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教員不足を考える

こんにちは。
Japan Education Labの古谷です。
前回書いたときから、気づいたら1年以上も経っていました。
ということで、明けましておめでとうございます。(今更)
本年もよろしくお願いいたします。

空けていた期間中にも書きたいテーマはたくさんあったんですけど、なにぶん継続して書いたりするのが苦手な性分なのです。もちろん「良くないな~」とは思っています。
ただ、思ってはいますが、その一方で「まぁいいか」という意識が99%を占めています。

はてさて、まぁこんな僕個人の話はしょーもないので置いておいて、久しぶりに開いたnoteでどんなテーマをつらつら書いていくのかというと、『教員不足』と『教員の役割』です。(今回も長くなってしまいました・・)


昨今、『教員不足』に関するニュースが毎日のように散見され、多くの自治体がこの課題を解消するために様々な施策を提言しています。

それこそ、こんな本もあります。

2000年度の公立校採用倍率は小中校のどれも10倍を超えていたにも関わらず、今や2倍にすら満たない自治体もあるほどです。

そのような『教員不足』の社会課題に対して私見をつらつらと述べているだけですので、お時間ある方はお付き合いいただけますと幸いです。


まず最初に、前提として共通の話題を振っておきたいのが、”投資””地域差”です。これらを踏まえて、『教員不足』の社会課題について考えていきます。ぜひ、気になる方はコメントや私にDM送ってください。意見交換させてください~。

投資ができない学校・教育委員会

教員のなり手が不足している中で、学校・教育委員会はどこまで資金的・時間的な”投資”ができているのでしょうか。
例えば、埼玉では

こんなのがあったり、
佐賀でも大学生を学校現場に送る取り組みをしています。

おそらく、こういった取り組みは県教委をはじめ、多くの自治体で取り組んでいるものかと思いますが、参加した学生が結果的に教員採用試験を受験・合格したのかという追いかけのリサーチをしている自治体はありません。
事象として取り組みがどうだったかというのはもちろん大切ですが、それ以上に現状においてどのような取り組みが大学生・院生に必要で、それをするリソースを教育委員会が用意するためにはどういう積み立てをしてくのかという情報は全くありません。

僕が述べたい”投資”というのは、教員のなり手を増やすために必要だと思われる措置を行うだけでなく、その先がどうであったかを明らかにするまでの出口戦略を含めて投資できているかという話です。

また、上記のような大学生を学校現場に派遣するような活動において、小学校・中学校・支援学校・中等学校は多くあれど、”高校現場への派遣”が発展していないというのもまだまだ不足しているなと感じる部分です。

地域差が埋まらない

次は地域差に関する話題です。
大変ありがたいことにこんなサイトがありました。

令和6年度採用を都道府県単位で見てみると、
徳島県(6.1倍)高知県(5.5倍)沖縄県(4.8倍)
東京都(1.6倍)佐賀県(1.9倍)長崎県(1.9倍)
と大きく差がついており、この差が年度を跨ぐ中で埋まっている様子もありません。

都道府県ごとにキャリアの選択肢や教員免許取得可能大学に差があるので、局所的に「○○が原因だ」ということはないかと思いますが、全国的に『教員不足』を社会課題として挙げるのであれば、都道府県別に傾向や原因を洗い出し、メスの入れ方を複数考える必要はあると思います。

また、どの都道府県でも右肩下がりになっているのは明らかなので、プラスを生み出すシステムを考える必要があり、下記のような対処療法でもなく、

なぜ、教員だけ?と他の業界から火の粉を浴びる原因になりそうな施策でもなく、

根治療法として、地域レベルの『教員不足』への対処を検討していく必要がありますね。
個人的には地方創生や、ランドスケープの文脈で解決できる地域もあると思いますし、
交通の便の不便さに加え、東京や沖縄のように島しょ地区に赴任するケース等の地理的な側面が阻害要因になっているところもあるかと思うので、この問題を本気で解決するにあたって、教育委員会の枠を超えてチームを組織するのが最初のとっかかりになるかと思います。

教員にならない大学生

なぜ学生は教員にならないのか、もっと言えば免許を取得しても結果として教員の道に歩むわけではない学生が増えてきたのか。

ここを幾つかの観点で紐解いてみましょう。

ブラックのイメージだけが蔓延

ちょっと前に「#教師のバトン」が流行りました。
元々はいいイメージを広めるために政府が考えたものでしたが、逆にブラックのイメージを広めるものとなってしまいました。
また、最近は教員のコンプラ違反をはじめ、教員の多忙に焦点を当てたメディア報道が増えているので、それだけでもだいぶマイナスなイメージが蔓延しているかと思います。

