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日本リビングラボネットワークの部会活動2:実践ノウハウの体系化

地域創生Coデザイン研究所木村篤信です。

前回記事にひきつづき、日本リビングラボネットワークの活動を紹介します。前回は、リビングラボについて実践者がつながるコミュニティについてでしたが、今回はリビングラボの実践的なノウハウ、知見についてです。

学術論文で得られる知見

ある領域のノウハウや知見が欲しい場合、学会で発表される学術論文を調べることが一般的です。リビングラボの知見についても、リビングラボに特化した国際会議や、もう少し広い文脈では日本デザイン学会などのデザイン実践に関する国内外の学会があり、これまでの知見が学術論文として蓄積されています。そこでは、市民を巻き込むための手法、生活空間の中でリサーチをするツール、検討したサービスを検証する際のノウハウなどが報告されています。

それらはもちろん価値ある知見であり、実践をする際に参考になるものです。しかし、企業担当者が社内でサービスを企画し検証する場合と異なり、リビングラボは生活の文脈の中での活動になるため、その文脈に応じたノウハウや知見がないと、うまく機能しない場合があります。

リビングラボはヨーロッパを中心に学術的知見が蓄積されている領域なので、日本の文脈との違いは顕著です。たとえば、さきほどの「市民を巻き込むための手法」について考えてみましょう。
ヨーロッパではツールAが有効に機能したと学術論文で報告されていたとしても、それは、社会に対して自分の考えを表現することを是とする教育システムや文化という文脈を前提とした効果なのです。日本では、同じツールAを用いても、市民が同じように自分の考えを表現する効果を得られるとは限りません。(詳しくは、国立国会図書館刊行の科学技術に関する調査プロジェクト報告書をご覧ください)

日本のリビングラボ実践で必要な知見を共有しあう活動「実践ノウハウ体系化部会」

では、日本でリビングラボの実践的なノウハウ、知見を得るためには、日本国内の学術論文を参考にするのがよさそうです。日本でもリビングラボの実践者や研究者が増え、論文発表の数も年々増えてきていますが、先ほど書いたような文脈まで含めたリビングラボの知見の体系化は、国際的にもチャレンジングな課題です。他の国内の研究者の動向を見ていても、その知見が学術論文という形で成果が出されるのはもう少し先のことになりそうです。

一方で、実践者による実践者のための活動を行っている日本リビングラボネットワークでは、学術論文という形を待たずとも、実践的なノウハウや知見を蓄積し、活用することが、目の前の実践のために必要となっています。

そこで、前回紹介したコミュニティで実践者同士が対話する中で得られた知見や悩み、問いなどを蓄積し、日本のリビングラボ実践でどのような知見が必要なのかを明らかにし、それらを互いに共有しあう活動「実践ノウハウ体系化部会」を始めています。

対話を通じて、具体的に必要な知見として、「地域のキーマンの主体性を損なわない出会い方」や「共有するビジョンの作り方」、「活動を持続させるためのリソース確保の仕方」など、これまでの学術論文という形で得づらかった知見が得られました。

実践ノウハウを引き出すフレームワーク「リビングラボ曼荼羅」

このような「実践ノウハウ体系化部会」の活動を続けていると、リビングラボは、普通に利用者を調査してコンセプトを作ってサービスを開発するプロセスよりも幅広い活動であることに改めて気づきます。リビングラボで生活者のための価値を生むためには、プロジェクトの関係者だけのビジョンではなく社会的なビジョンとのリンクを考えることや、検証のために有償のテストユーザに関わってもらうのではなくその地域の生活者に暮らしの体験として関わってもらうことが必要な場合があります。

そこで、「実践ノウハウ体系化部会」の活動として、リビングラボのノウハウや知見の幅広さを意識的に捉えて、自分の実践に対して気付きを得たり、他の実践者と話すときに実践ノウハウを引き出すためのフレームワーク「リビングラボ曼荼羅」を作ってみました。(正式な公開は後日になるのですが、ここでは図だけ掲載します)


日本のリビングラボ実践で必要な知見をフレームワーク化したリビングラボ曼荼羅


使ってみた経験からすると、これまでの学術論文で提供されてきたフレームワークを用いて対話するときよりも、日本での実践に必要なノウハウや知見が、より円滑に対話できる感触があります。この部会としては、子のフレームワークのブラッシュアップや他にも有効なフレームワークがないか引き続き検討していく予定です。

また、「実践ノウハウ体系化部会」の活動やリビングラボ曼荼羅の開発で得られた日本のリビングラボ実践で必要な知見を核に据えた学びのプログラムを求める声もいただくようになってきています。そこで、リビングラボを立ち上げたり、リビングラボでサービスを企画・開発できるようにするための人材育成プログラムや、企業や自治体のプロジェクトがリビングラボに取り組む際の組織開発プログラムも開発中です。

次回は、日本リビングラボネットワークの部会活動3である、実践事例の活用についてご紹介します。


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