
豊玉といえば、おや、ご存じない?
なんと私が今、住んでいるアパートが豊玉にあります!こんな近くに、あの二人が!
私の、こんな近くに!
しかも、降りたバス停と推測されるのが、近所のローソンの前にある豊玉中2丁目バス亭。
私が、おでんのつゆを入れ過ぎて、こぼしてしまった、あのローソンの前なんです!
こんなに近くで、あの二人が出会っていたとは!
この事実を知った途端、67年前にローソンで、おでんを買っていれば太宰と三島とすれ違っていたかも、なんなら、おでんのつゆを二人にかけてしまい、文学史に私の名前を残していたかも~っと、なんという67年ニアミスでしょう。
そして、ふとカレンダーを見ると今は12月の前半、奇しくも、その日が近い。
途端に、熱い思いが込み上げました。
そして、ある結論に達しました、そうだ、私もその時間に中野へ行って、太宰と三島と、同じルートをたどってみよう!
こうして、昨年、2013年12月14日、午後4時、中野駅南口バス停、私にとってのパワースポットへと足を運びました。
 
突然の音楽。
M・津軽三味線
 
主な、登場人物紹介~
 
(以下、酔っ払い口調)
太宰「えー、どうも、太宰治ちゃんです、代表作に、「人間失格」「斜陽」「走れメロス」、
あとなんだっけ?「人間失格」あれっ言ったっけそれ、メロスは?それも言った、あれ、なんだ、「吾輩は」あ、それ人の作品だ、俺、小説家なのか、まぁいいや、そんな感じ、えー、やめられない物は、お酒(呑む仕草)クスリ(打つ仕草)、特技は、心中、3回位やりました~」
 
海なので、ベンチャーズの曲を口で適当に表現する。
 
太宰「テケテケテケテケ~第1回目、治ちゃん19歳の時、カフェの女給・田部シメ子と、海へザッブーン、イン鎌倉、心中未遂!テケテケテケテケ~第2回目、治ちゃん28歳の時、内縁の妻・小山初代と、温泉で催眠薬ブロムワレリル尿素カルモチン飲んでザッブ~ン、イン群馬、心中未遂!テケテケテケテケ~第3回目、治ちゃん、38歳の時、愛人・山崎冨栄と玉川上水へ、ザッブーン、イン三鷹、心中成功!テケテケテケテケ~」
 
M・軍歌が流れて来る。
 
太宰「なんだこの軍歌は~俺のトークを邪魔するのか~あっ、お前は!三島由紀夫だな」
 
(以下、モノマネで喋る)
三島「(演説風に)諸君!三島由紀夫だ、私の話を聞けー!聞かぬかー!エイヤー!(いきなり、刀で斬りかかる仕草)私の、代表作に、「金閣寺」「宴のあと」「美徳のよろめき」「仮面の告白」「豊饒の海」他に、ええい!めんどうくさい、もう、すべてが代表作だ!好きな物は、ボディビル、軍服、美青年、特技は、切腹!バンザーイ!(短刀で腹を切る仕草のあと、首を客に突き出して)誰か介錯しなさい!」
 
ジャジャジャジャヤーン!対談・太宰と三島
それでは、これより本編をご覧下さい!
 

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