潜在意識の顕現たる原初の言葉から構成される世界、そんな常人には見ることさえ叶わぬ世界を、多数の人間の認識が重なる共有フィールドに於いて言葉で示してみせる事が出来る、そんな超天才が、過去人類に数人存在した。イエスもその一人である。彼の説く「愛」とは、世界の真実の形を凡人にも分かるように加工した言葉であり、その本質は人間同士の親近感情や信頼関係のような慎ましいものではなく、もっと大きな宇宙全体を貫く根本原理のようなものである。全てを知ってしまった彼は、その究極理を己の裡にしまい込むのではなく、寧ろなるべく多くの人間と共有しようと努力した。人間の奇跡を示し、人間の不正を暴き、狭小な人間社会に蔓延る真理に対する偏見を正そうと試みた。今もそうだが、彼が生きた当時も、究極理を説明するに足る言語は存在しなかったし、彼の言葉の本質を理解出来る人間は弟子の内にさえ居なかった。彼は深い洞窟の闇より恐ろしい孤独の中に唯独り居て、それでも懸命に声を上げ続けた勇気の人であった。つまり、彼もまた彼と同じく阿呆であった。