ヨシダジャック

作品集 「夜の発明・犬を預ける」(2021)、 「DOT」(2022)、 「PEPSI…

ヨシダジャック

作品集 「夜の発明・犬を預ける」(2021)、 「DOT」(2022)、 「PEPSI」(2023)、 「桃」(2024、予定)

マガジン

  • 春の短歌

    2024/1-3、短歌とマイクロノベルの予定です。

  • 冬の短歌(Advent Calendar 2023)

    Advent Calendarの形式で短歌とマイクロノベルを書いています。 12/1~12/25(終わり)

  • School Buildings

    通りがかりに見つけた学校です。 /少年を見つめるなかれ校庭で拾った恋を運ぶ途中の

  • Library of the Moon

    図書館の登場する小説と短歌について書いています。

  • What the Blackbird said(鳥の歌)

    鳥の歌について書いています。

最近の記事

図鑑

世界一美しい文字図鑑その文字はほんとうにいるのではないのです 妖精図鑑には歌が登場する。その歌をききつづけると頭がおかしくなることもあると書いてある。文字図鑑にも歌は登場する。この歌には歌詞は無いと書いてある。どちらも曲はあり楽音はある。あなたの本棚に図鑑は二冊しかない。しかし歌はあふれている。正確には、歌う本があふれるくらい何冊もある。この本棚にタイトルを付ければ「音楽、ときどき図鑑」になる。あなたはうれしそうに頷いてそして歌いだす。メロディアスに。リリカルに。リズムは無

    • 往還

      展示室をデルヴォーの汽車過ぎゆきてまどろみぬ監視係の椅子 あなたはまだ汽車に慣れていなかったので、駅までは自転車で行き、そこから自転車に乗って海まで行き、途中で雪か花かわからないものが降りだし、海を通り抜けて対岸に出て、いくつかの峰を越えて道を急ぎ、また自転車で帰ってくることにした。平均時速は18㎞。往還。

      • 褒美

        きみはいい子になった褒美としてきみになったのか おとうとの椅子 友人がくれた「山椒」。缶入り。土産である。すべて種類の違うクマのぬいぐるみ五匹、箱入り。贈り物である。本が届いたプチプチの袋に入って。自分で買ったものだ。どれも褒美ではない。いったいここにあるもののどれが褒美でどれが非褒美(仮)なのか。分別が必要だとあなたは言った。静物画とはただ静かで動かないものというだけではなく死んでいるものというような意味が含まれているらしいとしたら。褒美には。きっと生きているものが含まれ

        • 帰還

          はてしない物語から帰還したあなたの顔一面の寝ぐせ わけもなく歩きつづける。国境を越えた気分になったら帰る。蓮の地下茎を通り、リーデンブロック教授とすれ違い、コロンビア一周自転車競走を横目に、わたしはヨシダという苗字で名前はジャック、入浴する裸婦と子犬の絵を鑑賞し、別れぎわに貰ったマリーゴールドを抱え、きみはいい子になった褒美としてきみになったのか、追越し禁止と一方通行の表示板が出たままの農道を。

        マガジン

        • 春の短歌
          85本
        • 冬の短歌(Advent Calendar 2023)
          25本
        • School Buildings
          6本
        • Library of the Moon
          10本
        • What the Blackbird said(鳥の歌)
          7本
        • 世紀末美術館
          7本

        記事

          重力

          いまきみが感じてるのは原さんの手でつくられたにせの重力 重力が希望しているものを与えてほしい。あなたはそう言ってぼくに重力を預ける。ぼくは重力を預かる。二重の意味で大変だ。二重に鍵がかかる箱に閉じ込められた気分になる。 完遂には恐怖と憐憫が重要だが、完遂と恐怖と憐憫と重要が重々しすぎる。シャガールの絵を見ればわかる。重さを失いふわふわとした人間は幸せそうではないか。あなたは、重力は、重ねてありがとうございますと言う。

          水槽

          水槽をぼくを見ているきみの眼にゆれるジンベエザメの水玉 烏賊は鳥ではない。文字は言葉ではない。ぼくは漢字ではない。否定語を並べるのは簡単ではない。それを千語続けるとすれば。あなたが告白したのはそういうことではないのか。否定疑問文。

