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【創作大賞2024応募作エッセイ部門】 #創作大賞2024 #エッセイ部門 #愛#欲望#孤独 「愛、欲望、そして孤独」 斎藤 晃 著
#創作大賞2024 #エッセイ部門 #愛 #欲望 #孤独 #恋愛
「序論」
朝、早く、赤いポルシェに乗って、高速道路を疾走する彼女は、まるでスピード狂のように見える。
サングラスをかけ、ニーチェの本「善悪の彼岸」を隣のシートに置き、彼女は一心不乱にアクセルを踏み続ける。
ニーチェが言っていた、人々に。社会に飼いなされるな!と。
彼女は、その行動に似合わず、学生の時、哲学を勉強していた。
彼女は、わざと相手を無理やり振ったのだ。孤独に無理やり飛び込んだのである。ジゴロに負け、彼を愛したことが彼女のプライドを傷つけた。
彼女は、今まで本気で人を好きになったことはない。彼女に取って、恋愛はゲームでしかなかったのだ。
そのために赤いポルシェでのスピード狂を生んだのかもしれない。何もかもスピードの中で忘れようと試みる彼女。一心不乱に、自分自身、一人だけの世界へ回帰しようとする彼女。
また彼女は、本の表紙をチラリと見ながら、わたしは飼いなされないわよ! と内心つぶやき、アクセルをぐっと踏む。
わたしは、わたし。
わたしは、あなたじゃないの。
早朝、高速道路をポルシェで駆け抜ける彼女は、まるで空の荒野を当てなく飛ぶ一羽の孤独な白い鳥のようだった。
朝早い。木々に朝露がつき、車のフロントガラスにも朝露が張り付く。しかし、彼女はそれを気にすることなく、一段とアクセルを強く踏み込んでいく。
フルスロットで走るポルシェの中で、彼女は何か追想をしているようだった。朝露がサングラスについても拭こうとはしない。視界がクリアでないほうが安心できた。目ではなく心ですべてを見ていた。今の彼女の心境にマッチしているのかもしれない。
彼女の頬やマフラーをしていない首には朝の冷たい冷気が、スピードを上げるたびに遠慮なく打ち付ける。しかし、彼女は深くサングラスをかけ、アクセルを思い切り踏み込む。何も心配することはない。彼女は、早朝の冷気のシャワーをもっと全身で浴び、感じられるようになるために、アクセルを思い切り踏むのだ。
自分を忘れるために、スピード感に身を任せている。彼女に取って自分が自分であるために、傍観者であるもう一人の自分を振り払う必要があった。
スピードを出せば出すほど彼女は自分自身になれるのだ。
彼女は孤独に包まれ欲望を発散しているかのようだった。
アクセルを踏むたびに、彼女の頭の中では走馬灯が走り抜けていく。
彼女が思い出したくない、彼女に言わせれば様々な恋愛ゲームであった。
サングラスに映る「善悪の彼岸」の書は、彼女に何かを訴えていた。
彼女は、その本を見るたびに、わたしは飼いなされないわよ、と何度も言う。他の人とは違うと強く決心する。しかし、彼女はそれ以上深く考えることなく、ただスピードを求めている。考えることより行動を起こすことが好きだった。
恋愛について考えるより、欲望のまま行動するのが彼女のスタイルであった。
愛、欲望、孤独。
彼女の強さは決断力だ。これは彼女に備わった本能である。
森の中への一本道を森の木々がざわめく中、彼女はポルシェで走り続ける。
何度も朝露がサングラスにつく。もちろん、彼女はそれを拭おうとはしない。そして、再びアクセルを踏み込む。彼女は何かから逃れるためにスピードを求めているのかもしれない。それと同時に、新たに、あることへ挑戦し向かい合おうとしているようだった。
彼女に取って、こことはどこ? どこまで行ったらいいの?
