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アニメと広報#2「転生とパーパスブランディングは意外と近い」/無職転生~異世界行ったら本気出す~

半年ぶりです。
半年に一回しか書かないのかって?
そんなつもりはなかったのですが、なかなか時間を上手く使うことが出来ずに、ここまで引っ張り続けてしまいました。
時間を有効に使える方がうらやましいです。やり方、教えてください。
逆に僕からはおすすめのアニメと競馬についてお教えしますから。

と、こんな散文的な意識だから、時間が上手く使えないんでしょう。

さて、話は戻して、『アニメと広報』#2です。
僕の愛するアニメとPR・広報を無理やり紐づけて、アニヲタらしく『アニメ作品を通して思い浮かんだ広報論』という体裁の記事を発信していく企画です。

2回目はタイトルにもある『無職転生~異世界行ったら本気出す~』です。
ご覧になった方ならわかると思いますが、タイトルからは想像つかないくらいに硬派な作品だったりします。
あらすじやキャラクター解説についての詳細は、本稿でも簡単に触れますが、もちろん公式サイトが一番明るいため、別タブで公式サイトを開いて合わせて読んでください。

今回は『無職転生~異世界行ったら本気出す~』から学ぶブランディング論/パーパスブランディングをテーマにしています。

興味のない方は回れ右。
そしてもう一回、回れ右して、そんな冷たいこと言わずに読んでいってください。
パーパスブランディングを知りたくて本稿に興味を持った方は、この記事を読む前と後では明晰さに差が出ますよ。そして、私を天才と褒め讃えるでしょう。ありがとう。嘘です。そこまでの記事ではないので、肩ひじ張らずに楽しんでいってください。
それでは目次です。


『無職転生』のあらすじからブランディングを感じない?

そのタイトルからもわかる通り、原作はいわゆる"なろう小説"です。
そしてこれもタイトルからわかる通り、転生ものです。

事故死した無職童貞引きこもり34歳の男が、次に生を得たのが剣と魔法のファンタジー中世世界。そこで、前世を悔いて、今世では本気で生きるぞ!と奮起し活躍していくという、設定だけはありきたりなお話。
主人公のルーデウスは、生前の記憶や思考力を引き継いでいることを武器に、幼児期のころから魔法書を読み漁り、訓練を続けた結果、子どもの時点でかなり強い魔法使いに成長していきます。これもまた典型的な"なろう小説"の構成ですね。

ただ、本作が典型的な"なろう小説"と少し違うのが、あくまでも訓練を続けた結果として強い力を身につけただけで、無敵最強なチート能力を手にして転生したわけではないという点です。

生前、いじめられたことをきっかけに引きこもりとなってしまった主人公。以降は努力することもなく、日々を無為に消費し、現実逃避を繰り返し、しまいには友人は離れ、家族から家を追い出され、死んでしまう……。
そんな前世をまるっとトラウマとして抱えて転生した主人公だっただけに、「本気出す」ことで、関わってきたすべてに贖罪と、自分にチャンスを与え、誰かに必要とされる自分を実現したかったのかもしれません。本気で魔法の訓練に明け暮れ、7歳になる頃には魔法大学へ通うために家庭教師の仕事を(半ば強制的に)することとなります。

そして家庭教師をはじめて3年が経過し、万事順調に進んでいたルーデウスの人生を、とある事件が襲います。
通称・フィットア領転移事件。魔力災害(魔法的な要因で起こる災害のこと)で生まれ育ったフィットア領から魔大陸という遠く離れた物騒な土地へと強制転移(テレポート)されてしまうのです。傍らには家庭教師の生徒・エリスがいる。

これを機に「本気出す」の意味が、変わっていきます。

今までは、前世までの自分自身の人生に贖罪とチャンスの機会を与えるために本気を出してきた。でも、これからは、エリスと厳しく物騒な土地で生き抜き、エリスを家に送り帰すため本気を出さなければならない。

「本気出す」の形状変化です。

本作の強い特徴に、この「本気出す」の形状変化があります。
物語が進み、おかれた環境の変化が起こるたび、形状変化していくのですが、ただし、どれだけ形状変化しても、なぜ「本気出す」に至ったかの理由だけは変わりません。
その理由(ルーデウスの行動原理・存在意義)とは<誰かに必要とされる自分の実現>です。それは、いじめられ、現実逃避し、友人・兄弟から見捨てられた前世のトラウマから生じた思いでもあります。
この変わらない根本の思い(行動原理・存在意義)と変化していく「本気出す」の二軸で物語は回っていきます。

さて、ここまで、あらすじを長々とお伝えしただけでもわかっていただけた方もいるかと思いますが、『無職転生』はルーデウスが誰かに必要とされる自分(=パーパス)を実現するために「本気出す(=ミッション・ビジョン・バリューの実現)」物語、つまりブランディング的物語の側面を多分に含んだ作品なのです!!(めっちゃ言い切ってやったぜ!)

