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コロナ禍における北欧のICT教育

北欧研究所では、2021年1-3月期、教育分野における北欧諸国のICTの利用調査を行いました。今回の調査で改めて確認できたのは、北欧諸国は社会における電子化が進展していたゆえに、コロナ禍の教育においても、被害やストレスを最小限に抑えられた、という点です。日本からは、いまだに「電子化の利点・メリットが不明」という声は、あちこちから聞こえてきますが、北欧では、何らかの予想外の制限がかけられた時(例えばコロナ)の対応など、特に基盤のレジリエンスを高めるために有益だということが示唆されたと言えます。

エデュテックを支える3つの柱

教育分野へのICTの導入というと、教育プログラムの素材のデジタル化の話が中心になりがちですが、今回の調査では、デジタル素材は柱の一つに過ぎないということもわかりました。北欧諸国が重視する教育分野でのICT導入の柱は、次の3つです。一つは、ネットワークインフラ周り。これは、学生がネット接続するため、接続時にリソースが使えるようにするための共通IDとそのID基盤、高速ネットワーク基盤、Wifiネットワークなどです。二つ目は、コミュニケーションインフラです。学生と教師、学校と親が、必要な時にコミュニケーションが取れるためのチャネルを整備することがこれにあたります。コロナ禍でも学校からの一斉メールが、学生や親に対して送付できたこと、対面の機会を持たなくても(持てなかったけれども)確実にそしてタイムリーに指示が出せたことは大きなメリットでした。そして、三つ目は、授業や宿題として利活用できるデジタル素材。これは、学校だけではなく、公共機関やNPOなどのさまざまな組織が、学習用に個別に整備することもできます。例えば、北欧では医療保健関連の省庁が子供向けのコロナに関するデジタル素材を作成、オンラインで公開し授業などで活用されました。また、性教育に関する啓蒙活動を行なっている団体が、対象年齢に合わせた教育プログラムを作成し、ビデオや学習スライドなどを整えています。これらの素材は、専門家によって作られたもので、教育的プログラムを作る時間のない現場の先生たちに重宝されています。

ICTによる教育イノベーション

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北欧では、様々なICTインフラが教育分野に根付き、ICTのイノベーティブな活用方法にフォーカスが移りつつあります。例えば、アクティブラーニングを支援するようなMoodleのような学習支援システムは、大学生むけのものはすでに日本でも展開されていますが、フィンランドのqridiという企業は、小学生向けの可愛らしいインタフェースを備えたシステムを構築し、フィンランドのオウル市やヘルシンキ市、その他数カ国で展開しています。

ICT立国として有名なエストニアも、最先端のICT教育が行われています。ただ、小さな国とはいえ、一般的に日本でイメージされるような「全ての学校が先端的」という状況ではないことが今回の調査でわかりました。全国に展開されるというわけでは無いにせよ、積極的なイノベーターがいるエリアや学校でのICT教育の充実や進展はめざましく、注目すべき国であることは間違いないでしょう。特に、社会における電子化が進展しているがゆえに、また地政学的な立ち位置も関係し、サイバー攻撃に対する電子セキュリティ対策には余念がなく、将来不足すると考えられている電子セキュリティ分野における専門家教育は非常に興味深いものです。潜在的にスキルを持っていると考える学生のセレクションプログラムなどもICTの選択教育科目として提供され、いわゆるエリート教育が行われていることがわかりました。

まとめ

多くの北欧諸国は、まず技術インフラ・コミュニケーションを整え、さらに、それぞれの社会状況に合わせた独自のICT教育を展開しています。それらは、3つの柱として相互補完的に、現在のICT教育を支えています。

エストニアをはじめ、デンマークやフィンランドでは、社会状況、国際社会での立ち位置が考慮され、それぞれの国に特徴的なICT教育も見られています。






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