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創造性を発揮するために必要なこと――「IDEO流 創造性を取り戻す4つの方法」

ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『デザイン思考の教科書』に掲載されている論文を読みながら、デザイン思考とはいかなるものかについて考えていく連載企画第2弾です。10本の論文が掲載されているので第10弾まで続く予定です(無事2弾目!)。よろしくお願いします。

今日の論文

今日みていく論文は以下のものです。

トム・ケリー/デイビット・ケリー、2012、「IDEO流 創造性を取り戻す4つの方法」ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編『デザイン思考の教科書』ダイヤモンド社、P. 31-44。

トム・ケリー/デイビット・ケリー「IDEO流 創造性を取り戻す4つの方法」

本論文ではデザイン思考において重要な要素である創造性について押さえられればと思います。

4つの恐れが創造性を阻む

冒頭で、創造性は誰しもが持っているにもかかわらず、成長とともに仕舞い込まれてしまっていると指摘し、そのために筆者らがすることは「創造性を教えること」ではないのだ、と述べています。

筆者らはこれまでに、創造性を教えることが仕事ではないことを学んできた。それよりも、創造性への自信を「再発見」するための支援が求められている。新しいアイデアを生み出す生得の能力と、それを試す勇気を引き出すのだ。(太字は引用者による。以下同じ。)

『デザイン思考の教科書』、P. 32-33

仕舞い込まれてしまった創造性を再び使えるようにするためには4つの恐れを克服する必要があるとして、その戦略を教えてくれるのがこの論考です。4つの恐れとは以下の通りです。

  • やっかいな未知なるものへの恐れ

  • 評価されることへの恐れ

  • 第一歩を踏み出すことへの恐れ

  • 制御できなくなることへの恐れ

(わー思い当たる節がたくさんあるー)という感じです。4つ目だけ最初ピンと来ませんでしたが、解説を読んでみると(なるほどな)という感じになりました(私が恐れていないことでした)。

この4つの恐れを克服するための全体的な指針として、次のように述べられています。

課題を小さな段階に分け、一つずつ成し遂げることで自信をつけていくのだ。創造性は天賦の才能だけでなく、修練するものである。このプロセスは、最初は少し抵抗を感じるかもしれないが、ヘビ恐怖症の人が学んだように、不快さはすぐに消え、新たな自信と能力に置き換えられる。

『デザイン思考の教科書』、P. 33-34

私が惹かれたところは「創造性は天賦の才能だけでなく、修練するものである」という文です。なぜなら、私自身がこの論考で指摘されているように自分自身を「創造的ではない者」だと「諦めてしま」っていたからです。天賦てんぷの才能による部分が少なかったとしても、修練で補うこともできるというのは励みになります。それが多少であったとしても!

さきほどの引用に出てくる「ヘビ恐怖症」については、文章を引用するより次の動画を観ていただく方がいいと思います。お時間ある方はぜひご覧ください。10分程度のTEDの動画です。(決して入力するのが面倒なわけではありません!)

この動画でも登場する「案内付きの習得」(アルバート・バンデューラ、心理学者・スタンフォード大学)ですが、読んで字のごとく、本当に案内する人が付いている、つまりそれについて詳しい人がそばにいてくれると、自分では恐れを抱いているところにも気軽に行けるような気がします。

たとえば私の場合だと、おしゃれな洋服屋さんにはどうしても一人では入れませんが(入ったとしてもすぐに撤退しますが)、おしゃれな友人となら入ることができます。

創造性についても同じことが言える、というのが本論考の主旨です。以降は4つの恐れを克服する方法について述べられています。

やっかいな未知なるものへの恐れ

1つ目は「『やっかいな所』に飛び込む」ことについてです。

ビジネスにおける創造的思考は、顧客(社内外を問わない)への共感とともに始まる。机に座っていては得ることはできない。たしかに、オフィスの中は快適である。すべて安心感のある慣れ親しんだものばかりだ。ありきたりの情報源から情報を集め、矛盾するデータは除去され無視される。

『デザイン思考の教科書』、P. 34

外の世界はもっと混沌としている。予期せぬ発見や不確実性、聞きたくないことを言ってくる腹立たしい人々に対処しなければならない。しかし、そのような場所でこそ、インサイトや創造的なブレークスルーが見つかる

『デザイン思考の教科書』、P. 34

慣れ親しんだところから出ることによってこそ、見つかるものがある。これは以前の記事で書いた「イノベーティブな発想を引き寄せるには既知と未知とのギャップが必要になる」ということをいっているのでしょう。

しかしケリー氏! その飛び込むことこそが難しいんですよ! と思うのは私だけではないはずです。ここはやはり、まずは慣れ親しんだところから出ることによってこそ、インサイトやブレイクスルーを見つけることができることを理解して、そのうえで実際にそうした活動をしている人を見つけて一緒に出掛けてもらうようにするのがいいのだろうと思います。3つ目の克服法もこことつながりそうです。