パーパスとかブランディングってなによ?

そもそも、そんないきなり「パーパス」とか「ブランディング」とかぶっこんでくるなよ!とお思いのそこのあなた。僕もそう思います。ただめっちゃ言い切りたかったので、一気に結論まで話を持っていってしまいました。
なので、改めて簡単ではありますが、用語をまとめましょう。
実際には色んな捉え方が存在するとは思いますので、あくまでこの記事で僕はこういう意味で使っているよ、という説明と捉えておいてください。

パーパス

存在意義。
会社で言えば、「なぜ、この会社は存在するのか」を社会的意義に照らして表明する言葉。社内も社外も共感性を生む納得感ある思いがいいよね。
例として、サントリーさんとバンダイナムコさんのパーパスを挙げておきます。

人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、「人間の生命(いのち)の輝き」をめざす。

サントリーグループ「わたしたちの目的 Our Purpose」より

もっと広く。もっと深く。
「夢・遊び・感動」を。
うれしい。たのしい。泣ける。勇気をもらう。
誰かに伝えたくなる。誰かに会いたくなる。
エンターテインメントが生み出す心の豊かさで、
人と人、人と社会、人と世界がつながる。
そんな未来を、バンダイナムコは世界中のすべての人とともに創ります。

バンダイナムコ「Bandai Namco's Purpose」より

長さも雰囲気も全然違いますね。
それでも「わが社は、社会にとってどんな存在なのか」をそれぞれ謳っていますね。
パーパスは、社会とわが社の関係性をどう成り立たせるかを共感性を持って伝えるものだと考えています。
共感性を持って伝えることで、社員さんやその家族にとってはポジティブな感情を湧き立たせる一貫された指針になり、社外のステークホルダーにとっては関係値向上の一役になってくれるからです。
「ルーデウス」株式会社においてのパーパスは<魔法と人柄で関わる人すべてと仲良くし、誰かにとって必要とされ続ける>というところでしょうか。
1期第2クールエンディング映像のサビ部分「トマト祭りで使う風の魔法」「スカイランタンと花火の魔法」の場面は、そのパーパスを表現するイメージムービーとして使えそうです。

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)

ミッションは、パーパスを実現するために何をするかを示す行動指針。
ビジョンは、どういう会社になっていたいか。未来像。
バリューは、何を大事にしているか。価値観。
いずれもパーパス実現のために描く指標たる思いたち。
個人的には、MVVをどう定義付けた言葉にするかは、それぞれの会社でブレなければ問題ないと思っているので、全てを設定してもいいし、設定しなくてもいいと思っています。
「ルーデウス」株式会社においてのミッションは<あらゆる場面で「本気出す」>、ビジョンは<周りに笑顔があふれている世界の構築>、バリューは<絶え間ない努力・嫌われない人当り・極力殺さず>と言ったところでしょうか。

ブランディング

差別化、そして個の主張。
どういった企業・商品であるか、他社との比較から始まり、どういった個体であるかをロゴやキービジュアル、コピーライティングなどの様々な表現媒体を介してメッセージングしていく。
目的は、消費者としてのファンの創出。

