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「正論言いたいマン」につぶされる組織

 会社の経営とは、誤解をおそれずに言えば、全員で「壮大なフィクションを信じ込む」ことであろう。たとえば、経営の根本にはまず「ビジョン」があるべきだとされる。しかし、そもそもこの「ビジョン」自体こそが、最大のフィクションといえるのだ。

 ビジョンには実体がない。実際に「存在」しているのかどうか、当然ながら物理的なモノとして見ることはできない。突き詰めれば、ビジョンが存在しているのは、経営陣と、会社メンバーの頭の中だけである。つまり、「人為的に作られたフィクション」、それが経営ビジョンと呼ばれるものの正体に他ならない。

 しかしそれは、フィクションだからこそ重要なのだといえる。まだ世の中に実現していない理想の世界、その世界を実現させるため、みんなで額に汗して日々努力する。「共有されたフィクション」としての目指すべき世界があるからこそ、元はまったく縁のなかった別々の個人が、同じメンバーとして力を合わせることができるのだ。監督と演者たちが、理想の物語の台本を作り上げ、それを全メンバーで実際に演じていくイメージに近い。

 しかし、経営は簡単ではない。そのわかりやすい例が、「全員で共有しているはずのフィクションを否定しようとする個人」の存在である。ある一人が、「それってそもそもどうなんですか? おかしくないですか?」とビジョンを真っ向から否定した瞬間に、「みんなでなんとか紡いできた物語」が、もろくも破綻するかもしれない危機がやってくるのだ。


 もちろん、組織のメンバーとして、自分の意見を述べることは重要だ。ときには、あえて空気を読まずに発言することも。みんながみんな会社の方針に従うだけで、自分の意見を一切言わなくなってしまったような組織は、成長する可能性がほぼ0といえる。

 しかし、である。少なくともその組織に所属し、一人のメンバーとしてみんなと一緒にやっていこうとするつもりなら、「共有されたビジョン(つまりフィクション)」についての最低限の共感は必要であろう

 そこを否定してしまうと、それまでの、他のメンバーの努力もすべて否定してしまうことになる。しかもそういう人は、「そこにこだわるオレってすばらしい」などと、変に自己陶酔してしまうのでとても始末が悪い。


 それがもし、自分なりに会社に危機感を持つ気持ちからの意見なら、あるいは価値のあるクエスチョンなのかもしれない。しかし往々にして、こういう投げかけは、単なる「個人の思い込み」から発せられることが多い。

 自分なりの世界観を持っているといえば聞こえはいいが、意固地でプライドが高く、人の意見をまったく聞こうとしないタイプの人間。こういう人間が、根本的なそもそも論を、「このタイミングでそれを言うのか」という感じで突然に入れ込んでくる。

 そういう人の口癖は、「自分は納得できないですね」だ。これをドヤ顔でいう。なぜか、そう言えば勝ちみたいな誇った感じで。しかし一人前の大人なのであれば、みんなが同意していることについて、少なくともまずは自分の努力で理解しようと務めるべきだろう。他でもない、一緒にやっていくべき、同じ会社のメンバーなのだから。

 2人以上の人間が集まってチームを組んだ時点で、完全に自分の意志だけを押し通すことはできない。相手の意見を聞き、譲歩すべきところは譲歩し、全員が納得できる方向を探る。いわんや、もっと大人数が運命を共にしている、会社組織においてはなおさらだ。


 もし、どうしても自分としては会社のビジョンに納得できないのなら、自分の思いと一致する会社を選べばいいだけの話だ。これは、別に冷たい話をしているわけではない。そもそも会社とは、「目的やビジョンに共感したメンバー」が集まるはずの場所で、その要件を満たしていないチグハグの状態なのであれば、個人としても会社としても不幸になってしまうだけだ。

 しかしこういう人は、自分からの理解や歩み寄りの努力を一切放棄し、「十分に納得させてもらいたい」と、なぜか上から目線で言い放つ。会社側も(とても皮肉なことに)、ビジョナリーな会社であればあるほど、多様性を重視し、個人の意見を大切にする組織が多い。だから、こんな意見も、単なる異端な意見として、無下に却下することもできない。


 その結果、誰もが扱いに困る、モンスター社員を長く抱え続けることになる。役職が上であればあるほど最悪だ。みんなで一生懸命に作り上げようとする物語を、単なる自分の思い込みだけで否定してくる。それも、反論しづらい「正論」を武器にして。正論だけで生きていけるなら誰も苦労しないし、世の中はとっくにバラ色だ。

 正論だけでは解決できないような、ものすごく複雑な社会の課題を、ものすごく絶妙なバランスにおいて解決していく営みが会社経営というものだ。だからこそ、「共有されたフィクション」であるストーリーやビジョンが必要。それを冷笑的に否定するような人は、そもそも同じ組織のメンバーとして迎え入れるべきではない。敵は、外部にいるよりも内部にいる方がはるかに怖いのだ

 一緒に働く仲間を集めるということは、それほどに重要であり、かつ大変だということ。肝に命じたい。


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