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扉の向こうからやってきたオハナシたち

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2022年12月の記事一覧

【短編】最果ての国

【短編】最果ての国

一人の旅人が、太陽に向かって歩いているのが 見える
旅人は、最果ての国を目指して旅をしている
旅人は、もう何十年も最果ての国を目指して、旅を続けている
旅人は、ただ、ただ、太陽に向かって、太陽だけを見つめて歩いていた
そして、ただ、ただ、旅人の正確な足音だけが、
あたりに静かに聞こえている
太陽は、まばゆいばかりに光り輝いていた
そのせいで、眩しくて、あたりの景色は、旅人の 目にははっきりとうつら

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【短編】蕎麦屋にて

【短編】蕎麦屋にて

行き交う人々が、店々を覗きながら、ランチに何を食べるか相談する声が聞こえる
そんな時、蕎麦屋の看板が目に入った
よし、お昼はそばにしよう
と、僕は思った
蕎麦屋の紺色の暖簾をくぐって、店に入ると
いらっしやいませ
という店員の元気な声が僕を迎えた
お好きなお席にどうぞ
という店員の言葉を聞いて、僕はどこに座ろうかと、あたりを見回した
すると、僕の名前を呼ぶ声が聞こえた
みると、同じ編集部の同僚だっ

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【短編】王様の王冠

【短編】王様の王冠

王様が、困った顔で王冠を眺めている
家来たちも、入れ替わり立ち替わりやってきては、王冠を調べている
それでも、どうにも解決しないので、仕方なく、国中の職人が、次々に呼ばれて、王冠を調べては、首を傾げている
誰が見ても、特に問題がないことだけがわかるだけだった
何が、問題なのかというと、ある日突然、王様が 王冠をかぶると、王冠が王様の頭の上から、つるんと滑り落ちてしまうようになってしまったのだ
どん

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【短編】釘

【短編】釘

道具箱の中にたくさんのクギが入っているのが見える
この道具箱の持ち主は大工だった
なるほど、たくさんのいろんな種類のクギをたくさん持っていて不思議はない
と、男は思った
道具箱の中から一本の大きくて太いクギを男は つまみあげた
かすかに鼻先に鉄の匂いを感じた
昔、どこかで嗅いだ懐かしい匂いだと男は思った
そして、男は、大工に見つからないようにその場を去った
大工が、作業場に戻って来るのが見える

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【短編】夏の終わりの出来事

【短編】夏の終わりの出来事

急にガクンという衝撃を感じて、僕は、自転車を 止めた
自転車のスタンドを立てると、僕はその原因を 探した
そして、タイヤにクギが刺さっているのを見つけた
ついてない
という言葉が、耳の奥に聞こえる
僕は、タイヤからくぎを抜くと、仕方なく、自転車を押して歩いた
僕の気持ちとは裏腹に、海岸線沿いに見える海はキラキラと輝いている
今日は、天気がいいので、愛車で、夏の終わりの海を見に行こうと思った
そした

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【短編】金ピカな鍵

【短編】金ピカな鍵

大きな、そして金ピカな鍵が上等な皮のヒモで一人の門番のクビからぶら下がっているのが見える
門番が、動くたびにその鍵はかすかな音をたてるのが聞こえる
この鍵は、お城の宝がしまってある部屋の鍵だった
とても大事な鍵だったので、とても信頼されている門番が、肌身離さず、その鍵を管理していた
その役を王様から 言いつけられている事に門番は 誇りに感じていた
門番は、1日の仕事を終えると、お城の片隅にある門番

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【短編】もの思う石

【短編】もの思う石

川面がキラキラと太陽を反射して光るのが見える
私は、川に釣り糸を垂れている
川の流れる音を聴きながら、川岸に腰を下ろして
釣り糸を垂れているのは退屈しのぎにも、考え事をするにも最高だ
そんな事を考えていると、川上から、ゴロンゴロンという聴き慣れない音が聞こえてくる
そして、その音は、どんどんと大きくなっていった
不審に思って、釣り糸を垂れているのも忘れて、私は、川上の音のする方向ばかりを見ていた