上記の調査によると、小中校で1日当たり10時間以上在校しているのが現状で、月にすると40時間以上残業し続けているのが分かります。さらに、2021年に名古屋大学の内田良教授が行った調査では過労死ラインを優に超える残業時間、そして”見えない残業時間”について言及されており、先の調査と実態が大きく異なるため、労働時間の実態は見た目以上に多忙かと思います。

ちなみに、給特法は1966年の教員勤務に関する全国調査において、月8時間が平均の残業時間であり、月の労働時間のおよそ4%だったことから調整額が設定された背景があります。

少子化により子どもの数は減っていますが、教員の数は経年でそこまで変化していません。ということは相対的に教員の数は増えているというわけです。それでも多忙化に変化がないということは、”数”というメスだけでは解消できない部分が大きいということでしょう。

さて、教育に限らずブラックのイメージは”社会的なものさし”に依って生まれていると思います。
それは労働時間であり、人間関係であり、業務量であり、社会貢献や見えるやりがいの蓄積です。

現在、メディアを中心とした発信では、学校教育における社会的なものさしが労働時間や業務量でしか図られておらず(そういう風に見えてしまう)、そのため『やりがい搾取』と揶揄され、ブラックのイメージが強く社会に浸透しているとも考えられます。

それこそ例えば、労働時間や業務量は、コンサルティング業界の方が酷く見える側面もあり、そこだけをフォーカスすればかなりブラックです。某社が労働基準法違反していたのも記憶に新しいです。

上記の調査を見ると、学校現場と何ら変わりないくらい残業していますが、株式会社リクルートキャリアの調査ではコンサルティング業界の求人倍率が5倍を超えています。
「残業すれば手取りが増える」ような見える差はもちろんかと思いますが、それ以上に学校業界と何が違うのかが分かれば、ブラックのイメージはあれど、それを凌駕するくらいの業界イメージを発信することが出来るかもしれませんね。

名前だけなら、マッキンゼーやBCG、ベインカンパニーに憧れますもんね。笑

昭和から変わらない接触機会

教員を増やすために、良いイメージ発信をするためにSNSやニュースのような飛び道具を使うべきだとはもちろん思いますが、学校業界のことは間接的ではなく「直接的に見る・聞く・参加する・話す」ということが教員を目指す学生を増やす大きなキーになるかと思います。

しかしながら、学生が小中学校・高校に関わることができるのは最低でも”教育実習期間”だけで、接触機会を増やすために大きく出来ることは

  • 教育委員会主催のボランティア等への参加(先の例)

  • 個別に学校が募集しているボランティア等への参加

  • 学校支援をしている企業・団体のプロジェクトへの参加

くらいでしょうか。
ここで前提として理解していただきたいのは、これらに共通することは「教員になるために用意されているものではない」ということです。別にやらなくてもいいということですね。

このシステムは昭和からほとんど変わりなく行われており、基本的に教育実習は”受け入れ校の負担”であると考えられています。教育実習が義務なのに、受け入れる学校に義務はないですからね。あくまでも未来の教員育成のための協力として受け入れ校は位置づけられています。昭和の答申にも下記のような記述があります。

教育実習は新たに大学での 「事前及び事後指導」を加えて小・中・高校とも1単位増とするが、受け入れ校の負担増を避けるため実習期間は現行通 り (小学校4週間、中・高校2週間)とする。

昭和62年12月18日一教養審 「教員の資質能力の向上方策等について」答申

これは一つの”投資”の視点になるのではないでしょうか?
たしかに、教育をかじった程度の学生を現場に入れて教鞭をふるってもらうのは、子どもたちからすれば俯瞰的に見てリスクがあります。ただ、ICT活用に探究学習、子どもたちの進路の多様化など、机上の学習や模擬授業ではカバーしきれないくらい、学校現場を語るためのパーツが増えているのも事実です。それを数週間でというのは学生から見れば酷な話です。

本当に教育が大事であると考えるのであれば、大学が教育委員会がもっと密接に繋がり、学校の門戸を広げていく必要性があるように感じます。

先生以外の道が増えてきた

今日において、学校現場を創るためのパーツが増えてきたため、教育や学校現場に関わる方法が十数年前と比較して各段に増えました。
今や教科書会社やテスト・模試の運営企業だけが学校と関われる職種ではありません。

僕らのような学校を支える団体も数多くなり、おそらく全ての都道府県でキャリア教育や探究学習を支える企業・団体がいます。
さらにいえば、大阪府では”キャリア教育コーディネーター”を学校が独自に募集しています。管理職でも民間校長の事例が増えてきました。

ICTの普及に伴い、授業支援クラウドだけでなく、校務支援や学習管理、校内SNSなど多様なシステムがあるので、教科書や模試だけでなく好きな文脈で様々な学校に足を運べるようにもなりました。メタバースもあります。

