Junigatsu Yota

十二月葉太は八日目の世界を創造しています;詩、エッセイ、読書感想文等

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最近の記事

【詩】後悔している

願いがある 真っ青な霧に包まれた朝は 人類最後の畑に希望の種を蒔き 夢よ、再び生えてくれ 郷愁煙る畦道の下 地底の王が云うことには 「天を覗くは最大の罪なり、 目を塞ぎ耳を拡げて大地に伏すべし」 ああ、分かった分かった 俺は暇な貝殻に引き籠もり 最新の聖書でも読むとしよう 透明なシルエットをなぞるより 人生詰め込んだ背嚢を担ぎ、 踏みしめているこの世界が、 ここにあると信じてみようじゃないか 黒い欺瞞の雪だるまに口紅をさし 逆剥けた皮膚の欠片をデコピンする 肺に染み込む

    • 【随想】葛西善蔵『悪魔』

       疑う者は、苦しむ。  疑う者は、不幸だ。  疑う者は、壁に気付く。  疑う者は、壁の向こうに思いを馳せる。  疑う者は、壁を破壊しようとする。  疑う者は、無力を思い知る。  そして疑う者は、死にたくなる。  悪魔は、疑いの種を蒔く。  それだけでいい。  それだけで、人は自ら堕ちていく。

      • 【詩】本当の夜

        本当の夜、 少女はこっそり家を抜け出して 呆れた丘に登ります 深呼吸して街を見下ろすと あちらこちらがキラキラ光っています 光は見ようとすると見えません 見てないように見ると見えるのです 今夜の目標は三個 あそことあそことあそこ 少女は頭の中を真空にして 記憶の街へ降りていきます 一個目はキャベツ畠に生まれたピンクキャベツ、 二個目はクラスで飼っているメダカの目玉、 三個目は八叉路の真中に落ちた片手袋、 今夜少女は全ての少女を見つけました 少女は宇宙になって夢を見ます 少

        • 【随想】葛西善蔵『哀しき父』

           どこまで行っても、いつまで経っても、何を得ようと、何を失くそうと、彼は彼のままである。仕事も、家庭も、彼という現象のほんの僅かな脚色に過ぎない。彼を動かすものは彼の意志などではなく、彼の肉体であり、過去であり、五官であり、即ち、彼を彼たらしめる外形的条件である。人に自由な意志などない、当然彼にもない。彼という物体を定義する幾つかの条件の下、水が蒸発するように、春に南風が吹くように、影が光を示すように、彼はそうなるべくしてなり、そうするべくしてするだけのことなのである。これは

        【詩】後悔している

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        • 【随想】葛西善蔵
          2本
        • 【随想】芥川龍之介
          68本
        • 【随想】宮沢賢治
          53本
        • 【随想】太宰治
          143本

        記事

          【詩】swimmer

          かつて見た景色を 初めて見る景色に重ねる 喜びが半分になり 不安も半分になった 僕は知っている(なにを?) 知った瞬間から知っている(なにを?) 青空の奥、 真空の暗闇を想像したとき 宇宙はそこになければならない たとえば僕が無知ならば 僕は銀河を泳げない 僕が宇宙に連れていく(君を) そんな約束でさえ固定される(君に) 思考は時空を食べる 赤いバイクで届いた時空を 尻尾の先まで食べる お湯みたいな大気に浸かり 僕はだらしなくのぼせているのに 君は塩辛い海を 優雅に泳いでい

          【詩】swimmer

          【詩】青溜まり

          あの青い色がだんだん溶けて 落ちて 町の真ん中に青溜まりができました 熱くもなく冷たくもなく ただ馬鹿みたいに巨大でまるで底が見えません とてつもなく深い それだけはわかります 果てしないのです ある日男の子が青溜まりに顔を突っ込み 中に何があるのか覗いて見ました 近くでそれを見ていた女の子は 男の子が顔を上げないので心配になり おういと声を掛けました すると空の上から こっちにおいでと声がしました 女の子は驚き空を見上げました 空はいつものように真っ黒なまま 静かに何処かを

          【詩】青溜まり

          【詩】黄金の道

          黄金の道は何処へ続く きっと最高の死に 約束の地に繋がっている 信じている 拡がり続ける世界があると 世界に放たれた瞬間 君たちはそこに向かって突き進む 誰もが辿り着くのに誰も知らない場所…… 何を持っていくつもりだ 何も持っていけやしないぞ 君たちの小さな手には 小さな魂だけがある 美しい魂で闇を照らし 汚れた魂は油を絞れ 激しく燃える血の輝き 永遠の光に導かれ 君たちは黄金の道を進め

          【詩】黄金の道

          【詩】夏の日にいた

          夾竹桃の陰 疲弊した四十雀は呆然と 細胞が落ち着くのを待っていた 四角く切り立ったビル 潜む影も無いぼくは 暑熱馴化を待っていた 二人の時空間の結実 爪も牙も鈍いままで みんな死を待っていた 夏になると 夕日が沈まぬように 祈っていた