と、常に問いただしていた。そして、そのスピードこそが彼女にとっての唯一の安らぎなのかもしれない。
しかし、彼女の心の中には、もう一つの願いがあった。それは、彼氏と共に旅をすることだった。彼女には彼氏がいなかった。彼女は自分の孤独を隠すために、スピードに溺れていたのだ。彼女は、本当は、誰かと感動を分かち合ったりしたかったのだ。
彼女には少女のような純粋な気持ちがあった。それこそ、彼女の本当の姿であったかもしれない。
しかし、彼女はそんな夢を諦めていた。もし恋人にしたら最高であっただろう。
彼女は自分が特別であると信じていたが、同時に自分が孤立していることを恐れていた。そろそろその彼女の堤防は崩れ始めていたのかもしれない。
疎外感。孤独、欲望の波が打ち寄せる。
彼女は誰にも理解されないと思っていた。だから、彼女は走り続けるしかなかった。
そのスピードが、彼女の心の傷を癒してくれると信じていたのだ。
彼女が彼女であるために今は必要なのである。
赤いポルシェとサングラス。
彼女は孤独と戦いながら、高速道路を疾走し続ける。
その姿はまるで、怪我をした一羽の白鳥が最後の力を振り絞っているようだった。
車を停めてサングラスを見ると、片側のレンズにひびが入っている。
彼女は、振ったジゴロである彼に惹かれていた。
彼は、優しかった。
彼は、誠実だった。
彼は、愛してくれた。
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「本論」
愛は言葉にならないわ。
愛は言葉にならないから、みんな「恋愛ゲーム」をうまくやっているのよ。
いくらあなたを愛していると言っても、それには意味がないわ。
お互い朝まで激しく抱き合っても、愛は何も残らない。欲望だけ。
だから、わたし、サングラスをかける。
男のうそにはあきちゃったの。
愛のない抱擁。
愛のない甘えごと。
サングラスなしでは無理。
わたしって、意外と素直でウブなのよ、かわいいでしょう。
わたしは、絶対に後ろを、過去を振り返らない。
心で燃えるあなたの視線を心で感じながら、サングラスをかけなおす。
男の抱擁にはもうあきちゃったの。
性がうまくても、わたしを満足させてくれる男は、愛から遠いわ。
わたし、愛は求めないことにしているの。
もちろん、安売りはしないわよ、
何人もの男が目の前を通り過ぎていった。
サングラスなしでは無理だわ。
わたし、意外と素直でウブなの。
わたしは、決して後ろを振り返らない。
あなたの熱い視線を背中に心で感じながら、
サングラスをかけなおす。
わたしは、男に抱擁されるのはあきあきしたの。
わたしをいかせてくれる男性ほど愛から遠い。
わたしは、愛を求めることをやめたの。
もちろん、安売りはしないわよ。
何人の男が目の前を通り過ぎて、いったかしら。
大切なわたしのサングラス。
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「最終章」
甘い香りが漂うバーの一角で、彼女は背の高い椅子に座りながら、外を見てはため息をついていた。
テーブルの上に一冊の本が置かれていた。
ニーチの本だ。
彼女は、ニーチェが言う「飼いならされるな」!という言葉が好きだった。
彼女の手が、そのページをめくるたびに、彼女を引き込むような音がした。
彼女は、その言葉に心を奪われていった。
「わたしは愛を知らない。サングラスを外す日は来ないだろう。うその愛が多いから。愛を知る日は来ないだろう。一人で、真っ赤なポルシェで荒野をさ迷い、愛を探すわ」
バーの窓からは、日が沈む柔らかい光が入って来た。
彼女は、そこにいる男女の抱擁する姿を見過ごさなかった。
「愛を知らないって、わたしは本当に知らないのであろうか?」彼女はふと過去の出来事から、人間関係を振り返り自問した。
「友人、知人、ホスト、セフレ、ジゴロ・・・・と」
恋人がいなかったわ。
「うその愛が多い」という言葉が、彼女の心に響く。確かに、嘘や偽りの愛、欲望に囲まれて来た。
「独立した、自立した愛」がいつも欲しかった。
しかし、それだけが全てではないはずだ。
「愛を知る日は来ないだろう」と言う言葉が、鉛のように重く、彼女の心に沈んでいく。
だが、同時にそのことに反する気持ちが激しく湧き上がってきている。
愛を知る日が来ないとは断言することはできない。
(実は、わたしは誰よりも愛されたい)
「サングラスを外す日は来ない」という言葉が、彼女の内なる隠された部分に容赦なく、突き刺さってくる。
「一人で真っ赤なポルシェで不毛の荒野をさ迷う」ということが、彼女の唯一の逃げ場なのかもしれない。
(だけど、愛されたいわ)
バーの中で、彼女の心は静かに揺れ動いて行った。
彼女は、自分自身と向き合いながら愛というものについて、新たな考えを巡らせていた。
窓の外では、暗くなるに連れて、風景が変わって行く。
彼女もまた、心情が移り変わることを感じていた。
そして、その変化を受け入れる覚悟を新たにした、
まだ、彼女は愛を知らないかもしれない。
しかし、そのことだけで、彼女を自分が何者かは判断できない。
彼女は、自分自身と向き会いながら、新たな愛の形を見つけ出す決意をしたのだ。
(ただ、愛されたいだけなの)
彼女が、バーを去った後、テーブルの上に、彼女のお気に入りのサングラスがおいてあった。
了
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齋藤 晃 著
【プロフィール】
齋藤 晃
東京都大田区北千束3丁目33-12-501
1962年 4月 22日生まれ 62歳
080-9456-1072
sagan0621@gmail.com
略歴
東京都立大学大学院修了
ソルボンヌ大学・パリ第四大学卒業
国立国会図書館資料部調査課
大学の非常勤講師
大手塾講師
自分の塾を開業 国語の頭脳教室 代表
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