評価されることへの恐れ

2つ目は私にとって一番大きな恐れでした。

上司や同僚に失敗する姿を見られまいと、自分を曲げて創造性を秘めたアイデアを押し殺す。「安全な」解決法や提案にしがみ付く。そして後ろに下がって、他の人がリスクを取るのを眺めている。しかし常に自分を検閲しているようでは、創造的になれるはずがない。戦いの半分は、自分を評価しないようにすることだ。直観に従ってアイデア(良いものも悪いものも)をもっと受け入れるようになれば、恐れの一部はすでに克服されている。

『デザイン思考の教科書』、P. 37

最近よく聞くようになった「心理的安全性」も大事な要素になるだろうなぁ、と思いながら読んでいましたが、ここでは一人でできることを挙げてくれています。

  • 思い付いた考えを消えていくままにせず、メモ帳に書くなどして体系的につかまえる

  • (そのために)浴室にホワイトボードとペンを設置する

  • 毎日の予定表に思考や散歩、空想のための「空白の時間」をつくる

  • アイデアを生み出そうとする時は、10個ではなく100個挙げてみよう

  • 評価は後回しにすれば、週末にはどれだけ多くのアイデアを持っているか、気に入るアイデアがあるかに驚くことだろう

たしかに、心理的安全性があったとしても、自分が自分を「検閲」していたのでは意味がないのです。まずは自分を評価せずにアイデアを生み出す修練が必要になるわけです。

もちろん、フィードバックの方法についてもヒントを提示してくれています。

  • フィードバックする場合も、月並みな言葉は使わないようにし、協働者にも同じことを勧めるとよい

  • dスクールのフィードバックでは、通常、「よい点は」から始め、「~だとよい」へと移行する

ここで事例として紹介されているニュージーランド航空の「スカイコーチ」がおもしろかったのでサイトを貼っておきます。ブレインストーミングによって、国際線のエコノミークラスに(占有スペースを拡張せずに)フラットシートを導入する方法が誕生したというものです。サイトをみてみると(そうきたか!)と膝を打ってしまうと思います。

第一歩を踏み出すことへの恐れ

3つ目は「踏み出すことへの恐れ」ということで、1つ目の「『やっかいな所』に飛び込む」ことへの具体的な進め方と言えそうです。

創造的なアイデアを活用したいと思っても、それを実践するには独特の難しさがある。創造的な仕事は初めが最も難しい

『デザイン思考の教科書』、P. 39

この惰性を克服するには、よいアイデアがあるだけでは十分ではない。計画を立てるのはやめて、ただちに始める必要がある。最善の方法は、大きな課題全体に照準を合わせるのでなく、すぐに取り組める小さな断片を見つけることだ。

『デザイン思考の教科書』、P. 39

ここでいう「小さな断片」のことを先ほどの動画の中では「baby steps」と表現していたのだと思いますが、いずれにしても、(これならできる!)と思えるくらいに小さく分解することが克服の第一歩ということなのでしょう。

そして、そのための問いを教えてくれます。

ビジネスの文脈では、次のような問いかけで最初の一歩を踏み出せばよい。低コストの実験はどんなものか。より大きな目標に近づく最短かつ最も安価な方法はどれだろうか。

『デザイン思考の教科書』、P. 39

筆者らの合い言葉は「準備などはやめて、始めよう!」だ。ごく小さな一歩にして、ただちに始めるようみずからに強いる。そうすれば、最初の一歩ははるかに恐ろしいものではなくなる。先伸ばしにして不安が膨らむのを待たずに、ただヘビに一インチ近づくことを始めよう。

『デザイン思考の教科書』、P. 40

準備を始めると「あれもいる」「これもいる」とどんどんコトが大きくなっていきます。大きくなると今度は(ほんとにこれで大丈夫なのだろうか)と不安になってさらに「あれもいる」「それもいる」とどんどん膨らんでいきます。これらを「すぐできることはなにか?」という問いによって封印して、はじめの一歩を踏み出すことが大事なのです。

制御できなくなることへの恐れ

4つ目の「制御」というのは、自分で自分の事業をコントロールできなくなることを指しているようです。

自信とは、単純に自分のアイデアがよいものだと信じることではない。うまくいかないアイデアは捨て去り、他者のよいアイデアを受け入れる謙虚さを持つということだ。現状維持を捨て去り、協力して取り組めば、自分の製品やチーム、事業のコントロールを断念することになる。しかし、それによって創造的な面で得るものは大きい。

『デザイン思考の教科書』、P. 40-41

自信とは謙虚さを持つということ。なかなかに重い響きです。

アイデアは常に内部よりも外部にあることを筆者らは学んできた。

『デザイン思考の教科書』、P. 42

事業を成功に導くことが目標であるならば、自分のアイデアにしがみ付き続ける必要がないのは明らかといえば明らかです。その恐れを克服するために謙虚さが必要ということなのでしょう。

と、書いてみて、(たしかに!)となりました。私の上司に伝えなくちゃ!

号砲

スタートラインで待っていてはいけない。恐れを振り払い、創造性について自信を持つための訓練を今日から始めよう。

『デザイン思考の教科書』、P. 42

今日からできる1歩を探して、一緒に修練を始めましょう。


#DIAMONDハーバードビジネスレビュー

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