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009 人事の仕事の本質~「感情労働」の担い手 ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2020.05)

日経産業新聞水曜日のリレー連載「HRマネジメントを考える」です。来週〆切の原稿を書いていて、最近のアーカイブを紹介していないのに気づきました。まさに、緊急事態宣言の真っ只中に書いたものです。本当にキャリアカウンセリングで学んだ「聴く力」「話す力」「観る力」が他の人よりは身についている自分であることに感謝します。そうでなければ、今年はよい仕事はできなかったと思います。GCDFを学んでいる皆さん、何の仕事をやっていても、間違いなくに役に立つことを皆さんは習得しようとしています。

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日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2020.03)*************************************
人事の仕事の本質~「感情労働」の担い手 
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私たち「人事」の仕事は人の気持ちにふれる仕事です。新型コロナウイルスの影響で今、多くの社員は様々な不安を感じながら、ひたむきに仕事に取り組んでいます。ここ数カ月、社内からのいろいろな問い合わせ、相談などがメールやチャットなどで寄せられ、それに対応する日々がどこの人事部でも続いています。
表面上は制度確認の問い合わせであっても、内容を読み込むと、実は「不安な気持ちをわかってほしい」という訴えであったりもします。質問に理路整然と答えて終わりではなく、当人の気持ちに寄り添いながら返事をしないと意味のある応対にはなりません。
今はコロナ禍の緊急時ですが、実は人事という仕事の本質は平時でもまったく同じです。怒りや、寂しさ、悔しさ、辛さ、悲しさ、そんな様々な感情を抱えながら、社員は人事に相談したり、クレームを入れたりします。
「正しいQ&A」だけでは解決しきれない案件はたくさんあります。これらに適切に対応し、社員が安定した心で安定した心で自らの仕事に取り組み、しっかりとパフォーマンスを発揮してもらうことは、まさに人事の本業です。
「肉体労働」から「知的労働」へ、20世紀後半以降、私たちの労働の主体は変ってきました。それが今は「感情労働」へと移りつつあります。私が感情労働という言葉を初めて知ったのは、看護職の仕事について書かれた本を読んだときでした。
私の父は、亡くなるまで様々な疾患で入退院を繰り返しました。その際にお世話になった看護職らを思い出すたび、感情労働という言葉を連想します。医学的に適切な対応をするだけでは患者は納得しないことがあるのです。
私たち人事の仕事も、知的労働から感情労働へと比重が移りつつあり、その流れは加速していると感じています。コールセンターの担当者、役所の窓口担当者、タクシー運転手、こうした仕事もますます感情労働化しています。対面対応のある職業はすべて感情労働化していくのです。
私は副業でキャリアカウンセラーの養成講座のトレーナーをしています。学びに来る人には企業の人事担当者が大勢います。キャリアカウンセラーはまさに感情に寄り添う仕事であり、キャリアカウンセラーになる学習とは、人の心に寄り添うこと、人と適切なコミュニケーションをとることの学習そのものです。
「人事としてよい仕事をするためには人の気持ちに寄り添う力が必要だ」と本気で思う心ある人事パーソンが増えてきていると感じます。
肉体労働はロボットに、知的労働は人口知能(AI)に、それぞれ取って代わられるのかもしれません。しかし、感情労働は人間にしかできません。そして人事という職業は、これまで以上に「感情労働のプロフェッショナル」であることが求められています。
それが社員のパフォーマンス、企業のパフォーマンスを高めることにつながるからです。コンプライアンス(法令順守)違反や労務トラブルを未然に防ぐことにもつながるのです。
でも、人事担当者だって不安です。疲れ切っていたり、プライベートで悩みを抱えていたりもします。そんなときでも、私たちは感情労働の担い手、感情労働の企業内プロフェッショナルとして、高い職業意識と倫理観を持って仕事と対峙しています。全国の人事担当の皆さん、胸を張って頑張りましょう。

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