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藍宇江魚 短編集

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藍宇江魚の短編集です。 ここには、noteで公開した10000字くらいまでの作品を収めました。 ジャンルはフリー。 小説、エッセイです。 ヨロシクお願い致します。 ちなみにヘッダ… もっと読む
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記事一覧

まだ、死にとうない

 …うーん。割れる。頭が、割れそうに痛い… 「社長。眠そうにして。酔っ払いました?」  …酔ってなんかおらん。あぁ、声が出せん… 「珍しいなぁ。まだ、そんなに飲まれていないでしょう?」  …意識が。目の前が、薄れる… 「社長。このところ忙しかったから」  …あぁ。もう目を開けていられん… 「えっ?」 「社長、大丈夫ですか?」 「あら。もう酔っちゃったんですか?」 「社長。社長。起きて下さい」 「あら嫌だ。鼾かいちゃって」 「社長。社長。しっかりして下さい」 「いいわよ。疲れて

蟲魂(むしだま)

「蟲。おらんかねぇ…」  それは、鈴の音を鳴らしながら道を行く虫籠売りの男の声だった。  風変りな様相の男だった。  編み笠を被ってるいるので顔は見えないが、声の感じからすると三十前後と思われた。背は高いようだが痩せた体つき。歩く姿は案山子に思えた。 「蟲。蟲はおらんかねぇ…。虫籠も沢山あるよ。籠に入れる蟲、おらんかねぇ…」  何とも珍妙な商い口上である。 「虫。虫って。籠なんて売らないで虫売りとなれば良いのに…」  彼女は通りに面した二階家の窓辺に腰を下ろし、眼下を過る虫籠

新月夜会

          酒場 扉を開けて店主の親父と目が合うと、奴はちょっと困った眼差しで俺を迎えた。 「いらっしゃい」「混んでるようだな」「珍しいよ。今日は、この時間から混んでるんだ」「まだ夕方の6時前なのにな」「こんな事、滅多にない」「そうだな」「親父。ビール2本」「はいよ」「親父。出直すわ」「あァ。ちょっと待て、待て」「また来るよ」「まぁ待てって」  縄暖簾越しの町は夕陽で深紅に染まる。  それとは対照的にビルの陰は闇に霞む。 「今さ、席を用意してるから」「でも、いっぱいだ

NEW Moon Party -新月夜会 英語版-

Tavern When I opened the door and met the owner's father, he greeted me with a slightly embarrassed look. "Welcome" "It seems crowded" "It's rare. It's crowded from this time today" "It's still before 6 o'clock in the evening" "T

黒と白 -英語版-

 Tetsuji frowned as he looked at himself in the mirror in the bedroom.  "What is a white mask for mourning ..."  His boss, who has been indebted to him since joining the company he worked for before his independence, suddenly died as the pr

さくらショッピング2

 …煩いわねぇ…  ファミレスで主婦友の麻里奈を待つ明日香、周りの席で喧しい主婦友グループに閉口。             *  名前:河合麻里奈  年齢:41歳  属性:専業主婦  家族:亭主、中学2と幼稚園の息子たち  娯楽:通販  恋心:宅配の吉本くん  失恋:十中八九、宅配の吉本くん  不安:内緒で買った楊貴妃ジェルのことが明日香にバレたらどうしよう             *  SNS:小泉明日香→河合真理子             *  名前:小泉明日香  年齢:

都・死瞬 TOSISYUN  -英語版-

         Already finished?  One night in the midwinter.  A young man who lost his job and home in a pandemic was vacantly watching a large-scale vision of a commercial building in a corner of the station square.  The name of the young ma

黒と白

 寝室の姿見鏡に映る自分を見ながら哲司は顔をしかめた。 「喪服に白いマスクはなぁ…」  独立前に勤めていた会社で入社以来世話になった上司にして、自分の会社の主要取引先の社長が急逝し、その日の午後に社葬が執り行われる。 「社葬だろ。マスクは黒の方が…」 「パパ。何してるの」  妻の早苗が苛立ち気味に寝室を覗きながら言った。 「社葬に白いマスク。まずくないか?」  早苗はあきれ気味に言った。 「もう。直ぐ出ないと式に間に合いませんよッ」           *  コロナとはいえ社