また、高校魅力化の文脈で地域おこし協力隊になると、先生とは違う立場ではありますが、高校現場に深く携わることもできます。1年間を通して学校に常駐し、子どもたちの学びを支援し、先生と遜色ない活動をすることができるでしょう。

と、今ぱっと挙げるだけでも多くの職種があります。
これから教員を志望する学生を増やしていくということは、このような職種と比較されるということです。

もちろん学生からしたら良い側面しかありません。
教育の多様化が進めば進むほど、職種は増えていきます。

また、例えば先生出身でICT業界に入る人なんていくらでもいるので、なにもしなければ良い人材が流れていくだけです。
疑問を持つ人材が重要であること、そういった人に残ってもらわないと新たな人材は育ちません。
もっと言えば、今の時代に“好き”だけで残るのも相当稀有なんじゃないでしょうか?

職種が増える分、バランスを大事にいくべきかなと。

何が解決のカギとなりえるか

さて、ここまで『教員不足』の課題について見える部分を書いてみましたが、それを解決するにあたって、どのようなことができるのか、なにが取っ掛かりになるのかを考えました。

ここでは、給特法のような政府レベルの課題解決手法ではなく、自治体レベルで取り掛かれるようなことを題材にしています。

部活動移行問題をどう扱うか

『教員不足』を話題にあげる際に、必ずついて回るのが部活動移行問題です。

土日の休日に部活動に駆り出されることが、教員の長時間勤務の要因になっていること、少子化により団体競技のチーム編成が一つの学校で完結するのが困難になってきていることから、部活動の運営を地域のクラブや団体に移管していこうというのが、部活動移行の考え方です。

部活動移行を実施していくにしても、いくつかの障害があります。「地域の受け皿がない」「保護者の負担増」がよく取り上げられる課題ですね。

まず、部活動移行に取り組んでいくために大事なのは”人的リソース”です。そもそも、地域クラブや団体に移管していくにしても、指導者がいなければ始まりません。それを教育委員会がどこまで把握しているのかが重要です。

公教育において大事なことは公正さと公平さです。
この地域には人がいる、場所もある。だけど、この地域には人がいない。では子どもたちへ供給するものに差が出てしまいます。
もちろん、民間事業者に委託して、人的リソースの確保からやっても良いかと思います。部活動移行に関しても多くの事例があり、いろんな視察が行われていますが、大事にすべきなのは”一般化”です。「この地域で出来ているのは、特別なリソースがあるからなのかどうか」「「横展開するとしたら一般化すべき部分はどこか」を考えなければ視察は意味をなさないかと思います。

地域の人を理解して初めて、そのうえで部活動移行なのか、コーチ登用なのか、教職員の兼業なのかの検討フェーズに移れます。

家庭教育の充実を目指す

先ほど、ブラックのイメージは”社会的なものさし”に依るものだと述べましたが、そのものさしで僕が取り上げたいのは”わかりやすい理不尽”があるかどうかです。
とりわけ、わかりやすい理不尽の中で毎年のようにニュースで散見されるのが家庭対応です。

上記のように「THE・モンスターペアレント」のような事例もそうですが、それ以外に準ずるような家庭は実際もっと多くあると思います。(先生が困った家庭のアンケートとかないかな)

子育ての幹は基本的に親が担うものだと僕は思います。しかし、子育てにも確実に向き不向きがあります。そういった親に対して、定期的に家庭教育を実施している自治体がどれほどありますでしょうか?
正直、僕は聞いたことがありません(誰か教えて)

「教育=学校・先生が担うもの」であるという考えを持っている親へ伝えるべきこと、支援すべきこと、接続するべきことは本当に多くあると思います。

それこそ、シングル家庭で周りに頼る人がいない親だって多くいるかと思います。(僕自身そういう家庭でした)なぜもっと、家庭教育を自治体で進めないのでしょうか?
僕は人の親ではないので、実際やっているものを見切れていない部分は多くあるかと思いますが、もっと広く、数を多く、質を高めた家庭教育を推進しなければ、子どもの親が原因(ニュースを見て)で先生をやめる、先生にならないというような層は肥大化の一途を辿る可能性があると思います。

東京都では防災ブックが各家庭に配られましたが、小学生や中学生、高校生にあがるときにも家庭教育とか奨学金のまとめとかを本にして配布したらいいのにな。

先生が頼れる相手を増やす

学校は良くも悪くも”閉鎖的”です。
もちろん、子どもたちの安心・安全の環境としての学校ですので、学校がある程度の閉鎖環境をもつことは大事です。そのうえで、出来る限り進められたら良さそうという話です。

学校の先生方が業務を進めるうえで、常に欠けているシステムが”壁打ち相手”の欠落だと思います。私立であれば公務分掌がチーム化されているので幾分か補完ができていますが、もっとインタラクティブに先生が自身の業務の相談や進行していくうえでの課題解決の糸口になるような連携があるべきだと思っています。

