【随想】芥川龍之介『西方の人』②
誰よりも母を愛する者は、同時に誰よりも母を憎んでいる。母が魂の中から消えない限り、この世界の真理には決して辿り着けないからである。母は世界の根源にして、世界を覆う暗幕である。あらゆる人は自由を希求する。それなのに、大抵は目の前にした自由に恐怖を感じ、自ら足枷を嵌めてしまう。それは愛や憎悪や夢や希望という形をとる。凡夫はどこまでもいっても本当の意味で孤独にはなれない。愛や夢ばかり見て、自分自身から目を背け続けて生きる。彼らに意志は無い。ただひたすらに時を消費し、いつか誰かに裁