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【オッペンハイマー】時系列で整理

私の理解を深めるために書いた側面もありますが、それ以上にこれから映画を観る方や、すでに観たけれど難しく感じた方にとって役に立つ内容ではないかと僭越ながら考えます。

私の感想を混ぜるとノイズになりますし、映画の順序で書いてしまうとネタバレになります。しかし、この映画をより楽しむためには【時系列で何が起きたのか】をよく理解している方が有利なのは間違いないので、今回まとめました。

*あくまで映画の描写に即して書いたものであり、史実とは異なる部分もありますのでご留意ください。このnoteはあくまでクリストファー・ノーラン監督作品の【理解を助けるサブテキスト】だと捉えてください。

映画の順序で書いた感想はこちらからご覧になれます

*特に記載がない場合、主語は全てJ・ロバート・オッペンハイマーです。

▼1930年代:

●天才学生のオッペンハイマーが量子物理学の権威になるまで

ケンブリッジ大学で実験化学を学ぶが、馴染めない。
出来心でチューターの先生を毒殺しようとしてしまうことも。
ボーア(演ケネス・ブラナー)に出会って理論物理の道に進む。

アメリカの物理学者ラービ(演デヴィッド・クラムホルツ)と出会う。
ドイツの物理学者ハイゼンベルクと出会う。

帰国してアメリカ初の量子物理学の講義を始める。
アメリカの工学者ローレンス(演ジョシュ・ハートネット)と出会う。

この時期はブラックホールの研究などをしていた。

●共産党とのつながり

弟フランクが共産党員になる。
フランクに共産党のパーティーに何度も誘われる。
共産党員のシェバリエと友人になる。
共産党員のジーン・タトロック(演フローレンス・ピュー)と恋仲になる。

▼1938年:

ドイツの科学者がプルトニウムの核分裂に成功する。
⇒この技術を使って何を作るかって、そんなの爆弾に決まってる。

▼1939年:

ドイツのヒトラーがポーランド侵攻を始める。
⇒ナチスよりも早く核兵器を開発する必要性を強く感じる。

▼1940年:

元共産党員のキティ(演エミリー・ブラント)と結婚する。

子守をシェバリエ夫妻に依頼する。

▼1942年:

グローヴス大佐(演マット・デイモン)からマンハッタン計画の責任者に任命される。
グローヴス大佐と2人で全米から優秀な研究者をリクルートする。
ロス・アラモスの砂漠に研究用の街を作る。

▼1943年〜:

シェバリエから共産党員の科学者エルテントンを通じてロシアへの情報提供が可能だと紹介されて、それは反逆罪に当たると拒否する。
⇒しかし友人のシェバリエを警察や軍部へ通報することはしなかった。

オッペンハイマーが妻子を連れてロス・アラモスに移住する。

ロス・アラモスに参加したエドワード・テラー(演ベニー・サフディ:テラーは後に水爆の父と呼ばれる人物)が【核の連鎖反応理論】を発見する。この理論通りになったら、たった一発の核爆弾で地球の大気が全て燃え移り、文字通り「世界は核の炎に包まれる」ことになる。

アイシュタインに相談して、核の連鎖反応理論が正しかった場合はナチスにも伝えて、直ちに人類が核兵器の研究開発を止めるようにしろと助言される。

核の連鎖反応理論は理論的には正しいが、現実に落とし込んだ時に実際に起きる確率はニアゼロだという計算結果が出る。

テラーが原爆より強力な水爆を提案するが、これを現実的ではないとして却下する。

ロス・アラモスでの情報統制規則を破って、極秘にシカゴ大学で研究しているフェルミとシラードと情報共有を進める。世界初の原子炉を見学する。

ロス・アラモスに関わる人がどんどん増える。イギリスからフークスを招いたり、研究者の妻を助手や事務員で雇うなどする。

ロス・アラモスでローレンスの助手として雇っていたロマンティスが、身辺調査の結果でまだ共産党の活動を続けていたことが発覚して解雇される。

サンフランシスコでジーンと密会して別れ話をする。

ロマンティスを訪ねたバークレイ大学で軍人相手にエルテントンの名前を出したことで捜査対象にされる。翌日にパッシュ大佐(演ケイシー・アフレック)と面会して交友関係について任意で取り調べされるが途中で気づいてシェバリエの名前を隠し通すことに成功する。
⇒後日このままだとオッペンハイマーが逮捕される可能性が高いと判断したグローヴス大佐がパッシュ大佐をドイツでの作戦に異動させてオッペンハイマーを守る。

