Junigatsu Yota

十二月葉太は八日目の世界を創造しています;詩、エッセイ、読書感想文等

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【随想】芥川龍之介『続西方の人』

エンドロールを逆再生して興醒めした 人生の終わり方を知りながら生きるのは辛い いつか必ず来るその時、 自ら命を絶つことで予言を完成させよう だからそれまでは生きてみよう

    • 【随想】芥川龍之介『西方の人』②

       誰よりも母を愛する者は、同時に誰よりも母を憎んでいる。母が魂の中から消えない限り、この世界の真理には決して辿り着けないからである。母は世界の根源にして、世界を覆う暗幕である。あらゆる人は自由を希求する。それなのに、大抵は目の前にした自由に恐怖を感じ、自ら足枷を嵌めてしまう。それは愛や憎悪や夢や希望という形をとる。凡夫はどこまでもいっても本当の意味で孤独にはなれない。愛や夢ばかり見て、自分自身から目を背け続けて生きる。彼らに意志は無い。ただひたすらに時を消費し、いつか誰かに裁

      • 【詩】城へ

        雲と憂鬱に割り込む陽光 記憶に満ちた心の濁りを露にして 清純な観念はあり得ないと悟る 対流は常に腐敗しそうな 希望を魅力的な北極星に変えて 顔を上げると 切り立った屋根を 無意味な不安が滑り落ちていく 城が見える その足跡はとうに消えている 古代のマーモットを追いかける 城に近付く 無数の水溜まりに見知った星が宿る夜 宇宙は地上に圧縮されて 永遠の繰り返しが切り取られ 一瞬間が形になる 城に着く 東の扉を開けて 蒼い夢に飛び込んでみると 無数の私と見知らぬ人がい

        • 【随想】芥川龍之介『西方の人』①

           潜在意識の顕現たる原初の言葉から構成される世界、そんな常人には見ることさえ叶わぬ世界を、多数の人間の認識が重なる共有フィールドに於いて言葉で示してみせる事が出来る、そんな超天才が、過去人類に数人存在した。イエスもその一人である。彼の説く「愛」とは、世界の真実の形を凡人にも分かるように加工した言葉であり、その本質は人間同士の親近感情や信頼関係のような慎ましいものではなく、もっと大きな宇宙全体を貫く根本原理のようなものである。全てを知ってしまった彼は、その究極理を己の裡にしまい

        【随想】芥川龍之介『続西方の人』

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        • 【随想】芥川龍之介
          68本
        • 【随想】宮沢賢治
          53本
        • 【随想】太宰治
          143本

        記事

          【随想】芥川龍之介『侏儒の言葉(遺稿)』

          ありふれた惑星にありふれた歴史を繰り返す 瞬きより短い現象が発生と消滅を繰り返す 環境と反応が偶然と必然を交えて無意味に構築される ここに意志などない まして人格なんてある筈もない 創造は時間を形成する道具でしかない 我々がそうあるために我々はそう認識しているし 我々がそう認識するために我々はそうあるだけだ 偶然を神と呼ぶなら必然もまた神格化される ここには誰もいない 何も証明できない 何一つ確かなものはない 唯言葉があるだけだ 言葉が創造する理屈に依拠せざるを得ない我々は

          【随想】芥川龍之介『侏儒の言葉(遺稿)』

          【詩】大地の支持力

          大地の支持力に甘えていないか 大地の支持力は無限じゃない どんなに暴れ狂い荒れ吠え叫んでも 大地は穏やかに受け止めてくれると 単純に信じていないか 復讐はすぐそこに始まるかも知れない 沈黙は寛容の証明ではない 大地はあなたを愛し抱擁などしない まして蛮行に許可など与えない ただ捨て置くだけだ どうなろうが構わないと 大地は母ではない 大地は父でもない 私への情愛など微塵もない 大地を過信するな 大地は強靭と油断するな 何をしようと 大地が支持してくれると期待するな 大地

          【詩】大地の支持力

          【随想】芥川龍之介『侏儒の言葉』②

           孤独が最高の自由であることに疑いの余地は無い。しかし、人は自由を求め、自由に憧れながら、孤独を忌み、孤独を恐れる。答えを知っていながら、答えることを躊躇している。愚かだ。宇宙で一等愚かだ。  恥をかくことが辛いのなら、唯黙って世界があなたに対する興味を失うのを待てばいい。なのに人は足掻く。名誉を取り戻す為か、沈黙に耐えられないのか、足掻いて足掻いて更に恥を上塗りして、忘れて、又恥をかいて、ひたすらに繰り返す。宇宙で一等愚かだ。  無意味と知りつつ、無価値と知りつつ、なぜ

          【随想】芥川龍之介『侏儒の言葉』②

          【随想】芥川龍之介『侏儒の言葉』①

           死は救いとなるか。自殺は一つの手段である。何の為の。勿論、救われる為である。何から救われるのか。勿論、苦しみからである。生きることは、苦しい。生まれ落ちた瞬間から、世界は地獄に変わる。僅かな喜びの水溜まりに顔を浸し燃え盛る業火から目を背ける者たちを尻目に、顔を上げて目を正面に据えて地獄を歩む者がいる。それは苦しむ者である。苦しみから逃れることが出来ない者、苦しみから逃れることを許せない者である。馬鹿だ、馬鹿だ、わざわざ、苦しんで、馬鹿だ。その通り。だが生来の生真面目さによっ

