『ラブレター(改)』【秋ピリカ《勝手に再履修》】
女は、手紙を届けて欲しいという。
「断る。必要性を感じられない。」
カモメは断った。
エルフは、もう手紙なんか書かない。
女王が風と契約して以来、エルフは風乙女の力を借りられるようになった。魔法の力で、言葉はたちまち遠くへ届く。
それで、カモメもすっかり歳を取ってしまった。機会が減ったことで、翼はまた衰えた。
カモメの仕事は、風乙女に比べれば確実なものではない。手紙を届けるには時間もかかるし、今なら最悪の場合──届けられない、ということさえあり得る。
元々、引退を考えていた。潮時、という言葉の意味について、カモメはしばしば考えた。満ちる潮あれば、引く潮あり。陽光に煌めく海原を思い出に、ひっそり朽ちていくのも悪くはないと思っていたところだ。
「なぜ、風乙女を使わない?」
「それでは、いけないの。」
エルフの娘は、そう言って長い睫毛を伏せた。彼女の口元にはわずかな笑みが浮かんだ。眼前のカモメから、想いは手紙の相手へ飛んでしまっている。ふむ。
「見せてみろ。」
彼女が取り出した手紙を見て、カモメは思わず声が出た。
「むうっ。」
薄く、しなやかで、繊細。羊皮紙ではない。パピルスとも違う。
「東の紙なの。」
エルフの娘が答えを言った。
無学のカモメには委細がわからないが、手紙からなにか花のような良い香りがした。オイルか、または香をまとわせたのか。
カモメはこれまで、多くの時間を手紙とともに空で過ごしてきた。
その意味というものを考えたことはない。自身は、ただ空を行くだけ。早く、正しく伝えること。それが自身の責任と考え、誇りをもってあたってきた。だから、風乙女に負けたとき、自身の意味を失った。
最後の手紙だ。
これまでの、あらゆる仕事は、そしてこの魂は、ここに至るためにあったのだ。
翼を広げた。
風は、嵐の前の風は、強く眼前から吹き付けている。羽ばたくこともなく、カモメの身体はふわりと宙に浮かんだ。翼は、風が読める。考えるよりも早く、それは風をとらえて身体を上昇させるのだ。
飛びかたは、風乙女には及ばぬ。
しかし、俺しか運べぬものもあるらしい。
「エルフの娘。仕事は、承った。」
力は、不要。
カモメは、風を縫って己のいるべき場所へと飛び出した。
完
(本文933字)
……と、いうわけで、勝手に反省した吾輩は、勝手に「秋ピリカ」への提出作品を書き換えてみた。
改変の元になった、最初の『ラブレター』と比較すると、文学っぽさはこっちのほうがある気がする。
テーマは同じだ。データと紙。
『ラブレター』では携帯と紙、そのまんまド直球で書いたが、『改』では風乙女と紙にした。
また、本編中で「大事な、無くせない情報は、やはり実体を伴うべきだ。紙だよ、紙。」と、メッセージ性もド直球で言わせたものを完全にカットした。
最初の『ラブレター』が放送脚本のようなイメージだったのに対して、『改』では、読者側が想像する余地が大きくなって、文学「らしさ」のようなものは出てきた気がする。
ただ、まだ賞を取るには不足があるだろう。何が足りないか? もっと研究が必要だ。
こんなことをやっている経緯は下のとおり。
ちなみに、改変の元になった提出作品『ラブレター』は下のとおり。