          【詩】夏の日にいた

          【詩】山頂にて

          霊が消滅し 魂の行く先は 青を切り拓け 空心の剣よ 切っ先に立つ 展開していく よしやうらぶれて 山頂に思う 俺はどこまでも 俺はいつまでも 独りだった あの日々が幻ならば この夢を夢にしていいか 俺は山頂にて 独りかもねむ

          【詩】山頂にて

          【詩】can't believe

          沢山の花の香が混じり合った 手に持てそうな濃厚な匂いが漂い あらゆる波長の光が独立しながら 一瞬に永遠に輝いている 大気より透明な玉石の砂利道を 踏みしめる度、魂が濡れる程心地好い音が響く 至高の石はどんな形にもどんな硬さにもなり どんなものにでもなる たとえば石を食べると 軟らかく甘く瑞々しい たとえば石で体を洗うと 滑らかで繊細な刺激に包まれる 傍には皮肉な微笑を浮かべたまま 信じぬ者を哀れんでいる人がいる そんな光景を前にしてさえ ここが天国だという保証はない 通り過ぎ

          【詩】can't believe

          【詩】Free Fall

          落ちていこう 翠の奥 蒼の中 火仮の先へ 夢とか理想とか全部忘れよう 投げ渡された世界を手放して 肉も骨も置いて落ちていこう 皮膚は土で血は河で この意識だって着飾り ああ 何もかも脱ぎ捨てて 定まらない“私”のような何かになって 果ての果てへ落ちていこう 何かは雨になるし 何かは風になるし 重力は弾けるし 時空は鞣されるから “私”のような何かも 揺ら揺らと落ちていこう

          【詩】Free Fall

          【詩】曖昧なまま

          硝子玉の向こうで散乱する光 伸ばした掌が曖昧で不安になる 分子に触れる指 僕の魂と繋がっている確信は無い 何一つ確かめる術は無く 幼児の夢より儚い僕なのに なぜここにいられるんだ なぜ笑っていられるんだ 例えばこの足元が崩れて落ちる そんな蓋然性に脅えているのに 僕は何の迷いもなく足を踏み出す 思考が歴史の再現ならば 僕の宇宙は何度僕に回帰しただろう 相も変わらず曖昧なまま 尻尾の先に夢と不安が触れる

          【詩】曖昧なまま

          【随想】芥川龍之介『続西方の人』

          エンドロールを逆再生して興醒めした 人生の終わり方を知りながら生きるのは辛い いつか必ず来るその時、 自ら命を絶つことで予言を完成させよう だからそれまでは生きてみよう

          【随想】芥川龍之介『続西方の人』

          【随想】芥川龍之介『西方の人』②

           誰よりも母を愛する者は、同時に誰よりも母を憎んでいる。母が魂の中から消えない限り、この世界の真理には決して辿り着けないからである。母は世界の根源にして、世界を覆う暗幕である。あらゆる人は自由を希求する。それなのに、大抵は目の前にした自由に恐怖を感じ、自ら足枷を嵌めてしまう。それは愛や憎悪や夢や希望という形をとる。凡夫はどこまでもいっても本当の意味で孤独にはなれない。愛や夢ばかり見て、自分自身から目を背け続けて生きる。彼らに意志は無い。ただひたすらに時を消費し、いつか誰かに裁

          【随想】芥川龍之介『西方の人』②

          【詩】城へ

          雲と憂鬱に割り込む陽光 記憶に満ちた心の濁りを露にして 清純な観念はあり得ないと悟る 対流は常に腐敗しそうな 希望を魅力的な北極星に変えて 顔を上げると 切り立った屋根を 無意味な不安が滑り落ちていく 城が見える その足跡はとうに消えている 古代のマーモットを追いかける 城に近付く 無数の水溜まりに見知った星が宿る夜 宇宙は地上に圧縮されて 永遠の繰り返しが切り取られ 一瞬間が形になる 城に着く 東の扉を開けて 蒼い夢に飛び込んでみると 無数の私と見知らぬ人がい

          【随想】芥川龍之介『西方の人』①

           潜在意識の顕現たる原初の言葉から構成される世界、そんな常人には見ることさえ叶わぬ世界を、多数の人間の認識が重なる共有フィールドに於いて言葉で示してみせる事が出来る、そんな超天才が、過去人類に数人存在した。イエスもその一人である。彼の説く「愛」とは、世界の真実の形を凡人にも分かるように加工した言葉であり、その本質は人間同士の親近感情や信頼関係のような慎ましいものではなく、もっと大きな宇宙全体を貫く根本原理のようなものである。全てを知ってしまった彼は、その究極理を己の裡にしまい

          【随想】芥川龍之介『西方の人』①