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009 人事も「スモール・マス」に ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2021.06)

日経産業の再録、残り2回で追いつきます。で、第21回目。これは最近、人事の仕事をしていて特に思うことであり、意識していることです。組織は多層化・多様化しているのです。私たちはそれに対応して仕事のスタンスを変えていく必要があります。

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日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2021.07)
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人事も「スモール・マス」へ
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以前にはマス・マーケットなるものが存在していました。良いものを大量に効率よく生産して、お手ごろ価格の商品をTVCMなどの広告宣伝を駆使し、多くの人の認知度を高めて購買に結びつけるマーケティングが有効でした。プロダクトアウト型と呼ばれたマーケティング手法です。生活者はまだ消費者と呼ばれ、隣の人と同じものを求めている存在でした。
その後、プロダクトアウト型の対局にあるマーケットインのマーケティング手法が広がります。市場に耳を傾け、買い手の欲する商品を提供する発想です。さらに日本が豊かな時代になると、生活者は自分だけのための商品を求め、大量生産のモノに価値を感じなくなってきました。
大手4社の寡占だったビール市場に、多様なクラフトビールが台頭し、大手も次々と参入するようになったのは典型例です。生活者は隣の人とはちょっと違ったものを求めるようになったのです。広告宣伝の主役もテレビからインターネット広告へと移ります。ネット広告では1人ひとりの閲覧履歴を利用し、最適な商品を推薦して購買意欲に訴えます。供給側もデータ分析技術を駆使して市場を細分化してとらえ、それぞれに合った商品を供給するよう努力します。
細分化されつつ、それなりの規模感を持つスモール・マス市場の登場です。こういった市場にはコンセプトアウト型マーケティングが有効だそうです。市場と継続的に対話しながら、新たな価値を提供して需要を創造していきます。この手法には、中央集権的なピラミッド型組織ではなく、末端にも権限が委譲された機動的な組織が求められます。
どうやら人事部も似た状況になってきている感じがするのです。伝統的日本企業において、人事部は中央集権的な権力機構の一機能でした。決定を「通達」として全社に周知徹底をする存在でした。もちろん通達に書かれているのは、会社の将来のために良いと確信して人事部が打ち出した施策です。これを職制を通じてつつがなく浸透させていくのが人事部の役割でした。まさに、プロダクトアウト型のマス・マーケテイングに似た感覚を覚えます。
人事の世界に単純なマーケットイン型はそぐわないと思いますが、すでにかなり前からコンセプトアウト型人事の時代がきていると思えます。全社方針を単純に上から下に流すのではなく、異なる事情や思いを抱えている1人ひとりの社員との対話を繰り返し、個々にフィットした様々な施策を考えて打ち出していく。もはや人事施策も全社一律適用が前提ではなく、社内のスモール・マス市場に合った個別の施策が必要になってきます。
事業や職種によっても、最適な人事施策は変わってきます。ライフステージによっても社員が求めることは異なります。ダイバーシティの推進を進めるなかで、当然ながら打ち出す施策にも多様性が強く求められてくるのです。
ここで何より必要なのは徹底した「対話」機能です。対話力のない人事パーソンは働きの場を失っていくでしょう。こんな地殻変動がもう随分と前から起きており、いまやその総仕上げの時期が訪れつつあります。人事部がこの大きなトランジション(移行)をしなやかに乗り越えられれば、きっと日本企業は活気を取り戻せるのではないでしょうか。

※写真は年末に訪問した三軒茶屋の帆帆魯肉飯。干し豆腐もあります。そして台湾ビール。

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