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国際会議 Open Living Lab Days 2022 ~Co-Creationの変化~

2022/9/20~23開催のリビングラボの国際会議 Open Living Lab Days 2022に参加し、Top Contribution Sessionで発表しました。今年は開催15周年ということもあり、Co-Creation(共創)の変化が主題となっていたので、備忘としてまとめておきます。

Open Living Lab Daysとは

Open Living Lab Daysとは、リビングラボの国際的なネットワークであるEuropean Network of Living Labs (ENoLL)が主催の国際会議です。今年はイタリアのトリノ市で開催され、5大陸(欧州各国を中心として、日本、韓国、中国、サウジアラビア、トルコ、セネガル、アメリカ、カナダ、コロンビア)から350人以上の参加者が集まりました。

トリノ市の産業遺産である鉄道修理工場跡地で開催されたOpen Living Lab Days 2022

一般的な国際会議では研究者の参加者が多いものですが、Public-Private-People Partnershipのアプローチで市民とのCo-Creation(共創)を重視するリビングラボでは日々活動を実践をしている市民や企業、行政職員に使われることが多いため、この国際会議も実践者の割合が多くなっています。そして、実践者が知見を共有し持ち帰りやすくするために、研究発表に加えて、ワークショップやテーマごとのタスクフォースに力を入れているのが特徴になっています。

短い期間にもかかわらず40の対話セッション、40の実践型ワークショップが開催された

Open Living Lab Days 2022の3つの特徴

今年の会議の特徴を簡単に3つの観点でまとめてみます。

1.テーマは”City”

リビングラボ論文の紹介記事でも書きましたが、最近のトレンドとしてUrban Living Labが一つの大きな研究クラスターになっています。また周知のとおり、Smart cityは引き続き重要なトピックです。その中で今年のテーマは「The city as a Lab, but now for real」。街や自治体政策を主題にしたセッションも多く、基調講演もニューヨーク市の政策関係者でした。

2.市民の価値を社会実装するためのエコシステム

個別の実践もしくは研究プロジェクトの事例が多かった会議ですが、エコシステムについて言及するセッションが多くみられました。市民の暮らしと繋がっているローカルエコシステムの視点や、市民の価値を持続可能な形で実現するビジネス(スタートアップ)エコシステムの視点です。トリノ市長と対話をした欧州委員会Eddy Hartog氏は「アウトプットよりもエンジンを!」という表現で、結果としての価値よりも、価値を生み出す土壌の重要性を指摘していました。

欧州委員会の100 Climate neutral citiesに選ばれたトリノ市だが、気候変動政策をきっかけに、エネルギー、交通、食事、財政、DXについて統合的に取り組む事例が話された

3.Co-Creationの変化

そして今回のハイライトであり、大幅に時間延長して盛り上がったのが、歴代の委員長が集まりENoLLの15年を振り返るセッションでした。そこでは欧州リビングラボの歴史から、15年のハイライト、リビングラボの定義や課題など盛りだくさんの内容でしたが、特に注目したいのが、時代の変化に伴ってCo-Creationが変化しているという指摘でした。

欧州でのリビングラボムーブメントを立上げ、政策連携するなどして盛り上げてきた委員長たち

ENoLL初期からの中心人物であるTuija Hirvikoski氏は

「(リビングラボは)社会的な問題や厄介な問題(wicked problems)に共同して取り組むためのツールであり、(今の時代は)もはや漸進的なイノベーションをテストするためのテストベッドではありません」

ENoLL 15 years – An outlook on the past and the future of Living Labs

と言い切っていました。
また、Jarmo Eskelinen氏は、時代の変化を踏まえ、Co-Creationの3つの領域(Domain)について説明しました。

時代の変化を踏まえたCo-Creationの3つの領域

「第一の領域がUser Driven。これはサービスデザインなどの普及によりデファクト化した。第二の領域がData Driven。リアルタイムにユーザの行動に反応して微調整することで、産業界に効率的なUser Centricな方法をもたらした。当初はリビングラボに関係すると思っていたこれら2つの領域が、そうではなくなってきている。
一方で、User DrivenやData Drivenでは対応できないのが、気候変動、不平等、世界の民主化、健康と福祉などの厄介な問題(wicked problems)であり、そのために必要な第三の領域が、行動を変え、文化を変え、生き方を変えること。この領域にこそ、一方的に作用するのではなく一緒に変えていくCo-Creationが有効だと信じている。

ENoLL 15 years – An outlook on the past and the future of Living Labs

つまり、”Transitionに資するCo-Creation”への変化が今年の大きな特徴と言えるでしょう。このセッション以外の登壇者からもTransitionのキーワードが出ており、多くの人の関心事となっていることがわかりました。

欧州からの学びとこれからの日本

Q&Aの一つとして、欧州以外の異文化への展開が話題になっていましたが、まさに欧州の人々のマインドセットやそれに相互循環しながら生み出された社会システムが、今の欧州でのリビングラボの基盤を作っていると感じます。一方、Transition DesignやMore than humanなどこれからのデザインのあり方が大きく転回する世界のトレンドの中で、日本で「行動を変え、文化を変え、生き方を変えるCo-Creation」をどのように育んでいくのか(価値を生み出す土壌を耕していくのか)は、大きな課題になります。

日本でもリビングラボに関する実践が増え、それに伴い相談も増えつつある状況ですが、Open Living Lab Daysのような人と人とのつながりの場も含めて、日本のCo-Creationがより良く変わっていくことに少しでも貢献できたらと思います。

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