パーパスブランディング

個人的には、ブランディングとパーパスブランディングを分ける必要はないと思いますが、あえて分けるなら、パーパスブランディング=パーパスを前提としたブランディングということになります。
今後、「ブランディング」という言葉は「パーパスブランディング」を指す言葉になっていくのではないでしょうか。
メッセージングにおいては、ロゴやキービジュアルなどのクリエイティブを使った従来的なブランディング的手法を用いるのはもちろん、商品開発においてもパーパスを意識した開発が出来ているかが大きく関わってきます。
パーパスに環境云々を持ち上げておいて、汚染問題を引き起こすようなものを商品として提供するなんてもってのほか。どのようにパーパスに沿った商品であるかをしっかりとメッセージングする必要があります。さあ、PR・広報マンの出番です。
目的は、共感者やフォロワーとしてのファンの創出。結果としてLTVの向上にもつながっていくでしょう。
「ルーデウス」株式会社において、パーパスに沿った商品とは<強い魔法使い>でしょうか。これは一例で、物語における立ち位置や役割によって商品内容は変わっていきますが、いずれにしてもパーパス<魔法と人柄で関わる人すべてと仲良くし、誰かにとって必要とされ続ける>に沿った商品内容になることは変わりないと思います。

以上、用語まとめでした。

ふざけたようなタイトルに詰まったブランドメッセージ

さて、本題の『無職転生~異世界行ったら本気出す~』の話に戻ります。

上記、「ブランディング」・「パーパスブランディング」の説明にて、メッセージングの必要性に軽く触れていますが、その点でも『無職転生』はカバーしています。

『無職転生~異世界行ったら本気出す~』

このいかにもな”なろう小説”らしいタイトルは、一見するとふざけたようにも見受けられ、コメディチックな作品なのかな、とも思われてしまうかもしれませんが、見事なブランドメッセージでもあります。

特に、「異世界行ったら本気出す」の部分。

これは、これまでのブランド(前世までの自分)を脱ぎ捨て、新しいブランド(今世の自分)の価値を創出していく決意を表す、力強いリブランディングを示すメッセージに他なりません。

『無職転生』のエピソードから見るブランディング事例

次に『無職転生』の各エピソードから具体的なブランディング事例を拾い、紹介していきたいと思います。

まず前提として、この項では、<ルーデウス>株式会社は自身のパーパス<魔法と人柄で関わる人すべてと仲良くし、誰かにとって必要とされ続ける>を達成するため、パーパスに沿って開発した<強い魔法使い>という商品を使い、各クライアントのブランディングに協力するPR会社的な位置づけだとお考え下さい。
紹介の仕方としては、企業の事例紹介ページのような感じでいきましょう。


スペルド族イメージアップキャンペーン

【クライアント】スペルド族 ルイジェルドさん
【目的】忌み嫌われ恐れられるスペルド族の汚名返上・イメージアップ
【ターゲット】スペルド族を恐れる世界中の人々
【内容】
転移事件によって、魔大陸に飛ばされたルーデウスとエリスを救った人物、それがスペルド族のルイジェルドです。
スペルド族は戦闘能力が高く、緑色の髪、額に赤い宝石が埋まっている姿が特徴です。過去の戦争で残虐の限りを尽くしたスペルド族は、世界中から恐れられており、子どもへのしつけの言葉として「悪い子はスペルド族に食われる(だったっけ?)」という言葉があるほど、悪名高い種族でもあります。はじめてルイジェルドと顔を合わせたとき、ルーデウスたちが勝手にビビってしまうほど、刷り込み教育が施されていました。
ただ、話をしていくと、噂されるほどの極悪人ではなく、優しくさえある。なんなら、ルーデウスたちを故郷に返そうとすらしてくれる。
そんなルイジェルドとルーデウスたちは行動をともにするようになります。しかし、町々でスペルド族の噂が飛び交い、軍が警戒している様子が見受けられるようになり、行動しづらくなっていきます。そこでルーデウスはスペルド族の汚名返上・イメージアップ作戦を思いつきます。
まずは率先して人助けを行うこと。そして、助けた人にルイジェルドのリアル頭身フィギュアを配り、「スペルド族が助けてくれた」と口コミを広げるようにお願いする、という作戦でした。
作戦が功を奏して、じわじわとスペルド族の汚名は晴らされていくこととなります。
「率先して人助け」というCSR的な活動もPR的ですが、何よりその後に「フィギュアを配る」という行為が非常にPR的です。
フィギュアが手元に存在することで、どんな人物なのか(詳細)、本当の出来事である(信用)ということを、関係した人たちが話のネタに出しやすい、いわゆる記事にしやすい・バズりやすい状況を作りだしています。一種のプレスリリースの役割を果たしてくれているんですね。なんともPR的ではありませんか!
そして、徐々に恐れられたスペルド族の汚名が晴らされる=地に落ちたブランド価値が回復していく、というわけです。


