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藍 宇江魚
2021年8月7日 00:30
蛻吉たちは、根津の御前屋敷の表玄関の前に立っていた。「随分すんなりと入れたわねぇ…」 あさり、ちょっと拍子抜けの表情。「入れたより、入れてくれたって言う方が近いと思うぜ」 蛻吉、ニヤニヤ。「とんでもないお化けが、入って来る人間を待ち構えてるということでしょうか?」 伊織、にこやかに笑っているが腰が引け気味。 ガザミ、蛻吉の懐の中で遊ぶ。「まぁ兎も角、中へ入らない事には始らないぜ」
2021年8月14日 23:50
伊織とあさりは畳敷の回廊を歩き続けていた。「あさり殿」「もう。あさりって、呼び捨てで良いわよ」「あぁ。では、あさりさん」「…」「会って間もないのに呼び捨てというのも気が引けるので…」「まぁ、良いけど。何?」「さっきから気になっているのですが、ずっと同じ所を歩いていませんか?」「そうみたいね」 あさりは立ち止まり、伊織の左手を見て言った。「あたしも伊織っちのことで気になっている
2021年8月21日 23:25
徳兵衛、蛻吉ともに9歳。 あさり、7歳。 三人、夏の午後に山中の廃寺にて。 あさりが泣いている。「あさり。どうした?」 彼女を慰める徳兵衛。 蛻吉は無表情で二人を見つめている。「虹色の蟲魂。逃がしたぁ」「虹色?」「うん」「よし。俺が獲って来てやる」「徳ちゃん。ほんとう?」「まかせとけ。蛻吉。行くぞッ」 徳兵衛、蛻吉の手を引っ張って山へ向かった。 廃寺の前。 草む
2021年8月30日 17:00
お勢は、夕餉を食する徳兵衛をジッと見つめている。 箸を口へ運ぶ手を休めて徳兵衛は、お勢の顔をみると微笑んで言った。「お勢。この煮つけ。とても美味しいよ」 お勢はちょっとがっかりした顔つきとなる。「どうしたんだい?」「…」「蛻吉にも食べて貰いたかったんだね?」 お勢、頷く。「仕事でね。蛻吉の奴。しばらく戻れないかもしれないねぇ」 お勢、更に深く項垂れ。「心配しなくてもお勢の気持