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甘い果実ep.10

甘い果実の彼は、あれから毎日私の様子を見に保健室と自宅へ来てくれる。

でも私に触れることはない。ただ一緒にご飯を食べて…帰るだけ
 
「体の調子はどう?」

「うん、だいぶ良いよ。早崎くんは?」

「ん?何が?」

「勉強」

「ん?何それ?笑」

「何それ?じゃないでしょ?笑。大学は?今週で夏休み終わるんだよ?」

「じゃさ、今週末の夏祭り行こうよ」

「話をはぐらかさないで」

「大学行くかどうか決めてない」

「どうして?」

「やりたいことが見つかってない」

「そうなんだ」

「それより、夏祭り行こ?」

「行けないよ」

「なんで?」

「ん?…うん」

「どうした?」

「彼に会う…」

「んで?」

「別れてくる…」

「どんなこと言われても?」

「うん。もう好きじゃないし」

「大丈夫?」

「うん。大丈夫」

「んじゃさ、帰ったら連絡ちょーだい」

「………うん」

帰り際、玄関を出る時に振り返って私を抱きしめてくれた。
 
「どうしたの?」

「いや、なんとなく…」

「大丈夫だよ」

「うん。んじゃ、また明日」

「うん、また明日…」

彼と私の世界は確実に近づいていた。養護教員と生徒という関係が崩れるのも時間の問題。自分でも気づいていた。
 
週末…
 
私は長かった不倫に終止符を打った。思っていたより簡単だった。簡単すぎて虚しくなった。

早崎くんに電話するように言われてたけど、一人で飲みたい気分だったのでお祭りの提灯の灯りを遠くに見ながらお酒を買って、自宅で飲むことにした。ワインを3本空け、チューハイ、ビール、カクテル…飲めるお酒は飲んだ。なのに…酔えない
 
ブーンブーンブーン

「はい…」

電話の向こうで甘い果実の彼が今から行くからと言ってた。暫くすると玄関のチャイムが鳴った。フラフラと玄関へ行き…鍵を開けると

額に汗を滲ませた早崎くんが心配そうに私を見つめている
 
「なんでまた飲んでんの?」

「わからない…」

彼の首に腕をまわし汗ばんだ頬に熱い私の頬をくっつけると彼の腕が私の体を包み込んだ
 
「別れたの?」

「うん…」

「そっか…キスして良い?」

「うん…」

彼の唇が私の唇に軽く重なる。優しくソッと柔らかな舌が唇の隙間から口の中へと入ってきて、まるで生き物のようにまさぐる。彼の首に腕を回したままの私を壁際に立たせ何度も顔の向きを変え奥深く舌を絡ませる。2人の唾液が混じり合い唇の端から溢れた。もう止められなかった…私は味が知りたくて禁断の果実を口にしたのだ。

つづく

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