見出し画像

デザインとは無縁だった中小企業に、グッドデザイン賞が教えてくれたこと


グッドデザイン賞とは一体どんな賞なのか?

日本ベネックスの新たなものづくりプロジェクト「EETAL(イータル)」にて、プロダクトデザイナー清水久和さん(S&O DESIGN)と創作した板金製の家具「スイートファニチャー」が、2022年度グッドデザイン賞を受賞しました。

※このプロジェクトの企画から製作過程、そして完成までのお話はこちら↓


今回なぜグッドデザイン賞に応募したのか。そして受賞後に、社内外にどのような変化があったのか。その真意を探るべく、EETALプロジェクトのメンバー木下さん( 社長室 )に話を伺いました。

グッドデザイン賞を知らない方や「グッドデザイン賞って意味あるの?」と思われる方にもお読みいただければと思います。


1. 手ごたえがあったから

――:
まずスイートファニチャーの完成後、最初のお披露目が「21_21 DESIGN SIGHT」で開催された清水さんの展示会でした。どういった反応がありましたか?

木下:
展示会で初めてお披露目するということで、うちでもプレスリリースを出して、そこから数週間のうちにいくつかの媒体から声がかかりました。

――:
具体的には?

木下:
OPENERS」とか「ELLE DECOR」のwebメディアから、雑誌の「Casa BRUTUS」とか。中でも驚いたのは海外メディア(design boom)。

一見、産業機器の製造事業者とは無縁そうな、誰もが知るメディアから声がかかったときは単純にうれしかったですね。

――:
その時点でグッドデザイン賞は考えていたんですか?

木下:
いや、そんなに。

――:
どんなきかっけで応募したんですか?

木下:
展示会の直前に、清水さんと打ち合わせをしているとき「グッドデザイン賞に応募してみたら?社内で変化が起きるんじゃないかな」と言われて。

その時点ではお披露目していないし、周囲の反応もわからないから、そこまで真剣に考えていませんでした。

だけどリリースを出したあと、メディアの反応を見ているうちに「もしかしたらいけるかな?」と思ったので、応募してみようと。


2. だれもが知るグッドデザイン賞


――:
グッドデザイン賞って聞いたことあるけど、どんな賞かいまいちわからないです。

木下:
自分も最初はそんな感じでした。名前は知っているけど「どんな賞か?」と聞かれても答えられない。それこそ美しくてかっこよくて、スタイリングされたものに贈られる賞だと思ってたから。

こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、「モンドセレクション」とか「グッドデザイン賞」って大企業のための権威的な賞というイメージがなんとなくあって。最初、応募することに少しだけ抵抗がありました。

――:
へぇ。

木下:
だからまず、どんな賞かちゃんと調べてみようと。

グッドデザイン賞とは
グッドデザイン賞は、製品、建築、ソフトウェア、システム、サービスなど、私たちを取りまくさまざまなものごとに贈られます。かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質を評価・顕彰しています。
さらに、複雑化する社会において、課題の解決や新たなテーマの発見にデザインが必要とされ、デザインへの期待が高まっています。グッドデザイン賞は、審査と多様なプロモーションを通じて、デザインに可能性を見出す人びとを支援し、デザインにできること・デザインが生かされる領域を広げ、私たちひとりひとりが豊かに、創造的に生きられる社会をめざしています。

グッドデザイン賞オフィシャルサイトより引用

調べていくと、思ってたイメージとぜんぜん違って。大企業じゃない会社もこれまで多く受賞しているし、何より「デザイン」という言葉の認識がまるっきり違うことに気がつきました。

――:
デザインの認識?

木下:
デザインというと「表面的な見た目」のことだと思っていたけど、実は社会とか何かを「よりよく変えるための発見、工夫」のことを言うと。しかも実際にカタチあるものから、カタチのないサービスまで受賞している実績がある。

――:
なるほど。

木下:
よく考えると、このプロジェクトも立ち上げるとき「かっこいいものをつくりたい」とか「家具をつくりたい」という思いから出発したわけではなくて。

これまで積み重ねてきた技術と新しい発想で、自分たちの“ものづくりの可能性を広げたい”という思いから始まっています。

うちの製造事業はBtoBで、お客様から依頼をいただいて初めてものをつくりますよね?だから「ものづくりの可能性を広げるため」ということは、ふだん許されない。

――:
はい。

木下:
それで事業とは別にプロジェクトとしてやろうと。これまでに挑戦したことのないものづくりをやることで、ものづくりに必要な強い思考力、技術を支える知力の更新ができると思いました。いわゆる技術開拓です。

――:
もともとデザインの認識は違っていたけれど、気づけばこのプロジェクト自体もグッドデザイン賞の主旨とかけ離れていなかったということですか。

木下:
そうですね。自分たちの現状を「よりよく変えるための取り組み」だから。そう気づいた後はなおさら「グッドデザイン賞、獲りたい!」って思いました。

――:
グッドデザイン賞に応募するということをプロジェクトメンバーに話したときは、どんな反応でしたか?

