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個展「文字と熊」振返り(その1)

昨年の11月5日(土)〜11月20日(日)、東京・神田のTETOKAにて開催した個展「文字と熊」を数回に分けて振り返りたいと思います。詳細は上記サイトから御覧ください。

この展示は「禅」というものを、禅語タイポグラフィと「座禅熊」という陶彫刻によって再構築したものと言えます。

仏教系のモチーフは随分取り組んできたのですが最近は少し離れていました。今回再び「禅語」という仏教のモチーフを選んだのには自然な成り行きがあったのですが後で書きます。
文字のスタイルは、もはや読めなくて構わないという意識で作りましたので自分史上もっとも難読な抽象画に近いものになりました。色はシルバーや僅かに色味を含んだグレー以外はモノクロでしたのでフォルムで勝負したと言えます。
※会場にはモチーフにした禅語の意味を解説したシートを置いて配布しました。

「座禅熊 no.3」 信楽土+テラコッタ土、焼締め、2022年 ©sai santo

座禅(瞑想)する熊の陶彫刻は仏像の拡大解釈であり、アイヌにとっての神である熊と仏教の修行をかけ合わせた自己流の「神仏習合」の表現とも言えます。「不立文字(ふりゅうもんじ)」という禅語は「悟りは言葉では表すことができない」という意味ですが、言葉にできない部分を座禅熊から感じとってもらいたい、という願いを込めた試みでした。
幸い「熊に癒やされた」というご感想を多くいただくことができました。
※彫刻を再開した経緯は前々回の投稿を御覧ください。

今回「禅語」をテーマにしたのは茶道がきっかけでした。2020年と2022年に、ギャラリーカメリア(銀座)にて行われた「ぜんぶわすれる」というアートとしての喫茶イベントで、茶室に見立てた画廊内の掛け軸代わりに禅語タイポグラフィを制作したことで、禅の精神や美学を場所や道具、所作などに置き換えた茶道に興味が出てきました。
また、こうした文化とからめて表現することで仏教のことばも抵抗なく受け入れてもらえることを実感できました。

下記の「喫茶去(きっさこ)」という禅語のタイポグラフィは昨年(2022年)の2回目の喫茶イベント開催のために制作したものですが、このスタイルが今回の展示の発端になりました。

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以下、言葉の意味と作品について説明します。

「喫茶去」 ©2022 Jiro Bando

<喫茶去(きっさこ)>
未熟な修行者への「お茶を飲みに行け(お茶を飲んで目を覚まして出直してこい)。」というという叱責だったが、「お茶を飲んでいけ(お茶をどうぞ)。」という意味に転じて用いられるようになった。

まず、今回のタイポグラフィの出発点になった「喫茶去」を額装して展示しました。直線を使わずほぼ曲線による流動的なフォルム(形体)になっています。

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「鉄船水上浮」 ©2022 Jiro Bando

<鉄船水上浮(てつせんすいじょうにうく)>
あり得ないことが起こる。※まだ鉄の船がない時代の言葉。
コロナや戦争など、まさに今の状況につながる言葉と感じます。一昨年から自分が彫刻を再開したのも想定外でした。

形は上記の喫茶去を意識していますが、マスキングとスプレーやペイントで試行錯誤するうちに中央から発光しているようなイメージが現れました。

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「身心脱落」 ©2022 Jiro Bando

<身心脱落(しんじんだつらく)>
悟りの境地。相対的執着から開放された精神状態。
ガクッと何かが抜け落ちるような実感のこもった言葉と思います。

意図的にいくつかの字画を省略して意味性を弱めた。ペインティングの上に、最近使ってきたドットのグラデーションをシルクで刷っています。

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「莫妄想(まくもうぞう)」 ©2022 Jiro Bando

<莫妄想(まくもうぞう)>
妄想するなかれ。仏教は妄想や執着など人間ならではの脳の働きを非常に嫌います。

入り組んで流動的な線画の下絵を複数のマスキングシートとスプレーで塗り分け、白い輪郭線によってアクセントを付けた。これも発光するイメージが現れてきました。

次に続きます。

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