けんたの穴ほり
ゆうちゃんと青いスコップ
けんたは穴ほりが大すき。いつもようちえんの子や1年生たちと穴をほって遊んでいます。きょうの昼休みも2年2組のゆうちゃんをさそって、運動場のすみの砂場で遊んでいました。ゆうちゃんはいつもさそうとうれしそうです。
「ぼくのほうがふかくほれたよ。」
「いや、こっちのほうがひろいトンネルだよ。」
と言いあいをしながら穴ほりしていると、ちょうど昼休みの終わるチャイム。
「じゃあ、あした、児童公園のうら山に町をつくろうよ。」
「いいよ。じゃあ、9時に公園でね。」
じつは先週、使いふるしのカレー用のスプーンで庭をほっていたけんたに、お父さんが
「それじゃあ、ほれないだろう。」
と、青いスコップを買ってくれました。新しいスコップを手に思いっきりほってみたくて、わくわくしていました。あすは土曜日。そのスコップで穴ほりができます。
丘の上の三本くぬぎ
つぎの日、公園にはゆうちゃんが、くまでとバケツを手に待っていました。
「3本くぬぎに行こう。」
「うん。」
言い終わらないうちに、ふたりは走りだしていました。3本くぬぎは、けんたの家から丘の上に見えるにょきにょきにょきと3本ならんだ大きな木です。
畑のわきをの土手を左に見ながらかけ上ると、おけらのジーと鳴くその先にその3本の木がそびえています。走りをやめたけんたのほおをすぅーとひとすじあせが流れました。まだ10時前なのにもっと暑くなりそうです。
5年生の子たちがこの夏休みにかぶと虫をさがしたあとが、木の根もとに点々とあり、まるで大きな生き物の足あとのようです。
ちょうど海からきた風が丘の木と木のあいだを抜けてきます。木かげでふたりは丘の下に広がる町をながめながらここちよく立っていると汗が引いていきました。
ひと息ついたけんたたちが落ち葉をおしのけはじめると、真っ黒い土があらわれ、ふわぁーと山の土のほっくりしたにおいがしてきました。
「ここからあっちの木まで町をつくろう。」
「うん。」
木の根元で…
ふたりの頭の上で、ピィーとひよどりが鳴きました。トンネルの中でゆうちゃんの指にとどきそうと思ったとき、コツン。スコップの先でかたい音がしました。
「あれぇ、もう少しだったのになぁ、石に当たっちゃったよ。」
「うん、こっちもだよ。」
と、ゆうちゃんもくまでの先を石にカリカリあてています。
「ここ、つなげるには石をどかさないと。ゆうちゃん、そっちから押してみてよ。」
「う、うん。」
でも、ふたりはうんうんとうなってばかりでした。
「うごかないね。」
「うん、まったく。」
石のまわりをほっていくとまわりの土は緑色ぽくなりました。見たことのない色の土です。石は両手でかかえるほどで、ふたつに割れていました。ひとつずつかかえ、一番とおい木のほうへごろん、ごろんとおきました。
コオロギが鳴くころ
石をとったあとには大きな穴ができたので、けんたは
「ここからトンネルをほろう。」
といいました。するとゆうちゃんは
「橋をかけるほうがいいや。」
とゆずりません。こっちがいい、いやあっちがいいと言いあいになり、しまいにけんたが投げた土だんごが、ゆうちゃんの頭に当たってしまいました。
―あっ、しまった。あやまらないと―。
でも、うまく言葉がみつかりません。コロコロとこおろぎが静かに鳴いています。頭を土だらけにしたままのゆうちゃんは目にいっぱいなみだをためて、いまにもあふれそうになりながら、
「ぼく、帰る・・・。」
と走っていってしまいました。
ーすぐあやまればよかったー
とけんたは思うと、ひとりではつまんなくなりとぼとぼと家にかえりました。帰り道で
さっきの石の割れた面を思いました。とたんに
石のもようとにたものを前に見た気がしました。
ー何だったかなあー
でも、けんたはゆうちゃんにどうあやまろうかとすぐに頭のなかがいっぱいになりました。
夢の中で見たものは
けんたはその夜、夢を見ました。
つるんとした公園の象のすべり台をするりとすべっていました。ももがあたたかいやと感じたとたん、右に左にとまわりのけしきがかたむいて見え、おしりにごんごんひびいてきました。
右から生ぬるい風がひゅっとふき、犬の何十倍もある大きな眼がこちらをじぃーと見ていました。そのそばにある大きな口をとじたままもぐもぐ動かしていました。
「そうだ。」
ぱっと自分の声にめざめたけんたははねおきると、日曜の朝の明るい陽ざしの中を、中学生のお兄ちゃんの焼いたトーストも食べずにかけ出していました。
丘の上のその石はそのまま3本くぬぎの根もとにありました。
ーやっぱりそうだー
石をひと目見て、まっ先にゆうちゃんの顔がうかび、すぐにかけ出しました。
大発見!
「ゆうちゃん、おはよ~う。」
きのうのことはすっかり忘れて、けんたはゆうちゃんの家の前で大きな声で呼びかけました。通りに面したダイニングで朝ごはんを食べていたゆうちゃんと家族が、何ごとかと顔を出しました。でも、ゆうちゃんは、けんたの落ち着かない様子を見て急いで出てきました。
「ついて来いよ。」
「うん、でも何?」
ゆうちゃんのそでをひっぱりながら、何?何?と何度も走りながらたずねるゆうちゃんには答えず3本けやきの根もとに走ってきました。
「はあ、はあ、きのうはごめんよ。」
「ぼ、ぼくのほうこそ、ごめん。それよりどうしたんだい?」
木の根元をゆびさし言いました。
「これを見ろよ。・・・大むかしの生き物かもしれないよ。」
「えっ、何だって。」
ゆうちゃんは、けんたの顔と石を見くらべながらけんたの話を聞きました。
海の底だった
けんたは、1年生のときにお父さんと博物館に行って見た、恐りゅうの骨の横にあるピザぐらいの渦巻きもようの石を思い出したのでした。お父さんの話では、恐りゅうと同じ時代に海にいたアンモナイトという動物が石になった化石なのだそうです。
けんたは、3本くぬぎの根元の石に、それとそっくりのもようがあるのを見つけました。すぐにお父さんに話をして博物館にれんらくをとってもらいました。それからけんたのまわりは大さわぎになりました。
「小学生が大発見」とテレビが伝え、よく日の新聞には、その石といっしょに笑い顔のけんたとゆうちゃんがしっかりあく手している写真がのりました。
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