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【短編】クリスマスの奇跡

【短編】クリスマスの奇跡

もう今年も終わるんだなあ
と、駅の広場に設置されたクリスマスツリーを 眺めながら僕は思った
そんな僕の耳にギターの音色が聞こえてきた
ふと視線をうつすとピカピカと電飾がひかるクリスマスツリーから少し離れた場所で一人の若い男性がギターを弾きながら歌を歌っていた
ストリートミュージシャンか
寒いのに頑張ってるなあ
と、ギターを弾く彼を見ながら思った
そして、僕から少し離れた場所で僕と同じように ギター

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【短編】聖なる夜に

【短編】聖なる夜に

道行く人たちを眺めながら 
「クリスマスのディナーにローストチキンいかがですかぁ」
と声を張り上げる
僕の前を通り過ぎる楽しげな人の話し声や足音が 聞こえるだけで僕の声に振り向く人やローストチキンを買うために立ち止まる人はいない
僕は、コンビニの駐車場でコンビニの制服に頭だけ真っ赤なサンタの帽子を被ってローストチキンとケーキを売っていた
売れ行きは悪かった
そんな状況が寒空のした一人でローストチキ

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【短編】不審な雲

あれは、なんだろう?
と、男は、ふと立ち止まり空を見上げた
男が、見上げた先には、白い雲が一つ浮かんでいる
どうやら、男は、その雲が気になっているようだった
町には、クリスマスソングが流れていて、街いく人の心を踊らせていた
もちろん、男の耳にもクリスマスソングや街の喧騒は届いていたはずだが、まるで、男は、そんなモノは聞こえていないかのように一人、ポツンと 取り残されたように、みんなが足早に通り過ぎ

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【短編】クリスマスキャロル

【短編】クリスマスキャロル

街は、すっかりクリスマスムードでキラキラと輝いて見える
街角では、聖歌隊が、募金のための歌を歌っているのが聞こえる
そんな楽しげな陽気な空気感を感じながら、男は 店々を覗いて回った
なんで、その男が、そんな事をしているのかというと、男の懐には、一枚の金貨があったからだった
男は、この金貨で、何を買おうかと考えながら店々を覗いていたのだ
男は、旅人で、最果ての国を目指して旅を続けている途中だった

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【短編】6ペンス硬貨と指ぬき

【短編】6ペンス硬貨と指ぬき

ディナーの後のデザートのクリスマスプディングが運ばれてくるのを見ながら、僕は、隣の席の マイクと他愛もない話に花を咲かせていた
プディングが切り分けられて僕の目の前にも白いお皿に乗った一切れのプディングがやってきた
プディングにフォークを入れるとずっしりと中身の詰まった重量感を感じた
そして、二口目を食べようとプディングにフォークを入れたら、なんだかカチンと音がかすかに聞こえた
そしてフォークから

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【短編】月夜の伝言

【短編】月夜の伝言

窓辺に座り、顔を出したばかりの満月を眺める
静かに、ラジオの声が流れている
今日の満月は、カルメ焼きのようだ
と月を眺めながら、ぼんやり思った
手の中にあるマグカップからは温かい湯気が立っているのが見える
ラジオから、ふいに、とても懐かしい曲が流れてきた
高校生の頃に大好きで、何度も何度もリピートして聞いた曲だ
あの頃は、よかったなあ
と、マグカップのコーヒーを飲みながら思った
カルメ焼きのような

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【短編】奇妙な体験

【短編】奇妙な体験

5円玉が、ゆっくりと左右に揺れているのをジッと 見ている
「あなたは、だんだん、ねむくなーる」
という声が聞こえてくるが、全く眠くなる気配ない
困ったなあ
と、僕は感じていた
30分前、僕は、近所のショッピングモールをブラブラしていた
今日は、三連休の中日でショッピングモールもいつもよりも賑わっていた
そして、三連休という事でいつもの日曜日とは違ってショッピングモール中央の特設ステージでは 朝から

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