5.グループワークの鉄則
文責:安岡美佳・内田真生
前回までの「3. デンマークのグループワークの手引き」「4.オンライン・グループワークの手引き」では、グループワークの手引きということで細かい実践的な提案や具体例などを示しました。改めて、アクティブラーニングという観点から、筆者らのデンマークでの実践と学習を基に、グループワークの進め方で不可欠な鉄則ともいえる5項目を抽出しています。
グループワークの鉄則5条
- グループワークの目的を常に意識する
- ルールを明確に定め、ペナルティも決定しておく
- 対面を重視する
できればプロジェクト初期に一度会った方がいい.
ただし、オンライン100%でもできることもある.
- 人間関係における基本的な尊敬、尊重を意識する
- 常に振り返り(Reflection)を行い、モチベーションを保つ
この5つの項目を見直してみて思うのは、日々の生活、仕事や社会活動において、当たり前のことを当たり前にすれば、アクティブラーニングという観点でのグループワークは、オンラインでもオフラインでも決して難しいものではないということ。しかし、当たり前のことを当たり前にやることが難しいのも事実です。「当たり前にやる」には、各メンバーのグループワークに対する包括的な認識や意識が大切だと考えます。
マインドセット転換を!
筆者(内田)が経験してみて分かったのは、学びにおいて、自分自身の考え方や気持ちの持ち方を変える、視点を動かしてみる必要があるということでした。グループワークの過程で、自分が「あるべき論」に囚われている事実に直面しました。自分の「あるべき姿」は他のメンバーにとっては必ずしも「あるべき姿」ではありません。自身の特性から、マインドを変え視点を移動しようとすることに非常にエネルギーを要しましたし、現在も鋭意努力が必要です。そういう意味で、当事者同士でグループワークに対する目的を擦り合わせ、ルールを作り、形に残す(契約書を作成する)というスタイルは、学習や作業を進め、振り返りを行うために本当に有効でした。
グループワークの原則として、メンバーは各々の役割に対する責任があります。これをメンバー間の関係として捉えなおすと、一人一人がグループに貢献することを意味しています。この「貢献」という視点を持つことが、上記の5項目にある「対面を重視する」「人間関係における基本的な尊敬、尊重を意識する」の実現につながるのではないでしょうか。
答えは新しく創る
そして、グループワークを実施する上で常に心の片隅に置いておきたいのは、「答えは一つではなく、新しく創れる」ということ。グループワークの目的や実施する環境にもよりますが、実社会にある課題を特定し、解決策を見つける取り組みにおいて、その方法や答えは一つではありません。我々の社会は変化が激しいく多様になっているだけではなく、今回の世界的なコロナ感染のような予測していない危機に見舞われることもあります。このような環境の中で、既存の解決策や取り組み方では対応しきれないことが多くあることを私たちは実感しています。もちろん、変わらない常識や答えはあると思います。ただ、それだけではないことを念頭に置きながら取り組むことにより、さらに新しい発想が生まれるのではないかと考えています。
グループワークは人生の学びに通じる
「グループワークを通して学習する」という考え方が、日本においてはまだまだ目新しい、ということを日本のひとたちと話していても感じます。ただ、アクティブラーニングは、自分で課題設定をし、周囲を巻き込みながら、課題解決をし、アウトプットを出していくという方法であり、複雑性・不確実性が高まっている現在の世界において、サバイバルするためには不可欠な方法です。まさに生きていくための学習方法で非常に実践的な今の時代にあった方法です。自分が幸せになる生き方働き方を見つけ、身につけるために、今後ますます必要になっていく学びの方法だと感じています。勉強なんてして何のためになるのか、ということを学生時代に誰しもが一度は考えたことがあるでしょう。学生の頃の勉強は、単なる暗記や学術的知識を頭に入れるだけの学習で、社会では役立たなかったと思う社会人も多いはずです。それはおそらく、学習方法が今の時代に合っていないから。どうしたら自分の道しるべになってくれるような知識をつけられるかという問いに、アクティブラーニングは答えてくれるはずです。
単に暗記をするということに比べたら、アクティブラーニングははっきり言って大変です。自分の頭だけではどうにでもならない属人的な不確実要素や政治的意図や人間関係が多分に入ってくるからです。でも、それって小学生でも大人社会でもいつでも必要なことですよね?自分でプロジェクマネージメントをし、組織を整え、人間関係を調整しながら、課題解決に取り組むことは、非常に時間がかかるし骨が折れます。でもこれは急がば回れの方法で、人生100年時代においては、実は近道なのではないか、と思うのです。
ここから、新たな知識共有として、これまでのエッセイに向けてSNSなどでいただいたご感想をシェアさせていただきたいと思います。
オンライングループワークはリモートワークにも通じる
筆者(安岡)もなるほどと思ったのは、「第4回で解説されているオンライングループワークの知識は、今社会人が経験しているリモートワークにも通じる」というコメントです。今の社会のリモートワークの基本は、グループワーク。一匹狼の仕事術ではないのです。実際に社会人になってからの仕事は、同僚との調整を重ね、お互いの理解や進捗を確認しながら進めることが不可欠です。オンライングループワークで重要な要素というのは、対面で仕事ができない場合と同じ。そして、きちんと「振り返り」ができれば、おそらくリモートワークで実施したプロジェクトやタスクなども、「学び」として血となり肉となるに違いないと思うのです。
5回にわたり、お付き合いありがとうございました。コロナ影響下の思いつきで始めた5回の「デンマークのアクティブラーニング」にまつわるエッセイですが、また、それぞれ考察を深め、また同テーマで新しいエッセイを書ける日がくると嬉しいものです。
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