ボーア博士がロス・アラモスを訪問する。世界はまだ準備できていないと警告される。

サンフランシスコでジーンが浴槽で不審死する。訃報を受けてひどく狼狽するが、ここでも妻のキティが支えてくれる。

テラーが水爆にこだわるあまりチームと不和になるが、原爆開発チームから外してロス・アラモスで独自路線で自由に研究させることに決める。

▼1945年:

ドイツが降伏したことでロス・アラモスの科学者の間で燻っていた原爆開発に対する疑問の声がついに抑えきれなくなる。開発反対派が勝手に開いた集会を嗅ぎつけたオッペンハイマーは、まだ日本が残っていることと、自分達はあくまで研究者であり核の恐ろしさを見せつけることで政府に軍事利用を思いとどまらせて、ルーズベルト前大統領の核技術共有構想の実現に繋げることが狙いだと科学者達を説得する。

トリニティ実験をポツダム宣言の前の7月に設定する。迅速に準備するためにオッペンハイマーは土地勘のある弟フランク(既に共産党員を辞めていた)に仕事をさせる。

シカゴ派のシラードが極秘にトルーマン大統領に宛てた原爆利用停止を求める署名への参加を促すが、オッペンハイマーはこれを退ける。

原爆投下の決定会議で核兵器の恐ろしさを伝えるも、戦争を早く終わらせるという大義名分で原爆投下が決定する。

7月16日未明。急ピッチの突貫工事や悪天候で不安は残りつつも、大統領報告期限日の午前5時30分に強行してトリニティ実験は成功する。スタッフは全員徹夜続きで疲労困憊で、理論上ニアゼロとはいえ連鎖反応による大気炎上が起きる可能性もあり滅茶苦茶であった。

原子爆弾を米軍に移管し、グローヴス将軍もあっさりロス・アラモスを去る。戦地に搬送される二つの原子爆弾を見送りながら、原爆戦争の時代の始まりだと憂うオッペンハイマーだったが、傍らに立っていたテラーが「俺が水爆を作るまではな」と冗談なのか本気なのか判らないことを言う。

広島と長崎で原爆が投下されたことをラジオで聴く。第二次世界大戦は日本の無条件降伏で終了。この日を境に原爆で焼け死ぬ人々の幻覚に悩まされるようになる。しかし戦争の英雄になってしまった彼の本心を大衆は理解しなかった。

10月。功績が認められてトルーマン大統領(演シークレットゲスト!)と面会するも弱気な発言を繰り返し、ロス・アラモスは閉鎖して土地を原住民に返却しますとまで言い放ち大統領の不評を買ってしまう。更にダメ押しで「手に血がついた気持ちです」と心境を吐露するも、大統領から「被曝者は開発者のことなど恨まない、恨まれるのは落とすと決めた私だ」と啖呵を切られて、そのまま面会はバッサリ中断されるのだった。

11月。原子爆弾の実戦利用に反対して、ロスアラモス研究所の所長を退任する。オッペンハイマーは退任式典で「この施設の名前は呪われるだろう」とスピーチする。

▼1947年:

AEC(米国原子力委員会)長官のストローズから、AECの顧問(プリンストン高等研究所所長を兼ねる)に任命される。ストローズと初対面する。

この日、アインシュタインと庭で会って、【ある会話】をする。

ストローズは急にアインシュタインに無視されるようになって、不安になる。

▼1948年:

アイソトープをノルウェーに輸出するかを決定する公聴会で、輸出に反対していたストローズを揶揄する証言をしつつ、輸出をOKにする。このジョークを交えた批判コメントは効果がありすぎて、大勢の科学者たちに笑い物にされたことで、もともと科学にコンプレックスを持っていたストローズに強い科学者不信を植え付けてしまう。

▼1949年:

