俳句の源流を歩く|酒折の歌①(全8回)
俳句を詠めば、「縛られた人ね」と笑うひと。理由を聞くと、「ありのままの美しさを受け入れられないから」と、感動を言葉に置き換える一手間を指摘する。
「そのことが新たな発見につながる」などと言ってはみても、どうやら彼女の心に響かない。本物の美とは、むしろ言葉を奪い去るものなのだと。
結局僕らは虚しくなった。彼女は荷物をまとめ、「あなたのことを探してみるわ」と、あずさの切符を握りしめていた。
その特急券には、「甲府」の行先。僕は常々、その街にある聖地のことを話していたのだ。
俳句は、連歌を親とする文芸。俳諧の連歌における発句、それが独立することで生まれた、世界最短とも言われる定型詩である。
けれども、現代詩の観点で言えば、その存在は特異である。まずもって、美とはかけ離れたところに発生している。
そもそも、俳句は独吟するものではなかった。俳諧の名のもとに多人数が集う、言葉あそび…
僕らは果たして、違う世界に生きていたのかもしれない。彼女はきっと、あの聖地に美しいものが存在するのかどうかを確かめに行ったのだろう。
(第9回 俳句のさかな了 酒折の歌②へと続く)