建築防災コンサルタント よもやま話vol.8-避難安全検証法の「種類」について-
検証法にはいくつか種類があります。今回はこれらの種類について書いてみましょう。
検証法の種類の一覧がvol.1でも登場したこちらの表です。
横軸が検証・計算の方法で、縦軸が検証法を適用する範囲です。
1.検証・計算の方法について
ルートA・・・検証法を採用しない従来からの設計方法を「ルートA」あるいは「仕様規定」と呼びます。建物で火災が起こっても、そこにいる人が煙やガスに捲かれずに避難できるようにこんな仕様で設計しましょう、というものです。設計の仕様書ですね。
たとえば、排煙設備について500平米以内ごとに50cmの防煙垂れ壁で区画して、排煙窓や排煙口を設置しましょう、という「仕様」です。
ルートB1・B2・・・平成12年(2000年)に登場した避難安全検証法が「ルートB」で、令和3年(2021年)に「ルートB2」が登場して「ルートB1」と言い替えるようになりました。ルートB1、B2とルートCを併せて「性能規定」といいます。
仕様規定は一定の仕様にしておくことで安全性を担保しようというものですが、性能規定は一定の仕様に依らなくても、仕様規定と同等以上の性能があればOKというもので、ルートB1、B2ではその性能を建築基準法の告示に書かれている計算式によって計算します。ルートB1とB2の違いはまた次回解説しますね。
ルートC・・・ルートB1,B2はあくまで建築基準法の告示に定められた計算方法に従って火災時の避難安全性能を検証します。通常の建築確認申請で審査を受けられるため、汎用的に広く採用することができますが、ルートB1、B2が想定していない用途や複雑な空間など告示の計算の前提条件を超える建物には採用することができません。
たとえば用途が児童福祉施設である場合や、学校などの竪穴区画を適用除外したい吹き抜け空間が火災室となる場合は、ルートCで解く必要があります。ルートCは自由度の高い空間を実現することができますが、かなり専門的な知識が必要であり時間とコンサル費用を見込む必要があります。
イメージとしてルートBが既製服、ルートCはオーダーメイドという感じですね。
2.検証法を適用する範囲
区画避難安全検証法・・・区画避難安全検証法は令和2年(2020年)に登場しました。簡単に言うと準耐火構造の壁と遮煙性能のある建具で囲まれた範囲に限定して検証法を適用し、排煙設備と内装制限を適用除外できるもので、たとえば大きな工場で外壁に面している作業場は排煙窓が取れるけれども、外壁に面していないまん中の作業場は難しいというプランで、その作業場を準耐火構造の壁で囲って、扉やシャッターを遮煙性能のある防火設備とすることで、まん中の作業場のみ無排煙にする、ということができます。
とても使い勝手がよく、ドラッグストアの売り場だけだとか、既存建物で排煙が取れない室だけ区画避難など、ここ数年で採用が拡がっています。
階避難安全検証法・・・平成12年(2000年)に登場したのが階避難安全検証法と全館避難安全検証法です。このうち階避難安全検証法は建物の階単位で検証法を採用し、排煙設備のほかに直通階段までの歩行距離などを適用除外する目的で広く採用されています。適用する範囲は階単位で、計算が成立すればその階にある居室・室をすべて無排煙にしたり、直通階段を減らすことができます。
全館避難安全検証法・・・全館避難安全検証法は建物全体で検証法を採用します。まずすべての階で階避難安全検証法をクリアさせたうえで、その建物にいる人がすべて屋外に避難し終えるまでの間、建物内にある吹き抜け・階段・エレベーター・エスカレーター・ダクトシャフトなど竪穴に煙・ガスが入り込むことがないように設計します。建物の規模が大きくなればなるほど避難時間が長くなるため、竪穴の前に前室を設けて防火設備を設置したり、部分的に排煙設備を設けるなどかなりの対策を講じる必要があります。ただし全館避難安全検証法をクリアできれば、排煙設備などに加えて竪穴区画、避難階段の幅などを適用除外できるため、プラン面・コスト面で大きなメリットがあります。
3.検証法はマトリックス
このように検証法は、検証・計算の方法×検証する範囲のマトリックスで、ルートCを含めると9パターンもあります。複雑ですよね。。。
しかしこれらを新築、既存の建物にうまく活用することで数百万~数千万のイニシャルコストやランニングコストのコストダウン、メンテナンスの軽減、自由なデザイン、空間の有効利用などさまざまなメリットを得ることができます。ぜひ検証法にチャレンジしてみてください。
もう少し詳しい情報は、こちらをぜひご覧ください!
「株式会社 イズミコンサルティング - 避難安全検証法とは」
バックナンバーはこちらからどうぞ↓