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言葉と物

言葉はいつも心を置き去りにする
言ってしまうと
言いたかったことではなくなる
言いたいことは心に残ったままだ

「こと」とは何か
物事ものごとの「事」のことか
「言葉」の「こと」も
同じ「事」か
では「言葉」の「葉」とは何か
葉っぱのことか
あるいは花びらのことか
そう言えば
話に花が咲くという言い方がある
そうすると
「言葉」とは
葉っぱのように生えた物事を
花びらのように開くということか
開くとは
明らかにするということか
なのになぜ
口から出た途端
言葉は心から離れてゆくのか
話すということは
「離す」ということか

ホメロスは言った
「翼ある言葉」と
言葉は風を切って飛び立ち
翼をもがれて墜ちてゆく
ホメロスはどこまで知っていたのだ
2800年も前に

私は始めるつもりだ
通信の途絶えた圏外で
オデュッセウスのように
辛抱強く
墜ちた言葉を回収し
心の継ぎ目を探す
場所はそこにしかない

 (詩集『フンボルトペンギンの決意』第4章「五つの真実」より)


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