          路地

          路地裏に集え誕生日の子どもたち冷たい息で夜を払えよ 路地の物語である。誰の路地か、どこからが路地か、いつ見た路地か、ふと迷い込んだ場所も路地か、土塀を見たのも、青い花を見つけたのも路地なのかどうか、そんなことを考えるまもなく通り過ぎてしまうほど、短い物語なのでありました。

          斉唱

          花とともに佐藤兄弟到来し短い春のうた斉唱す 「ソーソー、ホーホー」は、鳥族を代表する音楽である。鳥族の歌、これだけでは半分しか説明できていない。鳥族が集まると早速この歌が始まる。つまりこれでは、鳥族にとって音楽が重要な役割を持つという意味が十分には示せていないのである。イベントの際には、応援曲としても歌われる。そもそも一部の地方では、歌うだけではなく、楽器が用いられる。♪ソーソーソー、ホーホーホー♪というコーラスの部分は、知っている人が多いかもしれない。ならば、歌と楽器はい

          電源

          電源をOFFにしてから気がついた機械のなかのやわらかい場所  聖夜のレストラン。客は入っているが、意外に静かである。みんな、パンケーキだとかワッフルだとかを食べている。いったいベジタリアンやヴィーガンは何処へ行ったのかと思わなくもない。おりしも外は雪。では雪食いはどこにいったのか。  帰宅すると、飼育ケージのなかでウサギが餌を催促する。今は茶色なのに、冬になると真っ白になるウサギ。きみは、こっそり雪を食べているのか?  入りなさいよと彼女は言った。初めてだった。この辺のこど

          五線紙

          五線紙に撒き散らしたる月の骨ほろろと夏の雪降らしめよ 急いで、と彼女は言った。急がされるとセーターから頭がうまく出ない。セーターを被ったまま抜け出せないでいると、再び急いでという声。青かった。セーターの中は青い薄闇だった。青い薄闇のなかで彼女の声を聞きつづけた。

          遠くへ行きたい

          バスクラリネット鳴らせ、鳴らせ、わたしはここにいてあなたは遠くにいるのだから 遠くへ行きたい。最初に主語を補う。一人称だと抒情歌、二人称なら相聞歌。消去法で三人称とする。彼、彼女では実態が無い。四月、桜では安易な擬人化だ。とすれば主語には、無意味な言葉を選ばなければならない。しかし、無意味な言葉に心当たりがない。わたしは主語を失ったのかもしれない。

          遠くへ行きたい

          虫愛ずる⑥

          三兄は失望する弟と茨のせいで蝶を逃せり 遠くを見ると、緑の袖がひらひらと揺れている。誰だとか、顔だとか、なにもわからない。揺れている緑の袖だけが見える。捕虫網を持って走り出したこどもが緑の袖に近ずいていく。やがて全身が緑色になって戻ってくる。触角も翅もない。

          もし月へ行くなら月でありったけの月の話をあつめてほしい 月には魅力的な話が数多く残っているらしい。なにせ約45億年の歴史があるんだもの。誕生譚。光で男をだました話。自分をポケットに入れて歩いた話。ブリキの玩具になってギシギシ歩く話。ともかく一つくらいは、いやぜひとも百話くらいは掘り起こしてほしいものだ。私家版の月百姿を作るためにも。

          看板

          今宵、空虚への飛翔を試みるペットショップの屋上の犬 雨の日、ビルの入口の階段の前に立つ少女、赤いヤッケ、歩道の青い自転車、ヘンゼルとグレーテル展の看板、看板の中の黒猫・・・、材料が揃いすぎで描く気がしない。そう言ってあなたは持っていた缶の白いペンキを一気に、あるいはヨーグルトを飲み干してしまう。一気に。

          北齋忌自転車でゆく橋めぐり 亀戸天神太鼓橋の宙吊り 私は川について歌った。骨を咥えた顔を映し、西瓜を冷やし、お婆さんが洗濯する川を。私が歌い終えると、川は、自分で歌いだした。同じように川について歌った。川の歌の方が私のよりも美しく力強かったが、すべてがまったく違う響きだった。すべてが一人称の歌だった。

          夕方

          ひぐらしは、ゆう、ゆうまぐれ、ゆうさりを琥珀に埋め込むように鳴き 朔太郎 の自転車日記の面白さったらない。清志郎のサイクリングブルースはいつも唄ってる。松本俊介が描いた自転車は美しかった。自転車のことを考えているうちに夕方になった。そのあいだに短歌が一首できたのはよかった。