縁側から見える枇杷の生垣
今年も、隣家との生垣で植えている枇杷にたくさんの実が生った。
征子がそれを収穫していた時、足元に落ちている枇杷の種に気づいた。
彼女はしゃがむと、その種を愛しむように指先で撫でた。
*
庭を散歩している征子の足元に、枇杷の種がポトリ降り落ちて転がった。
…建造め。また、うちの枇杷の実を…
垣根越しに隣の庭を覗くと、征子の幼馴染の建造が枇杷の実をムシャムシャ食べている。
彼を見るなり、征子は大声で怒鳴った。
「こらッ。うちの枇杷だ。勝手に食べんなッ」
建造は素知らぬ風情で枇杷を食べ続ける。
そして、征子を一瞥するや口の中の種を彼女に向けてプッと吹き飛ばした。
「こらっ。汚い。飛ばすなッ」
建造は、ニッと笑うと言った。
「うちの庭先に伸びた枝に生った実だ。旨いから食べてやってんだ」
…毎年毎年。どれだけ食べたら気が済む…
鼻歌混じりで家に入る建造の背中を見ながら、征子は溜息を漏らた。
*
その年、征子が収穫していると枇杷の生垣が激しく揺れ、枇杷の実が降り落ちてきた。
…建造の奴。悪ふざけしおって…
垣根越しに隣りを見ると、枇杷の実の中で倒れている建造がいた。
「け、建造ッ」
*
…建造め。あの世から飛ばしたな…
その種から根が地中へと伸びていて彼女が撫でると殻が外れ、小さな双葉が彼女を見上げるように顔を覗かせた。
…散々食べおったから、細やかなお礼の積りかね…
「天まで育て」
新芽へエールを送り、見上げた梅雨の合間の青空は爽やかだった。
(END)
(次回アップ予定:2021.5.5)
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