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死の掲示板は試合開始の合図。

あの日、美術準備室での向井先生と函館先生の会話…途中からしか聞こえていなかったけど。

なんだか不穏だった。二人とも何かを隠している。いや、秘めているという方が正しいのか。すぐそこに居るのに、なんだかずっと遠くに居るような。

せっかく高校生活、さらには勉強、将来にも興味が湧いて、そして、何かが始まりそうな予感が駆け巡っていたのに…

あれ以降先生と顔を合わせていない。いや、一度授業はあったけど、ちゃんと目を合わせていない。

やだ、私何を考えているのだろう。
気がつけば、最近何かを考えるたびに、最後は毎回先生に行きついてしまう。


それにしても退屈な化学の授業だ。世界史以外、他がより一層つまらなくなってしまった。
これも先生のせいだわ。

あら、また考えちゃった。ふふ。

チャイムが鳴った。
やっと終わった。さて、次の授業はお待ちかねの世界史ね…また、お待ちかねだなんて。
景子は廊下にでた。一つ教室を挟んだ教室からちょうど函館が出てきたところだった。
ちょっと挨拶にいっておこう。

景子が歩き出したところで、函館のすぐ後ろから佳子が出てきた。

先生、ごめんなさい、私の早とちりで。
あ、いえ、他の誰かが困ったいるかもしれませんので、その人に早く返してあげてください。

先生のだと思ったから拾ったけど、知らない人のならもういいや…ね。先生の背中を軽く叩く佳子。

はは。まぁそう言わずに。
楽しそうに話す二人。

あれ、佳子あんなに函館先生と仲良かったっけ…
景子はくるりと一回転して、教室に戻った。


さて、景子どう出てくるかな?
私の電光石火の小手思い出したかしら。
佳子は、教室に踵を返した景子をチラリと見てから、再び函館を追いかける。

先生、私他の教科はあんまりダメだけど、もしかしたら世界史は、なんかいけるかも。

そうですか、それは良かった。では次がありますので、これで。
函館はスタスタと歩き出す。が、立ち止まり振り向く。

あ、の…もし良かったら…あ、いや、やっぱりなんでもないです。それでは。
再び歩き出す函館。

え?何?何ですか?
函館を追いかける山中。
困り顔の函館。
い、いやぁ、あの、まぁ…あとで廊下の西端の掲示板を見てみてください。

え、誰もあの掲示板なんて見てないよ。死の掲示板だもん。何?死の宣告とか?デスノート?はは。

あ、いやいや。まぁ忘れてください。あ、でもこれをお伝えしたことは内緒で。

え、内緒?了解!
ふふ、意外にあの小手が効いたと見えるわ。秘密を共有するなんて上出来よ。佳子はほくそ笑んだ。

自分からけしかけるなんて…教頭の思う壺だ。
次郎は独りごちた。


ガラ。
起立、礼。
こんにちは。

さっきは佳子と何を話していたんだろう?先生の説明の声は聞こえているのだが、内容が全く頭に入ってこない。
景子は、佳子との紅白戦を思い出していた。
確かあの子、出会い頭の小手がうまかったのよね。何度かやられたか。意外な速さで。
あれ、なんでこんなこと思い出してるんだろう。

いや、本当はわかっている。さっきのやり取りが気になって仕方ないのだ。何を話したんだろ。
よし、授業が終わったら問い詰めよう。
景子は、まるで当て付けのように、授業中何度も函館を睨みつけた。


なんだ?さっきから睨みつけて。何かしたかな。いや何もしていない。というよりそもそもほとんど喋ってもいない。
まぁいい、知ったことか。

来週からは近現代史を先にやろうと考えています。
チャイムが鳴った。
それでは、また。
起立、礼。

いつものように函館はスタスタと教室を出る。
出た瞬間、後ろの扉から回り込んだ目崎がいた。
先生、ちょっといいですか?
(ぐ、なんだ、やはり何かしたか)
はぁ、何でしょう?
廊下の隅から古賀が歩いてくるのが見えた。
(くそ、タイミングが悪いな)
目崎さん、急ぐのでこちらに歩きながら話しを聞きましょう。
次郎は古賀が来るのと逆方向の廊下の端へ歩き始めた。その後ろを目崎もついてくる。
古賀が訝しげに睨んでいる。

先生、速い。速い。
あ、ああ、すいません。

二人は廊下を曲がった。ちょうど死の掲示板があるところだった。

で、お話とは?
息切れする二人。

あはははは。
急に笑い出す景子。

え?

いや、大した用事じゃないんです。うふふ。
先生今日佳子と話してたでしょ、何話してたのかなって思って。私親友なんです。

そうですか、授業中にかなり睨んでいたように思いましたので、何か起きたのかと心配しました。

あら、そんな顔してましたか?

はい。まぁいいです。山中さんに落とし物のハンカチを間違って渡されただけです。で、ではまた。

あ、そうですか…
なんだそんなことか。心配して損した…(心配?何の?)

次郎は歩きだす。そして、やはりしばらくして振り返る。そして、景子に向かって掲示板を指さす。

何ですか?
あ、いや、ご興味あれば。

では、これで。
函館はスタスタ歩き出した。
また、誘ってしまった。つくづく人がいいな俺は。
次郎は独りごちた。

なんだろ?死の掲示板なんか指差して。



見慣れない小さな貼り紙があった。
『歴史部。興味ある人は函館まで。』

何これ。

何のお知らせだろう。よくわからないけど。
景子は歩き去る函館の後姿と掲示物を見比べた。

景子のその姿を、佳子と、そして遠くから古賀が見ていた。
















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