【文献レビュー】通いの場の介護予防効果のメカニズムに関する文献レビュー

今回は、論文のレビューをさせていただきます(私の研究範囲を主に抜き出しているため、必要部分を書いているとは限りません)。この論文は、厚生労働科学研究費補助金(長寿科学政策研究事業)分担研究報告書に掲載されています。

文献の詳細
・フォルダ名:7.1-1000
・ファイル名:7_kondou_0001



目的

本研究では、通いの場の介護予防効果のメカニズムを明らかにする目的で文献レビューを実施した。

研究方法

文献レビューの対象とする文献は、1)原著論文、2)日本の高齢者を対象とする、3)主に自治体の介護予防部局が後方支援する定期的に開催されている住民主体の取り組み(=いわゆる通いの場、と定義)とした。日本老年学的評価研究に関わる研究者のうち、研究関心が通いの場である研究者が集まる通いの場ワーキンググループにおいて、検討した介護予防事業のジックモデル[2]や、JAGESの通いの場に関する研究レビューをもとに、文献レビューを行い、通いの場参加から、健康・well-beingに至るメカニズムを、心理面、認知面、身体面、栄養面、社会面の5つに分類した。

検索エンジンは、日本語は、医中誌Web、英語はPub Medを使用した。基本的な考え方として、通いの場(kayoinoba, communitu gathering place)、サロン(salon)、住民主体(community-based)社会参加(social participation)、地域介入(community involvement, community intervention)に各方面のキーワードを組み合わせる形で検索式に設定した。検索式で全体とするか、タイトル・アブストラクトに限定するかは、該当文献数等を考慮し、各方面で判断した。

結果

文献レビューの結果、対象となった論文は、心理面6件[3-8]、認知面5件[3.8-11]、身体面7件[3.7.11-15]、栄養面3件[3.16.17]、社会面16件[3.6.7.9.11.15.18-27]であった。重複を考慮すると、最終的に25件[3-27]であった。フィールドは単一自治体22件[3-7.9-10.12-20.22-27]、対象群の設定があるものは11件、縦断研究11件、分析レベルは個人レベル24件であった。

最も多くの141指標を評価した辻の論文[3]は、唯一地域レベルの指標での効果検証を行っており、市内78圏域をモデル地域と非モデル地域に分け、住民主体の通いの場の推進が地域間の健康格差是正に寄与したことを8年間の縦断研究で報告しており、心理面、認知面、身体面、栄養面、社会面のすべての指標が用いられていた。そのうち、モデル地域と非モデル地域において、心理面(うつ傾向)、認知面(認知機能低下)、栄養面(口腔機能低下)、社会面(趣味・スポーツの会への参加、友人10人以上と会う、情緒的サポート低下)で地域間格差が縮小していた。

個人レベルの報告の結果では、心理面(5件)のうち、4件が単一自治体をフィールドとした報告[4-7]であり、1件がこれらに含まれる論文を引用したシステマティックレビュー[8]であった。対照群をおいた報告では、通いの場非参加群と比較し、主観的健康感[4]、K6[5]が改善しており、追跡期間は2年であった。対照群をおかない参加群の前後比較においても主観的健康感の改善がみられた[6]。さらに、横断研究においても、参加群で1年前と比較し、主観的健康感が改善していると回答している者が多かった[7]。

認知面(4件)のうち、2件が単一自治体[9.10]、1件が群馬県下の自治体(通いの場の箇所数は記載があるものの、自治体数は記載なし)[11]をフィールドとした報告であり、1件がこれらに含まれる論文を引用したシステマティックレビュー[8]であった。対照群をおいた報告(1件)[9]では、縦断研究は、通いの場非参加群と比較し、老健式活動能力指標のうち、手段的自立、知的能動性が改善しており、追跡期間は1年であった。

通いの場参加群のみを対象とした報告(2件)[10.11]では、2年間の前後比較で通いの場を運営するボランティアで認知機能(Mini-Mental State Examination)が維持・改善しており[10],通いの場高頻度参加群で手段的自立が改善していた[11]。

身体面(6件)では、5件が単一自治体[6.12-15]、1件が群馬県下の自治体(通いの場の箇所数は記載があるものの、自治体数は記載なし)[11]をフィールドとした報告であった。対照群をおいた縦断研究(1件)[12]では、1年の追跡期間で非参加群と比較し、バランス能力(Time Up and Go)の改善がみられていた。新型コロナ流行下での活動制限の影響を調べた横断研究(1件)では、通いの場参加群では、非参加群と比較し、新型コロナ流行下でも身体活動量を維持する確率が高かった[15]。通いの場参加群のみを対象とした報告(3件)[6.14.15]のうち、2件[6.14]は縦断研究で通いの場立ち上げ時と1年後の体力測定の結果を比較し、バランス能力(Time Up and Go)、下肢筋力(5回立ち上がりテスト、30秒立ち上がりテスト)、歩行能力(5m歩行)、筋力(握力)が改善したことを報告している。1件は横断研究で、通いの場参加群では参加前と比較し、歩く機会が増加していた[13]。

