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短編小説

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小説まとめました ほとんど超短編小説 思いついたときに書くので不定期です
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#超短編小説

超短編小説 隣人

今時、珍しい木造アパート。老朽化が凄く建て替えが半年後に決まっている。ほとんどの人は引っ越して、住んでるのは私と隣人だけ。 朝、起きて適当に食事を済ませ、出勤。錆びた鉄の階段を降りるとどこか軋んでいるような音がする。なんとなく視線を感じて上を見ると隣人が戸を開けて覗いていた。 挨拶をしても返すことにない隣人なので、そのまま自転車に乗って駅まで向かう。いつものことだ。 隣人はどうやら仕事をやめて家にいるようだ。たまに人が来ている。薄い壁なのでボソボソと聞こえるが何を言って

超短編小説 家族全員FIRE

家族4人仕事をしていない家があった。4人とも仕事はしていた。母親は事務員だった。父親は会社で母親と知り合い結婚。結婚と同時に母親は専業主婦になり子育ても終えFIRE。 息子は二人。一人は大学を卒業して公務員に。もう一人は大学を卒業して一般企業に。数年後、二人とも仕事が合わなくてFIRE。 父親は60歳定年を迎え再雇用もなしにFIRE。 4人ともごくごく普通に暮らしている。きっと投資が上手くいって暮らしているのだろう。羨ましい限りだ。 休日になると息子たちは昼間外に出て

超短編小説 涼 初恋

高校は寮生活だった。退屈な朝礼に退屈な授業。友達も出来ずただボーっとしている毎日。 教室の壁にもたれかかっていると「涼君、たまにはみんなと話そうよ」おせっかいな琴音が話しかけてきた。その隣で心配そう縁が見ている。なんだこいつら。 「うるせーな」そう言ってその場を去った。ただただ面倒くさい。なんであんなに心配そうに縁は俺を見たんだろう。 揉め事は嫌いだ。友達なんて揉め事運ぶだけだろ。中学時代に悪い連中に絡まれて大変だったことを思い出す。もうあんなのうんざりだ。 次は体育

超短編小説 犯罪がなくなれば

世界中で犯罪が増え世界は混乱した。 犯罪者は脳の機能に異常がある。それは知られていた。脳の機能を正常にするにはどうしたらいいのか。「脳の正常化プロジェクト」が始まり世界中の研究者たちが参加した。 様々な研究の結果、特定の遺伝子に問題があることがわかった。プロジェクトは次の研究へと動いた。世界は固唾のんで見守った。 研究班Aが特定の乳酸菌を飲めばその遺伝子に作用し脳の機能が正常化すると発表した。その特定の乳酸菌を犯罪者に継続して飲ませればいいと。 乳酸菌なら問題ないだろ

超短編小説 海の幻想

朝起きてなんとなく船に乗ろうと思った。ちょっとだけのクルージングだ。 船に乗り海原に出た。晴れ渡る青い空と青い海の地平線に吸い込まれそうだ。 船からそっと下を見ると水面が光を放ちだした。目を開けてられないほど息ができないくらいの光が自分を包み海へと誘う。誰かが呼んでいるような気がした。 抵抗も出来ずすーっと海の中に入っていく。そして沈むのを感じた。水色から青へ、青から群青へ、群青から漆黒へ。ゆっくりゆっくり。 海底に落ちると光は消え、漆黒と静寂の世界が自分を包んだ。す

超短編小説 だれかの日常

4月に入った。新入社員が自分の課に配属された。新人と顔を合わせ仕事の説明をする毎日だ。下手なことを言うと辞めてしまうからと上司に釘を刺されている。面倒くさい。毎日ピリピリしている。こっちが辞めたいくらいだ。新人が失敗しても笑ってはいけないとか。笑って許すとかもだめらしい。年々、新人に対する態度は厳しくなっている。もうここまでいくと新人は文句言う置き物と思うしかないようだ。 神経すり減らし残業を終え家路につく。よくある住宅街。時間は夜10時。ちょっと強い風で小雨が降っていた。

超短編小説 ババ抜き

国際法は多数決で作るのがおかしいということで誰もがわかりやすいババ抜きで作ることになった。決勝で一番先に抜けた国が国際法を一つ決めていいこととなったのだ。最後にババを持った国は次の試合に出られない。 四つの国が一つのグループとなってリーグ戦をし上位二国が上のリーグ戦に上がる。16か国になるまでリーグ戦をし、そこから4グループに分かれ戦い一抜けした四か国が決勝に上がる。 グループ分け抽選会から始まり、各国の熾烈な駆け引き作戦は凄かった。今日は決勝だ。 どの国が一抜け出来る

