「飽きっぽい」ことは、これからの社会では強みになる
「飽きっぽい」という言葉は、人に対する評価としてはものすごくネガティブな力を持ちますよね。人として完全にダメなやつだ、と言われている気がします。それくらい強いワードだなあと思っています。
僕が小学生のときなんかは、通知表には毎回のように「飽きっぽい」性格を直しましょう、と書かれていました。これ、ものすごいダメ出しですよね。当時、「自己肯定感」という言葉なぞ知りませんでしたが、まさに自己肯定感をダダ下がりにしてしまう怖い言葉です。
今でも覚えているのは、「飽きっぽい」ことがどれくらい理不尽なまでに低評価になってしまうか、ということです。
例えば、1年間、1つのことをずっと続けたA君は評価されるわけです。コツコツ、マジメに続けてえらいと。でも、僕が5つくらいの新しいことをはじめて、そのうち途中で4つをやめたような場合、「4つも途中で投げ出したのか!」となってしまうわけです。結果、ものすごい低い評価になります。
それは、たとえ残りの1つのことはちゃんと続けていても、です。1つが続いているという事実においては、A君とまったく同じはずです。しかしながら、「4つやめた」ことだけがフィーチャーされ、「あいつは根気がないやつだ」との烙印を押されてしまうのですよね。これ、なぜかこうなってしまいます。とても不思議だなあと思ってきました。
このような子供の頃の経験があったわけですが、大人になってからは、かなり考え方が変わってきました。パラダイムシフトに成功したともいえます。
それは、「飽きっぽい」というネガティブな言葉をポジティブに変換すると、「好奇心が強い、執着しない」と言えるのではという考え方です。そのように考えるようにすると、一気に、ものすごく前向きになりますね。
たとえば自分の例でいうと、かつて創業した会社をリクルートに売却できたのは「執着しない」という性格が幸いしたからだとも思っています。
2008年当時、ITスタートアップのM&Aの事例はまだそんなに多くなく、割と珍しがられました。「よくぞ、自分の会社を売却するという決断ができたね」ということです。
でも僕からすると、逆になぜそんな風に言われるのだろうと不思議でした。別に、自分の中ではごく当たり前の決断だったからです。自分がやるよりも、経営をバトンタッチした方がもっとうまく行くはずだという確信がありました。執着心がないからこそ、最善の決断ができたと今でも思っています。
実際、会社は売却後も事業を着実に伸ばし、結果として、(自分が社長を続けていたよりも)みんなハッピーになったと思うのです。
これからの時代に必要な考え方、そして姿勢とは
「VUCAの時代」などと言われます。変化が激しいし、先も読めない。だから、機敏に動く力がものすごく求められます。そしてこういう時代こそ、ままさに「飽きっぽい」ことが、かなりプラスに働くのだと思っています。
もちろん、ガマン強いこと、長続きさせる力、これらの価値が失われるわけではないでしょう。しかしながら、あまりに一つのことに執着しすぎると、時代に取り残されてしまうリスクも高まるはずです。
サンクコスト(埋没費用)とは、「すでに支払ってしまい、取り返すことのできない金銭的・時間的・労力的なコスト」のことですが、これを気にしない能力や姿勢はとても重要だと思っています。もったいない、と思う気持ちがあまりないからこそ切り替えが可能で、その分新しい世界が広がるはずです。
昨今の「リスキリング」を取り巻くイメージや意見なんて、まさに象徴的だと思うのです。リスキリングと言われるとき、ある種のネガティブなイメージ、もしくは悲壮感を持って語られることがあります。「変わらなければ生き残れない」というイメージですね。
一つのことだけをずっとやりたい人にとっては、確かにリスキリングはつらいかもしれません。だから、どうしても「強制」感が出るんですよね。
しかしながら、本来、リスキリングはネガティブなものではないはずです。リスキリングとは、もっと楽しいもの。とくに僕みたいに「飽きっぽい」人間にとっては、新しい学びはいつも本当に楽しいものです。新鮮で、発見だらけですからね。
覚えておくべきは、「何かを捨てないと、新しいことができない」という事実だと思うのです。
だから、「適切なタイミングで飽きる」のは実はものすごく重要な能力だと思います。適切に何かを手放すことができるからこそ、新しいことにチャレンジできる。
人間の時間は有限です。だから、古いことを続けたまま新しいことを増やしてしまうとパンクします。日々、十分な睡眠時間を確保することも本当に大切です。
大事なのは、「飽きて、辞めた」ことは0にはならないということだと思います。やったことは、きちんと何かしら残っています。それで、新しいことと「掛け算」もできる。僕は、そうやってこれまでやってきました。
「飽きっぽい」と言われ続けて自己肯定感を無くしていた人には本当に朗報だと思います。いよいよ、それが活きる時代がきた。そう考えて良いのではないでしょうか。
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