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原石を磨く 〜耳をすませば〜

いざ、お供つかまつらん。
ラピスラズリの鉱脈を探す旅に!

あのせりふは、少なからず鉱物・宝石ファンの心を掴んだに違いない!
今夜、『耳をすませば』が金曜ロードショーで放映される。
ちなみに見出し画像のエメラルド標本は、宝石展@名古屋市科学館に展示されていたものだ。


さてさて。
原作者の柊あおいさんも、きっと鉱物・宝石好きだと思う!

過去の作品には水晶の原石を「星のかけら」の呼び名で登場させていたし、追い求める夢や憧れを表現するのに鉱物・宝石はぴったりだ。「ラピスラズリ」の語感なんて、日常から抜け出す呪文のようにも聴こえる。想像力を掻き立てる魔法の言葉だ。

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石マニアとまではいかないとしても、柊あおいさんも主人公の雫と同じく資料の鉱物図鑑をめくり、実際に標本を眺めたり、それらからインスピレーションを得て執筆されていたような気がしてならない。


「雫さんも聖司も、その石みたいなものだ。まだ磨いてない自然のままの石。」
(西おじいさんのせりふ)

そしてきっと、柊あおいさんも脚本の宮崎駿氏も、きっちり磨かれて完成された端正な宝石より、素朴で生き生きとした原石や鉱物標本のほうが好きなのではないだろうか。

「実はそれは、磨くとかえってつまらないものになってしまう石なんだ。もっと奥の小さいものの方が純度が高い。
いや、外から見えない所に、もっといい原石があるかもしれないんだ。」


作中では、ラピスラズリは架空の世界でのイメージだけで、雫と西おじいさんの対話のシーンでエメラルドの原石が登場する。
雫の決意が形となるための、重要なシーンだ。

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私も幼いときはこんな顔をして原石を見ていたのかなぁ…



『耳をすませば』は、年齢を重ねるごとに…つまり自分が思春期から遠ざかってゆくにつれて、よい映画だなと思えるようになった。
誰もが通過する人生の一時期、誰もが心に何らかの原石を持っている…
まだ磨かれていないからこそ、さまざまな可能性を秘めている…

その一時期をとっくに過ぎてしまった者から見ると、なんと眩い姿だろうか。


それから、原作漫画もまさに「原石」、そして磨かれて「ジブリ作品」という別の輝きを見せてくれたという、二重のメッセージを感じる!


私が小学生の頃、柊あおいさんはすでに売れっ子少女漫画家だった。月刊誌『りぼん』で『耳をすませば』の新連載が始まったのも薄っすら憶えていた。薄っすら…というのは、物語の結末が一切記憶になかったためだ。
だから、映画化されたときは「どうして今頃、しかもジブリで…?」と不思議に思ったものだ。

漫画の文庫版の解説に、連載が打ち切りになった経緯や、後に宮崎駿により偶然?必然的なのか発掘されるエピソードが書かれている。

打ち切りにされていたとは…。
分かりやすいカタルシスもなく、当時はただ退屈な作品と判断されたのかな…。

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記憶にあるかぎり、あの頃の少女漫画といえば(学園ものやファンタジーなど設定は違えど)物語の大筋は恋愛ものばかりだった。奥手だった私は、片思いや三角関係のニュアンスを少女漫画から学んだ。
でもほんの少しだけ、もの足りなさを感じていた。

子どもなりにも生きていれば、恋以外にもドラマティックな感情を抱くことがある。なのに、少女漫画の世界では恋愛至上主義??

当時から私は絵を描いたりものを作ることが好きだった。ネット検索のなかった時代、さまざまな作風のアーティストを知りたくて本屋に通うことは、宝探しの探検のようだった。
エッシャーの精巧な絵画は見れば見るほど引き込まれるし、大友克洋の画力には文字通りショックを受けた。

美術館にあるような、額縁に収まった大きな絵画はもちろん迫力があるけれど、それとは違った絵…。無機質なはずの印刷物となって、ページをめくると初めて目前に現れるさまざまな世界。
絵そのものに力がある!そして、そんな絵を描ける人がこの世にいるんだ!ということを知った。

あの頃の、私の感情の揺さぶられかたを、今では懐かしく思う。

柊あおいさんもあの頃、主人公が恋以外で成長するような描写を試みていたのだろうな。残念ながら、当時の「需要と供給」には当てはまらなかったのだろう。
でも今は、間違いなく、多くの人の心に響く作品となっている。



『耳をすませば』映画は1995年公開、原作はさらに古く1989年発表とのこと。
時代が変わっても作品は色褪せることなく、宝石の原石のように輝きを保ち続けることだろう。



※このnoteは過去にShortNoteにて公開した記事に加筆修正したものです。


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