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この本には"人生"が書いてある~『アルケミスト 夢を旅した少年』

人生について、美しく、シンプルに、かつ”決定的”な仕方で書かれた書物はとても少ない。

サン・テグジュペリ『星の王子さま』と並び、本書はまさにそれなる本である。人生のいつ、いかなる境遇で手にとっても、必ず新たな気づきがあり、そして新たな光がある。

個人的には、2年ぶりの再読になるが、過去幾度本書をめくったか知れない。

不幸にもこれまで読んだことがない諸賢がおるならば、このまま読まずに死んでは絶対に、絶対にいけない1冊である。

大スジとしては、羊飼いの少年サンチャゴが、ある日見た夢の求めに応じて世界を旅し、様々な幻想的な出来事に巻き込まれながら、人生の叡智について学んでいくという内容。比較的短い話だが、どこまでもピュアな目で人間と人生を見つめるサンチャゴ少年とともに、生きることの最奥に触れ、もがき、救われ、自然と涙が溢れる、そんな本である。
本書を自己啓発本と括る向きもあるが、そこまで形式的で教条的、教唆的な薄っぺらいお話ではない。

ヴォルテール『カンディード』なども、人生の全体を雄弁に物語る傑作の部類だが、あれほど苛烈で艱難辛苦なプレイを経ずとも同じ悟り、同じ結論に到れるような、綺麗で感動的なストーリー展開である点も、国を超えて読み継がれる理由だろう。

前回までは気づかなかった点が2つ。

1つには、世界の諸宗教のエッセンスをないまぜにしつつも、先日読んだ禅スピリチュアル本「ニュー・アース」と相当に通底する部分が多く、一神教的世界観よりも仏教・禅的世界観の方を色濃く映しているという発見があった。

もう1つには、主人公の少年が何かを学ぶとき、その傍らには常にメンターがいる構図が取られていること。

はじめは羊から「世界のことば」を読み、次にライバルとなるイギリス人が価値対立をうまく昇華し、最後に錬金術師に導かれて「大いなる魂」に同化していく。

一粒の砂からでも世界を読み解けるとする本書にあって、しかし人間がことさら重要な知の触媒である、という著者の意図が透けて見えた。

『では、たった一つだけ教えてあげよう』とその世界で一番賢い男は言った。『幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ』」  

羊飼いの少年は何も言わなかった。少年は年老いた王様が語ってくれた物語がよくわかった。羊飼いは旅が好きになってもよいが、決して羊のことを忘れてはならないのだ。

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