そこで、学校に出入りする人を多様化し、教員だけでななく地元企業の社員や官公庁の職員、大学生が自由に出入りできる空間があり、月に一度だけでもいいから総合的な探究の時間のメンターを担ってもらったり、それこそ先生の会議に加わってもらい子どもたちの学びを一緒に考える役割を果たしてもらうと良いかと思います。

こんな風な事例があります。

教育業界で一歩外に踏み出しても、会う人はほとんどが教育畑の人間です。(一般企業なら他業種交流会が色んな所で行われています)
同じ属性でしか交流が出来ないのであれば、イノベーティブな発想は生まれづらいですし、自分のキャリアのヒントをもらえるきっかけ(マルチリレーション社会)も少なくなるかと思います。

だからこそ、学校環境にいても会える人の種類を増やすことができれば、先生が何かに行き詰った時に企業で働く人に相談したり、行政の方に頼ってみたり、若者の知恵を借りたりできる。そんなところがあれば、中から学校を変化させていくことができるのではないでしょうか?

教員の役割の揺らぎをなくす

AIの発展により、非常に残念に思うのが、将来なくなる仕事の一つに教員があることです。

この本には、以下のように記述があります。

AIを利用することで、個々の進度に適した学習指導ができるようになる。先生よりもAIのほうが関数で最適化された個別教育の設計ができるはずだ。

10年後の仕事図鑑 堀江貴文 ✕ 落合陽一

しかし、教師の仕事は教育業界の人間の目からすれば、そんな単調なものではなく、AIに代替できると簡単に言えるような職業もないかと思います。

ただ、現状そのように語られてしまう背景として、時代の移り変わりとともに”教員の役割に揺らぎ”が発生してしまうことが原因にあるかと思います。
たしかに社会の発展共に、職業の在り方は変わっていくべきだと思います。ただ、時として、必要のない揺らぎが発生し、「何のための仕事か?」という議論が起こります。

この議論において欠かしてはいけないのが「主語を子どもで語る」ことですが、それが抜け落ちている議論を目にすることもあり、

子ども主語でなくなった瞬間から、揺らぎが生じていると強く感じます。

教員を志望する学生もとい子どもたちが持っている教員の役割がいつまでも変わることがなく、何かに脅かされることもなく、「教員だから出来ること」に憧れを持てるように、教員の役割を保ち続けることも『教員不足』を食い止める非常に大事な要素となりえるでしょう。

最後に

ここまでお読みいただきありがとうございます。
今日も今日とて教育の話題は本当に尽きないと思います。

最近、教育を進めるうえでもっと多くの知識を取り入れる必要があると思い、取り急ぎ2024年は行動経済学の勉強をしたいと思います。また、複雑系科学については今以上に勉強をしないと、これからの教育には立ち向かえないなと痛感する日々です。

と、社会課題に対する個人的な気持ちを踏まえ、最後に多くの自治体にやってもらいたいことが、まず1つあります。

議論はオープンにした方がいい

青森県教育改革有識者会議というのがあります。

最近こんな形で報告書も出ています。

この有識者会議は青森県の教育課題等を委員の皆様が赤裸々に議論し、提案し、語り合う会議になっています。
有識者が教育の課題に対して、どのように捉えているのか、どのように考えを持っているのかを見るだけでも勉強になるコトはもちろん、そこに住む住民の皆様にとって教育は非常に重要なテーマで誰でも自分ごとです。だからこそ議論はオープンにすべきで、どのような道筋を辿ろうとしているのかはもっと分かりやすくする必要があると思います。

すでにやっているとは思いますが、書面では分かりづらすぎます。

noteもとても面白いので要チェックです。

僕らが出来ること

さて、このようにオープンにしてくれる自治体がある中で、僕らのような第三の立場で学校に切り込む人間も多くの情報をオープンにしつつ事業を進めていきたいと思っています。

学校へのキャリア教育・探究学習の提供はもちろん、今後は協働事業も出来ればと思いますので、学校だけでなく多くの方々と話を進めながら、自分たちに出来ることを考え、実施することや内情、そして検討事項をオープンにし、それの結果だけでなく継続的なリサーチもオープンにしていきます。
僕らが直線的に『教員不足』に手を掛けるのはパワー面から難しいですが、出前授業への大学生派遣や、コミュニティづくりなど、出来ることは続けていきます。

Japan Education Labは今後も、学校ごとに授業をデザインするという強みを生かして事業を展開・推進し、授業づくりや授業後の評価数値など、先生方にとって有益な情報をまとめていこうと考えております。

これからの取り組みも、ぜひこのnoteでチェックしていただけますと幸いです。

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