泥沼認知拡大PR

【クライアント】各冒険者たち
【目的】転移事件で行方不明になった母・ゼニスに自分の無事を伝えるために知名度を向上させる
【ターゲット】各冒険者たち、母・ゼニス
【内容】
転移事件はルーデウスとエリスをテレポートさせただけではなく、フィットア領一帯にいた人々をそこかしこに転移させていました。被害者の中にはルーデウスの家族も含まれています。
魔大陸から故郷へ帰る道中で父・パウロや妹たち、メイドのリーリャとの再会を果たしますが、母・ゼニスだけは見つかりません。
パウロはゼニスを探す旅を続けることを選択し、ルーデウスはまずはエリスを送り届けることを第一目標として旅を続ける選択をします。
故郷への帰還が叶い、さて母を探そうという段階で、ルーデウスは冒険者(モンスター退治などを行う職業)としての活動を本格化させていきます。
目的は自分の知名度を上げること。この世界のどこかにいる母の耳に届くくらい知名度を上げていけば、無事を知らせつつ、どこに自分がいるかを知らせることができる、と考えたためです。
ルーデウスは認知拡大のために、特定の冒険者チームに属することなく、フリーランスとして、様々な冒険者のサポートをしていきます。
様々なモンスター相手に得意魔法の「泥沼」を使用し、動きを拘束。その隙にチームメンバーが攻撃を仕掛ける。
この得意魔法から「泥沼のルーデウス」という二つ名がつき始め、冒険者間で話題になっていきます。
ルーデウスのパーパスに沿った「泥沼」という良質かつ汎用性の効く魔法(商品)の提供、わかりやすい二つ名(ネーミング)は非常にブランディング的な動きだと思います。
僕だったらその上に「行方不明の母に見つけてもらえるよう冒険者になった」というストーリーを、リリース(的な何か)を作成して発信するかもしれません。たとえ野暮だとしても。早くお母さんを見つけたいじゃない。


『無職転生』を見ることで理解できる、ブランディングにもっとも大事なこと

ブランディングとは、パーパスブランディングとは何か。
『無職転生~異世界行ったら本気出す~』を通して感じられるそれらの概念は、なんとなく伝えられたかなと思いますが、正直“なんとなく”でしかありません。
なぜなら、僕のつたない記事だけではもっとも大事なことが抜け落ちているからです。
それは「本気さ」です。

ファンタジー世界に転生した無職童貞34歳の引きこもりが、どれだけ本気でルーデウスになろうとしたのか。ルーデウスになったうえでどれだけ本気でパーパスを発揮・達成し、世界と自分を幸せにしようとしたのか。
その熱量とかける想いは、アニメや原作を見ていただかなければ、なかなか伝わらないと思います。

俺はこの世界で本気で生きていこう。
もう、二度と後悔はしないように。全力で。

『無職転生-異世界行ったら本気出す-』第一話「もしかして:異世界」より


その熱量とかける想い、本気さこそがブランディングにおいても、もっとも大切なことだと考えます。
その点が『無職転生~異世界行ったら本気出す~』とブランディングのもっともリンクした点だとも言えます。

やっぱり中身が空っぽの振舞いだけそれらしく見せればOK、というエセブランディングはクソくらえですからね。
心根から、本気出して自分を変えていこうとした主人公・ルーデウスだからこそ、行動に説得力が生まれた。同様にブランディングにおいても本気出して世界を変えていこうとしない限り、伝えようとしない限り、説得力も共感性も生めないと思うんですよ。僕は。

『無職転生~異世界行ったら本気出す~』から導き出した広報的結論


本気さが大事


前回は「愛が大事」、今回は「本気さが大事」とバカみたいな結論ばかりで申し訳ないです。
でも、仕方ない。
どんな戦略でも、どんなアイデアでも、どれだけ素晴らしいキャンペーンを立ち上げようとも、そんなのはテクニカルな話でしかないし、気持ちの乗ったものには勝てないと僕は思っている。
いや、勝てないと願っているのかも。
だって、テクニカルな部分だけで勝てちゃったら面白くないでしょ。

終わりゆくその前に

次回はなににするか、全然考えてません。
できればそれほど間隔開けずに記事をアップしたいんですけどね……。
また間隔があいちゃうかも。
え?本気出してやれよって?
……さあ、本気出して仕事しましょうか!


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