栄養面(2件)[16.17]では、すべてが単一自治体フィールドとした報告であった。対象群をおき、新型コロナ流行下での通いの場の活動制限の影響を調べた報告(1件)[17]では、通いの場参加群でやせや肥満が少なかった可能性を示唆している。通いの場に参加している後期高齢者の女性のみを対象とした横断研究(1件)では参加者の食品多様性が高いことが報告されていた[17]。

社会面(15件)では、13件[6.7.9.15.18-20.22-27]が単一自治体、1件が7市町[21]、1件が群馬県下の自治体(通いの場の個所数は記載があるものの、自治体数は記載なし)[11]をフィールドとした報告であった。対象群をおいた縦断研究(2件)[9.18]では、通いの場参加群は日参加群と比較し、外出、会話、他の地域組織への参加が増加していることが分かった。追跡期間は1年[9]と10年[18]であった。横断研究においても、外出頻度で同様の知見が報告されていた[20]。通いの場参加群のみを対象とした縦断研究(3件)[6.11.19]では、6ヶ月~8ヶ月の追跡期間で話し相手・何かに取り組む相手の増加、社会的サポート授受の増加、社会活動が増加していた。通いの場参加群のみ対象とした横断研究(8件)[15.21-27]のうち、7件[15.22-27]が単一自治体をフィールドとしており、外出機会、会話機会、地域との交流、友達・知り合い、健康情報の増加、社会参加の数、近所づきあい、社会的サポートが増加していることが報告されている。7市町の通いの場参加群のみを対象とした横断研究(1件)[21]では、通いの場参加による主観的な変化を尋ね、通いの場参加をきっかけに、約8~9割の対象者が健康に関する情報の増加、健康について望ましい変化があったと回答しており、通いの場への参加をきっかけに他の社会参加も増加した者でその傾向が強かった。

考察

通いの場の介護予防効果のメカニズムを明らかにするために、心理面、認知面、身体面、栄養面、社会面の5つの側面より文献レビューを実施した。その結果、通いの場のメカニズムに関する文献レビューの対象として25件[3-27]が最終的に抽出された。

通いの場の定義として、主に自治体の介護予防部局が後方支援する定期的に開催されている住民主体の取り組みである狭義の通いの場[1]としたこともあり、フィールとはほぼすべての22件[3-7.9-10.12-20.22-27]が単一自治体のものであった。効果評価に必要な対象群をおいた縦断研究は6件[3-5.9.12.18]にとどまり、通いの場の効果検証を行う上で対象群(非参加群)の縦断データ取得をどのように行うかが課題と考えられる。

通いの場参加者は非参加者と比較し、介護予防の最終アウトカムである要支援・要介護認定、認知症発症者が少ないことを報告した先行研究[28.29]では、そのメカニズムとして、①認知・身体面の維持、②社会的相互作用があると考察している。今回の文献レビューでも、通いの場参加による認知・身体面の維持・向上が報告されていた。加えて、今回の文献レビューでは、心理面も向上することが報告されており、心理・認知・身体面の維持・向上が通いの場参加から要介護認定・認知症発症予防に至るメカニズムが存在することが示唆された。栄養面に関しては、フレイル予防・改善において重要な要素であることが知られており、身体・認知・心理機能維持・向上に関連し、通いの場の介護予防効果に寄与すると考えられる。しかし、現状では横断研究に留まっており、通いの場参加と栄養面のエビデンスに関しては、対照群をおいた縦断研究が望まれる。②社会的相互作用に関しては、社会面で数多くの報告が抽出され、対照群をおいた縦断研究も複数該当した。通いの場参加群は非参加群と比較し、外出、会話、他の地域組織への参加が増加しており、こうした社会的相互作用を通じ、介護予防効果を生み出していると推察される。

今回のメカニズムで取り扱った評価の追跡期間は3ヶ月~2年であり、短期・中期的な評価項目で用いることが可能と考えられる。PDCAサイクルに沿った通いの場の推進や効果評価を行うためのロジックモデルを設定する際に、比較的早期に評価する項目として今回抽出された心理面、認知面、身体面、栄養面、社会面の指標を用いることができるかもしれない。

介護予防を目的とした通いの場の主な対象者は高齢者であり、高齢者の機能が経時的に低下することを考えると、通いの場の効果評価を実施する際に、評価項目における改善だけでなく、維持や低下を抑えることも通いの場の効果でありうる点は意識しなければならない。

今後、今回の文献レビューを基に複数時点のデータを用いた媒介分析などにより通いの場から健康・Well-beingに至るメカニズムの効果検証を進めていく必要がある。

結論

本分担研究では、通いの場の介護予防効果のメカニズムを明らかにするために、心理面6件[3-8]、認知面5件[3.8-11]、身体面7件[3.7.11-15]、栄養面3件[3.16.17]、社会面16件[3.6.7.9.11.15.18-27]の5つの側面より文献レビューを実施した。その結果、通いの場参加を通じ、身体・認知・心理面の維持・向上、社会的相互作用を通じ、介護予防効果がもたらされていると考えられた。一方、栄養面については対象群をおいた縦断研究による検証事例が少なかった。今後は自治体が対照群をおいた縦断データを平易に取得でき、複数の自治体のデータをプールして分析可能な仕組みづくりが必要となると考えられる。そして、そのようにして構築したデータベースを用いた媒介分析などにより通いの場から健康・Well-beingに至るメカニズムの効果検証を進めていく必要がある。

参考文献

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