          【随想】芥川龍之介『侏儒の言葉』①

          【詩】疑問

          世界は十分に時を経たのか 未だ不十分なのか 世界はまだ変わらなければならないのか 僕らはまだ変わらなければならないのか いつかは永遠が訪れるのか いつかは無限になるのか この現象の果ては何だ その生命の目的は何だ 観測を止めたらどうなる 認識を諦めたらどうなる エネルギーは存在を希求する意志か 解放された超人は破壊の後に現れるのか 夜の山荘に独り風の音を聞く 吹き荒れる大気が僕の望んだ夢ではないと 決められるのは僕しかいないのか

          【詩】疑問

          【随想】芥川龍之介『歯車』②

          ウロボロスは自分の尾を喰った 犭貪は自分を全部喰った サトゥルヌスは我が子さえ喰った 我が身可愛さに 我が身可愛さに、喰った 喰ってはいけないものを、喰った 阿呆だ阿呆だ 阿呆がいたんだ 誰にも憎まれていないのに 誰もを憎んでいた 傷など負っていないのに 傷だらけのふりをした 阿呆だ阿呆だ 阿呆がいたんだ 死ななくていいのに 死ななきゃいけないと思った 狂わなくていいのに 狂わなきゃいけないと思った この阿呆め この阿呆め こんな阿呆が 阿呆がいたんだ

          【随想】芥川龍之介『歯車』②

          【随想】芥川龍之介『歯車』①

           自身の精神が崩壊する過程を冷静に観察している自分を更に観察している自分も居て、そこに恐怖や不安は無くて、それはそうなるべくしてなるんだと、寧ろ安堵に近い納得と満足を得ている自分が居る。だが、自分というものを意識する時、自分を他者として扱う何者かが居る筈だ。その何者かに、遂に出会ったことは無い。なぜなら、出会う為には、二人が出会っている光景を観察する新たな何者かが必要になるからで、まるで合わせ鏡のように観察者と観察対象が無限に増殖していくことになる。そんな無限には耐えられない

          【随想】芥川龍之介『歯車』①

          【詩】燦燦の海

          バラストを積んだ樽型の心に 歴史が纏わりついて膨れ上がった 今や達磨人形は屹立できない 純粋には戻れない 胡散臭いマンションから顔を出した This man どうしても目が合わない リリースされた恐怖は何処へ行く 爛漫には戻れない 街のトランジスタは烏のフリをしている ぬるぬる黄色い油が漏れて 不快と爽快が纏わりついた旋毛風が くるくる世界を回している カルーセルは静止する もう少し南へ行けば もう少し明るくなるだろう 賑やかな街にだって きっと出会うだろう そこにある

          【詩】燦燦の海

          【随想】芥川龍之介『或阿呆の一生』③

           膿んだ日常に取り残されるように旅路に就いた。狭い海峡に架かる巨大な吊り橋を渡り、そこは大きな島だったが、大陸と呼んでもよいだろう。彷徨する詩人は、どう呼ばれるかを気にする甲斐性も無い。顔の左半分が妙に明るい。きっと海に面しているからだろう。顔の右半分はしっとりとして、どこか霊的だ。初めて訪れた土地を、何もかも知っていた。どうしても、懐かしい。  商売気の無い住宅街、数少ない信号機の周囲は少しだけ金の匂いがしている。少しだけ、今に媚びているが、疲れたような、諦めたような匂いだ

          【随想】芥川龍之介『或阿呆の一生』③

          【随想】芥川龍之介『或阿呆の一生』②

           死ぬときは一人で死ぬ? いや一人では死ねないね。道連れにするんじゃないぜ。ただ、死ぬときはみんな死ぬのさ。或一人が死ぬとき、そいつとみんなが死ぬ。君は生きている。そりゃそうさ、君が誰かを知っていたって、君が誰かに知られていたって、君は君でしかないし、君は君以外の誰とも何の関係も無い。知っている、知られているなんて、何の関係も無い。愛しているとか、触れ合っているとか、憎み合っているとか、殺したくなる程触れ合っているとか、そんなの全部関係無い。君が死ぬとき、みんな死ぬ。君はまだ

          【随想】芥川龍之介『或阿呆の一生』②

          【詩】自由の配置

          そんな場所は望んじゃいない そこに配置されちゃ困るんだ もっと広い場所に もっと深い場所に 水鳥の羽みたいに 不確かなまま優しく 配置してほしいんだ 僕の自由を だけど僕は生まれてこの方 風に引きずられる日々 埃っぽくて 海を見る度苦しくなって 鯨になりたかった 翼に憧れた 大空を舞う鷲にだって なりたかった でも いいんだ 少年の夢は もういいんだ 今はとにかく 宇宙に近く配置してくれ 深海よりはるかに深い闇に 誰も知らない自由があるんだ ある筈なんだ! 矛盾だらけの公

          【詩】自由の配置

          【随想】芥川龍之介『或阿呆の一生』①

           なに、簡単なことなんだ。要するに、生きている実感が欲しいのさ。しかしこれが中々どうして、手に入らない。いつだって、いつまでも、ぼんやりとした生活感の中にいる。自分は何者か、生命とは何なのか、嫌でも考えさせられるよ。どれだけ考えたところで、答えなど出るわけがないのにね。意識的に意識の手綱を掴んでいないと駄目なんだ。油断すると自分がどこかへ飛んで行きそうなんだよ。いや、自分なんてあるのだろうか。のっぺらぼうの仮面の下は、やっぱりのっぺらぼうなんじゃないか。不安で仕方ないよ。自分

          【随想】芥川龍之介『或阿呆の一生』①