怪物
鑑賞:2023年6月@TOHOシネマズ新宿
スゴイと言わざるを得ない作品。映像表現のプロトコルを自在に操る。脚本と編集で、すでに出来上がっている。そこに、映像美が添えられる。たまたま撮れたんじゃないかというシーンを、仕掛けて撮っちゃう監督。どうにか、欠けてるところがあるとすれば、わかりやすさ。そんなものは要らないのですけれども。
視点は3者が繋ぐ、3幕構成に見えます。
まず、安藤サクラさん演じる、シングルマザーでスタート。少しありきたりにも思える母子家庭で、小学生の息子は学校でどんな境遇にあるのか心配になる展開です。問題のある教師やクラスメイトとの関係がどのように進展するのか。ちょいちょい気になる仕草が、いろんなキャラに与えられていて、素直に進まないんだろうな、と思わされます。
つぎに、永山瑛太さんが演じる、学校の先生にバトンが渡されます。プライベートも含めて先生視点で何が起こっていたのかを見せられます。やっぱり、ヒドイ先生ではなくて、割と真面目なタイプなんですね、と。学校の先生が置かれている社会的立場のユガミを感じます。
最後に、当事者たる小学生がラスト走者になります。学校のクラスメイトとの成り行き。素晴らしいのは、ここでようやくクラスメイトとの実際が描かれ、子供たちが何をどう感じ、どう行動しているのかが開示されます。そのまま、小学生がクラスメイトとの情を訴えていく運びです。
ラストの感想は、うまいことアーティスティックに終わらせたな、と思いました。踏み込まないラストです。
思うところは多々あります。
いちばん目を見張ったのは、豪雨の中、安藤サクラと永山瑛太が、子供を探して廃墟の先で放置客車の天窓をかき分けるシーン。車内から、天窓の泥がかき分けられ、それと同時に雨が打ち付けられて星が散るようなビジュアル。しかし豪雨で泥が覆いなおす。この画を撮りたかったんですな!
あわせて、豪雨の中でクライマックスを登っていくシーンは、監督の前作でも象徴的に感じました。ここは監督がそれを望んだのかな、と思わされました。
まだ言いたいことは山ほどあるのですけれど、もうひとつ記すとしたら、田中裕子演じる校長と小学生とが、楽器を鳴らすシーン。やりとりも印象的なんですけれど、それ以上に永山瑛太先生パートでもしっかり楽器が鳴っていてたのです。それとなく、しかし確実に音を観客に伝えていました。ニクい。ニクすぎます。
表現テクニックばかり言ってしまうのも忍びないです。冒頭の火事も、良い仕掛けだなと思わされました。永山瑛太先生が、誤植見つけるのが得意というのが面白い設定でした。先生といえば、坂元裕二さん脚本でお馴染みになった感のある角田晃広さん。小気味いいです。同じく同僚先生の森岡龍さんも、よくぞ出てくれた!と勝手に応援です。
最後に、この作品で嬉しかったこと。日本の地方都市で、ライブ配信アプリまで一瞬映るぐらいの現代劇であったことが、なによりも嬉しいです。普遍性のある地方都市。ITの制約を課さない潔さ。その状況下で、こんなにも情を描く作品を見せてくれたことに、感激しました。ありがとうございます。
▲是枝裕和監督の前作。本作と同じく、雨が印象的。
▲坂元裕二脚本の連続ドラマ。本作では教師として出演している、東京03の角田晃広さんがメインキャストのひとりです。おススメ。
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