カップルたちの『あ』『そ』『こ』

      もう直ぐ金婚式の二人の『あ』れ 「あれ。どこ?」 「あれ?」 「あれだよ」 「あれのこと?」 「あれ」 「あれね」 「あれじゃない」 「あれ、じゃないの?」 「あれだって。あれッ」 「あれって…」 「あれなんだけどなぁ」 「あれあれって…」 「あれですよ…」 「あ…、あれ?」 「あれっ」 「あれね。はいはい」       肉特売場付近での夫婦の『そ』れ 「それ安いなぁ…」 「それ要らない」 「それとか?」 「それも要らない」 「それッ」 「それ入れない」 「それ

What is it ?

 夜空を彩る花火を居間で眺める二人。  竜は、渉に言った。 「なぁ。俺たち。もう別れよう…」 「えっ。どうして?」 「俺。自分の子供が欲しくなった」  その夜のフィナーレを飾る大輪の花火が二人の前でパッと、一際派手に散った。           *  猛烈な台風の朝。  渉は、最近付き合い始めた彼氏の翔とベッドの中で話している。 「ゲイで子供欲しいかぁ…」 「そう言われるとね。別れる以外ないし」 「それで荒れてたんだ」 「うん。でも、どん底で翔に救われた」  二人、苦笑。 「

縁側から見える枇杷の生垣

 今年も、隣家との生垣で植えている枇杷にたくさんの実が生った。  征子がそれを収穫していた時、足元に落ちている枇杷の種に気づいた。  彼女はしゃがむと、その種を愛しむように指先で撫でた。           *  庭を散歩している征子の足元に、枇杷の種がポトリ降り落ちて転がった。  …建造め。また、うちの枇杷の実を…  垣根越しに隣の庭を覗くと、征子の幼馴染の建造が枇杷の実をムシャムシャ食べている。  彼を見るなり、征子は大声で怒鳴った。         「こらッ。う

ワクワクする一歩先へ

      ええっ。肩透かしかよ  小学校5年生の柊太です。  新学期が始まった間もない頃、僕はLGBTの授業を受けました。 先生からアルファベットの意味を説明があって、『G』の意味で僕は気づかされたのでした。  …あっ。僕ってゲイなんだ…  周りを見ると、クラスメイトのみんなの反応はそれぞれでした。  ポカンと口を開けたまま、先生の説明を聞いて居る子。  でも、あの子たちはきっと先生の説明が解っていません。  冷めた眼差し、ちょっと上から目線かも、そんな数人の同級生たち。

僕らはキレイ 後編

      ゴミに埋まる白亜紀  夢島は強烈な異臭で目覚めた。 「ここは?」  四方八方、辺り一面ゴミ。  丘の中腹、自分の足の少し先でゴミに埋もれて息絶えたティラノサウルスにギョッとさせられも、むしろそれで彼は正気を取り戻す。  …白亜紀の地球に飛ばされたのか…  時折、空で爆発閃光が起きては大量のゴミが降り注いだ。  …僕らの地球。キレイになったかなぁ…  ぼんやりとそう思った夢島だが、ある事に気づきハッとさせられる。  …恐竜絶滅の真実って、人類のゴミだったのか…  

僕らはキレイ 前編

      ずっと先の未来  その頃、国際ゴミ管理局(IGMO 通称『イグモ』)に勤める、夢島という24歳独身の若者がいました。  イグモとは、世界中のゴミを集めて『エリアG』と呼んでいる異宇宙空間へ棄てている国際組織です。 当時の人類は、ワームホール制御技術を応用して開発した『ワームホールゴミ棄てシステム(WDGS。通称『ワドジス』)を全世界に普及させ、ゴミの全てをエリアGに棄てていました。ワドジスには地球側とエリアG側の双方にゲートと呼ばれているプラントがありました。地