ロシアが原爆実験に成功する。これを受けてストローズは大統領への水爆開発の進捗報告が必要だと主張する。またロス・アラモスの内部にロシアのスパイが居たのではないかと疑う。

オッペンハイマーは水爆技術は現時点で実践的ではないことと、これを開発したらロシアとの開発競争になるので、今こそルーズベルト前大統領の構想通りに世界で協力して各技術を共有管理するべきだと主張する。しかし現大統領トルーマンの意向とは異なるとストローズに強く反発される。

オッペンハイマーはラービからストローズには敵対するなと忠告される。また、この時にAECに新加入したボーデンと初対面する。元軍人で戦闘機のコクピットからミサイルを目撃したことがあるというボーデンの話から、オッペンハイマーは核弾頭がミサイル搭載される未来を想像する。

トルーマン大統領が、アメリカは水爆開発に邁進すると決定する。

ストローズから、ロス・アラモスの英国人研究者フークスがロシアのスパイだったと伝えられる。

▼1954年:

●密告

ストローズがオッペンハイマーの社会的立場を破壊するために動く。FBI極秘資料をボーデンに渡して、FBIにオッペンハイマーの身辺調査の再会を要求させる。密告されたFBIのフーバー長官からの依頼をニコルズが対応して聴聞会の設置を決める。審査員も検察官もストローズが指名する。正式な裁判ではなくて身辺調査の手続きになので密室にできる。法的に認められる証拠も必要ない。

FBIに密告して再調査を依頼するボーデン
FBIから要請されて聴聞会を設置するニコルズ

この聴聞会の目的はオッペンハイマーの共産党関与を証明することではない。ただ彼に掛かる嫌疑だけを残して、二度と政治に口出しできぬようにすることだった。

●聴聞会(ホテルの小さな密室で)

聴聞会の証言全体を通して、オッペンハイマーが米国に忠誠のある市民であることは証明された。しかしながら共産党員との関わりが無いことは証明できなかったので、事実上の公職追放の処分がされる。

▼1959年:

●公聴会(アメリカ議会議事堂の公聴室で)

ストローズの米国商務長官の任命に際する公聴会が開かれる。

ストローズは、共産党と強いつながりがあると見られて1954年に事実上の公職追放されたオッペンハイマーを、1947年にAEC顧問に任命した過去があるので、当時にどういう見解だったのかをヒアリングされて、不快感を露わにする。

さらにストローズは商務長官の任命可否でありながら、彼の資質について科学者の意見を聴くことに強い抵抗感を見せる。

ストローズは世論を操作するために知り合いの記者にタイム誌にストローズがオッペンハイマーと戦ったからアメリカはロシアとの水爆開発競争に勝ったという記事を書かせる。

ストローズは当時の為政者と関係が良好だったテラーを招集して、テラーはストローズに有利な証言をする。

委員会が招集したシカゴ派の科学者デヴィッド・ヒル(演ラミ・マレック)が、ストローズは商務長官に相応しくないと証言する。理由は1948年のアイソトープ輸出時の公聴会でオッペンハイマーに馬鹿にされたことをストローズはずっと根に持って、1954年にオッペンハイマーの社会的地位を破壊したと多くの科学者が考えているからであると。その一件以降もストローズの言動は政治的なアクションに満ちていたと。公聴会は騒然となる。

続けてヒルはオッペンハイマーの聴聞会の検察官ロブを指名したのはストローズだったと暴露する。またもや騒然となる会場。

ストローズの米国商務長官の任命が拒否される。(1925年以来の異常事態)

▼1963年:

ジョンソン大統領から「エンリコ・フェルミ賞」を受賞する。

アメリカ政府はこの賞の授与により、反共ヒステリック状態でなされた1954年の処分の非を認め、彼の名誉回復を図ったとされている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ロバート・オッペンハイマー

おわり。


▼まとめ:

いかがですかね?

むしろ一度映画をご覧になった方なら、色々繋がって理解が進む記載になっていたんじゃないでしょうか。

繰り返しになりますが、映画で語られる順序で記載したネタバレ感想はこちらになります。

そちらも合わせて読むと、ますます理解が深まるとともに、クリストファー・ノーランの優れた脚本術が実感できると思います。

皆さんが良い映画体験ができることを願って。

(了)

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