超短編小説 とある国

「紛争で大変な人を助けます」そう宣言した福祉の充実した国に難民は避難した。 避難した難民が祖国と違う天国のような生活を与えられたのを知って次々と難民は集まり大きな集団となった。 常識の違う難民に福祉の充実した国に住む人たちは困惑した。今までの常識が通用しない。善と悪の考えが違うようだ。難民を拒絶する人も出てきた。 難民は自分たちの常識で集団で暴れるようになった。自分たちの住みやすい世界へ変えようと。争いは各地で起こり収まらなかった。 そんな時、一つの国が声を上げた。

超短編小説 老夫婦

年末、家族連れが買い物に出かけ大量の食料を買う中、老夫婦は道の途中で立ち止まった。 「お金が足りない。」夫はため息をついた。 「食費をどうにかすればなんとかなりますよ。」妻は笑って夫を励ました。 子供たちは社会人となり家を出て連絡さえしてこない。夫婦からも連絡はしなかった。 大晦日、わずかばかりの食事をし、寒い中、暖房もつけず毛布にくるまり老夫婦は向かいあう。 「お餅買いたかったけどごめんね。」妻はちょっと泣きそうになった。 「なくても大丈夫、正月が無いと思えば大丈夫。

超短編小説 そこの偉い人

「俺の言うこと聞かない奴はあれな」 「それダメですよ」 「もう仕事はさせないぞ」 立場の弱い人間が恐れ奴隷のように従う。 そんな世界がいろんなところで繰り広げられていたようだ。しかし、声を上げなかった人が声を上げそんな世界の一角が崩れ騒動が起きた。 少し落ち着いたころ、声を上げる人がまた出てきた。同情の声が集まり、また騒動に。 一人の男が自分たちの世界を守るために立ち向かった。 「偉い人間が何しても問題ないだろうが。それが普通だ。偉そうに。俺がこの世界を作ってきた。

超短編小説 怪物

欲望というのは誰にでもある。その欲望が叶えられないまま終える人も多い。まあそれが普通だろう。 勉強はそんなに好きではないが上昇志向だけは人一倍な人間がいた。 教師に内申を上げてもらってそれなりにいい高校に入り、お金があればなんとかなると噂されている有名な大学の学部を卒業。 就職はコネが無く上手くいかなかったが、高名な人に会って気に入られたことで怪物が憑依したと言われている。 怪物は高名な人に関わる人たちに無理やり会ってコネを作るのに必死になった。拒まれても会いに行き、

超短編小説 あのメーカー

上場はしているが三流と呼ばれてたメーカーの営業達のプライドは高かった。語学ができることが自慢らしく洋楽の歌詞がわからないのに聞いている人間を馬鹿にしていた。 若い営業達の夢は海外で活躍すること。自分たちの会社が世界一になると信じ、自分たちの結婚式でも自社の製品を宣伝していた。 営業先に集団で押しかけ無理やりにでも契約を取るのは有名だった。下請けには酷い言葉で罵倒し納期を守らせ、下請けが赤字になるような契約を結ぶ。いつの間にか無くなった下請けも多い。 営業達は陰で悪口を言

超短編小説 そこの夫婦

どこにでもある住宅地にその家はあった。木造建築でツタが絡まり朽ちてしまうかと思うくらい古い家だ。 そこに夫婦が住んでいた。二人とも体は大きいがにこやかで社交的。奥さんの物腰も柔らかい。 宅配便が届くのをよく見かけるので、お金には困っていないのだろう。 独居老人の世話をしていて近所の評判もいい。 奥さんが誰かに罵声を浴びせているのを目撃されることもあるが、たまにはそんなこともあるだろう。 最近は、子供のいない家の旦那さんが突然亡くなって、夫婦が相談に乗っているそうだ。

超短編小説 そこの神社

ビルの中に埋もれるようにその神社はあった。参拝する人は少ない。 私は通るたびに祈りに行く。手水で手を清め、二礼二拍し賽銭箱に小銭を入れ願いをして一礼をするが、ここでの正しい参拝の仕方なのかは知らない。 物凄く長く祈っている人が結構いる。いつ終わるのかわからないほどだ。 極彩色の着物で白い鉢巻をし金の細い棒を持って祈りに来ている人もいる。 お賽銭を入れないで祈る若い女性、大量の1円玉を賽銭箱に入れてるサラリーマンもいる。 私の願いは世界が平和になりますように。 誰の