木下:
もちろんグッドデザイン賞ってみんな知ってるから、盛り上がりました。

事前に小林さん(社長)にも話したんだけど、すごい冷静にボソッと「獲れるよね」って言われて(笑)。プレッシャー感じました(笑)。


3.グッドデザイン賞に意味はあるのか?


――:
応募から受賞まではどんなフローなんですか?

木下:
書類だけの一次審査があって、二次の現品審査で受賞が決まる。

手ごたえはあったものの、やっぱり不安でしたね。審査の合否をエントリーサイトで確認するんだけど、合否確認ページをクリックするのがめちゃくちゃ怖かったもん(笑)。

落選してたらみんなに「どう報告しよう‥‥」とか、くだらないことを考えてましたね(笑)。

――:
一次を無事に通過し、そして受賞が決まったときは‥‥。

木下:
はじめは嬉しかったというより、とにかく安心しました。

プロジェクトメンバーの職人たちが喜んでいるのを見ると、ついこっちも嬉しくなる。ちなみに受賞すると審査員からのコメントがもらえるんですが、それも嬉しくて‥‥。

『一見シンプルな構造ではあるが、わずか2mmのスチール板を補強材を用いずに板金加工のみで実現した素材と製造方法を熟知した独創的なデザインを高く評価した。金属特有の冷たさを有機的な造形と柔らかなプロポーションで軽減しており、オブジェクトとしての美しさだけでは無くインテリアに馴染むようにデザインされている点も評価が集まった。有機的な曲線を板金加工で行うには非常に高度な技術が必要だが、その特性を熟知した本製品はこれまでの日本にはない新しいライフスタイルプロダクトとなるだろう。』

グッドデザイン賞審査員の評価コメント

――:
受賞すると売れるようになるものなんですか?

木下:
うーん‥‥。わかりやすく「注文が2倍、3倍になりました!」ということはないけど、変化がなかったわけでもない。でもそれは当たり前で。消費者目線で考えると「グッドデザイン賞受賞商品だから買おう」とはならない。あくまで商品力があって、その上で「受賞してるものだから安心」とはなるかもしれないですけど。

――:
たしかに。受賞して何か変わりましたか?

木下:
清水さんが最初に「社内で変化が起きるかもよ」と言っていた意味が、ようやくわかりました。

どういうことかというと、自分を含めてプロジェクトに関わった人たちが「デザインとは何か」ということを多少なりとも理解できて、ふだんから意識するようになったと思います。

例えばスツールをつくる上で「スツールとは?」「座りやすい形やサイズとは?」「板金の特徴とは?」というところから考え始めて、手数と余計な部品を使わずに強度を出す構造設計も追求して‥‥。

つまり考え方からつくり方、そして細部の美しさすべて含めて「デザインなんだ!」と、わかった気がします。

「早く・正確につくる」という普段の業務から解放されて、立ち止まって根本的な部分からものづくりを考える。こういう時間も必要だと気付きましたね。

――:
なるほど。


木下:
あと、うちは一般の生活者がふだん何気なく目にしているすごいものをつくっているのに、自社の製品じゃないから社外にはわからないし、評価も聞くことがない。

そう考えると「自社の製品です!」と胸を張って言えて、「グッドデザイン賞受賞」という対外的な評価も得られたから、これは本当に嬉しいです。

自分たちの誇れるものができたということも、大きな変化だったと思います。

――:
今後もプロジェクトは続ける予定ですか?

木下:
もちろん。今回たまたま家具をつくっただけで、今後家具だけをつくり続けるということはあまり考えていなくて。あくまでも板金を起点として、その中で様々な素材と組み合わせてみたり、ものづくりの可能性を広げる実験的な取り組みをしていきたいです。

今回、プロジェクトやってみて改めて思ったのは「ものづくりは楽しい」ということ。もちろん職人たちは苦労することもあったけど、それも込みで最後は「楽しかった」と言ってくれたし。

とはいえ、この楽しいプロジェクトを続けていくためにも、「ちゃんと稼ぎます!」と社内に宣言はしておかないと‥‥(笑)。


おわりに


「デザインを知り意識するようになった」「自分たちの誇れる自社製品ができた」「つくる喜びを改めて感じることができた」

グッドデザイン賞を通して、私たちが新たに学び得たもの、経験できたことはこれからの財産となりそうです。それぞれの会社によってグッドデザイン賞の効果効能・考え方は異なりますが、わたしたちにとってはとても大きな意味があったと思います。

デザインという「何かをよりよく変えていく発見や工夫」を今後も続けていきたいと思います。

(お読みいただきありがとうございました!)


日本ベネックス について
コーポレートサイト:https://www.japan-benex.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/JapanBenex
Instagram:https://www.instagram.com/japan_benex/
Facebook:https://www.facebook.com/JapanBenex

ぜひフォローをよろしくお願いします!

EETALプロジェクトについて↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?