見出し画像

企業における人材ニーズの実態

昨今、労働人口の減少に伴う人手不足を憂う情報がニュースやSNS等で騒がれている。実際、40歳以下の労働人口は減少し続けており、特に若手層で深刻な人材不足が国単位で起きている事は確かだ。各社とも優秀な若手人材の獲得に躍起になっており、採用活動の過熱はとどまるところを知らない様相を呈している。

飲食店や配送業、建築業等の人手を必要とする産業では、人員不足は即致命傷となる為、非常に強い危機感を持っているだろうが、ホワイトカラーを中心とした知識労働者に関しては実際、本当の意味で人手不足が発生している訳ではない。むしろ、ホワイトカラー層そのものは余っているとすら言える。

企業人事に所属する自分が感じる温度感は、実はここ数年以来、殆ど変化していない。求められる人物像は以下のような存在だ。

■企業の求める人物像の一般的特徴

・35歳以下(できれば28歳~32歳)
・高学歴もしくはそれと同程度のIQや思考力を持つと推測される客観的指標
・他社で優秀な成果を出したり、豊富な経験を積んだりしている実務経験者
・自ら課題を考え、積極的に問題解決を実行に移せる思考力と行動力を持つ
・ビジネスレベルの英語、高度な専門知識や技術(ITや研究等)に関する技能を持つ
・向上心が高く、自ら環境に適応し、成長&変化していく柔軟性を持つ
・周囲に対して個人的なリーダーシップを発揮しつつ、我を張らず組織に調和も出来る

いわゆる「どんな企業にも内定が取れるような超優秀者」である。景気の良し悪しに関係なくいつでも内定を取れる人達だ。企業はこれら「優秀な若手」が高いパフォーマンスを発揮した場合、それに見合う高い報酬を支払う事を嫌だと思ってはいない。(人事制度の構造上、それが出来ずに悩む事はあるだろうが、支払いたくないとは思っていない)

それ以外の人材は、はっきり言って求められていない。特に大企業ではこの傾向が顕著だ。実は日本に労働者がいないのではない。高度に進化したグローバル経済の情勢において、企業経営にとってすぐに高い成果をもたらす人材が不足しているのだ。

端的に表現すれば、日本には「使えない(と企業が一方的に定義する)労働者」があふれており、一方で一握りの「優秀な若手」を企業が躍起になって獲得合戦している、と言える。それをHR業界では「人材不足」と表現している。人手不足ではなく、「人材(優秀な若手)」不足なのだ。そして企業にとってそれは紛れもなく事実であり、危機だ。特に技術に立脚するベンチャー企業は優れた技術者が生み出す価値がそのまま商品力になる為、その傾向はより顕著となる。優秀な人材が自社にいて活躍するか、競合他社で活躍して自社を打ち負かすか、その差は下手をすれば致命傷になるからだ。

■文脈に沿った人材へのニーズの高まり

別の側面から言うと、企業の求める人材とは、今この瞬間に自社の特定の問題に対し、効果的に機能する人材を指している。経営者が解決して欲しいある特定の課題があり、それを解決できる人が今、欲しい。経営者が求めていない(あるいは触れて欲しくない)重大な問題をほじくり返してほしい訳ではない。あくまで経営者の求める文脈にそった人材が欲しいのだ。しかも、それらのニーズはわずか数か月~数年で変化する。下手をすれば昨年度に熱望されていたあるスキルや経験を持つ人材が、現在では全く不要になる事も十分にある。極端な例では、ベンチャー企業では3か月後にはプロジェクトが消失(中止)し、仕事が無くなってしまう事もめずらしくない。実際、ベンチャー企業在籍時には、この目で正社員採用された人のニーズが3か月後に跡形もなく消失する場面を幾度も目撃しており、その後も人材エージェントからそのような話を頻繁に耳にする。

もはや企業は中途採用において、正社員(雇用契約の期間の定めがない労働基準法及びその関連法に保護された存在としての労働者)を必要としていない。出来れば全員都度利用したいと考えている。その都度必要な経費を支払い、不要になったら契約解除したい。一部の忠誠心の高く能力にも優れる中核的正社員だけ確保しておけばよい。総じてそういう中核的正社員は新卒採用枠で入社し、社内で頭角を現している優秀層だ。彼らを除けば、人員を固定費として抱え込む経営は極めてリスクの高い。特に日本の労働関連法にて強い権利を守られている労働者との契約は、解雇の難しさゆえに今の時代にそぐわないと企業は感じるだろう。

■業務委託化が進む中途採用の未来

今後、中途採用市場の殆どは業務委託契約に取って代わる日が来るだろう。その方が企業ニーズに即しているからだ。働き方改革が進むことで個人の働き方も多様性を増し、一社で正社員契約を長く続ける事のインセンティブもやがて失われていくだろう。副業は当然になり、複数の企業と契約を締結している人は増えると予想される。労働市場は少数の中核的正社員と多数の業務委託(小規模会社による受託事業も含む)の二分化が進む。労働者の大半は業務委託契約となり、その中でも高度な業務を担う専門家タイプとほぼ普通の社員と同じように働く従業員タイプに分かれるだろう。それに伴い、市場価値も大きく差がつくはずだ。

君は、生き残ることが出来るか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?